トランプ政権発足の年、アカデミー賞で前代未聞の取り違い案件発生

安田 佐和子

今年も、「まさか」の展開が続きます。今回は、政治でなくハリウッドで発生しました。

第89回アカデミー賞では、1967年公開の犯罪映画「俺たちに明日はない(Bonnie and Clyde)」のフェイ・ダナウェイとウォーレン・ビーティーのコンビが作品賞をアナウンスする栄誉に浴しました。フェイが発表した受賞作品は、前評判の高かったミュージカル映画「ラ・ラ・ランド(La La Land)」。同作品の監督や主演女優賞を獲得したエマ・ストーンなどが舞台に上がってから約45秒後、アカデミー史上世紀の大ハプニングが発生します。実は、ゲイの黒人男性の葛藤と生き様を描く「ムーンライト(Moonlight)」こそが受賞作品だったのです。間違いに気づいた「ラ・ラ・ランド」のプロデューサーのジョーダン・ホロウィッツとウォーレンは、同作品のプロデューサーであるフレッド・バーガー氏の受賞演説を遮り訂正に入りました。

映画賞に「ラ・ラ・ランド」が呼ばれた後、同作品関係者は喜び勇んで舞台へ駆け寄ったんでしょう。

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訂正するジョーダンとウォーレン。歴史の残る瞬間です。

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(出所:WSJ/Twitter, Independent

2017年に入って偽ニュース(fake news)が後を絶ちませんが、アカデミー賞の舞台では「This is not a joke」のフレーズが溢れていました。決定的瞬間の動画は、こちらでご覧下さい。

プレゼンターだったウォーレンいわく、彼が開いた封筒の中には主演女優賞に輝いた「エマ・ストーン、ラ・ラ・ランド」と書かれていたため、フェイのアナウンスに違和感を覚えず、訂正が遅れたそうです。結局、アカデミー賞の結果集計を管理する会計事務所プライスウォーターハウス・クーパーズは間違いを認め謝罪しました。最初はウォーレンがなぜすぐに取り違いにもっと早く気付かなかったのかと批判する論調がみられましたが、手渡された封筒が違っていたらどうしようもありませんよね。

司会進行役を務めていたコメディアンのジョン・キンメルは、2015年にミス・ユニバースを間違えて発表し総スカンを食らったスティーブ・ハーヴェイのせいだとジョークに変えようとしましたが、後の祭りです。

映画「ラ・ラ・ランド」にケチをつける気持ちはありませんが、トランプ米大統領の誕生で米国が二極化するなか、アカデミー作品賞が売れない女優とジャズ・ピアニストのラブストーリーというのも、腰砕けの感は禁じ得ません。しかもトランプ政権は23日、オバマ前政権が公立学校にトランスジェンダーの生徒が自分の望むトイレや更衣室を利用できるよう要請した通達を破棄し、今回の受賞につながったのでしょう。

今年のアカデミー賞で最多部門を獲得したのは「ラ・ラ・ランド」で、ダミアン・チャゼル監督は弱冠32歳で監督賞を受賞し最年少記録を塗り替えています。そのほか主演女優賞、脚本賞、歌曲賞、作曲賞、撮影賞を勝ち取りました。

ブラッド・ピットが製作総指揮を務めたことでも知られる「ムーンライト」は作品賞のほか脚色賞、マハーシャラ・アリが助演男優賞を射止め3部門に輝きました。ブラッド・ピットは、役者より裏方にまわると格段に良い仕事をしますね。このほか、2013年にアカデミー作品賞を獲得した奴隷制時代の悲劇を取り上げた「それでも夜は明ける(12 Years Of Slave)」は、2014年のアカデミー賞で脚色賞、助演女優賞、作品賞をさらっていきました。公民権運動を描いた力作「グローリー/明日への行進」は2015年に主題歌賞を獲得。黒人の歴史から外れ、一転して2016年は金融危機で勝ち抜いたアウトローに焦点を当てた「マネー・ショート 華麗なる大逆転(The Big Short)」で脚色賞を手中に収めています。これだけ製作側としてオスカーをゲットしていれば、俳優ではもういらない?

(カバー写真:Robert Couse-Baker/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年2月27日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。