先日、羽田から上海虹橋空港に到着し、通関手続きをしていたときのこと。隣の窓口で外国人の男性が入管の職員とビザを巡ってやり取りをしていた。よく聞いてみると、英語で「モーリシャスはビザなしのはずだ」と言っている。中国側の職員が「ビザがない」と突っ返そうとしたことに反論しているのだ。職員が同僚に確かめたところ、確かにビザ免除であることがわかり無事に通過できた。彼は係官に「You make me afraid」と言い、不快感を表していた。
以前からビザ免除の特別待遇を受けている日本人には縁遠い驚きだが、私はモーリシャスがビザ免除になっていることを初めて知って驚いた。それまで中国にビザなしで訪問できるのは、日本のほかシンガポール、ブルネイだけだと思っていた。
調べてみると、ここ数年の間、相互協定によって、モーリシャス、サンマリノ、セーシェル、バハマ、グレナダの計5か国がビザ免除となっていた。つまり中国人も相手国にビザなしで訪問できるということだ。モーリシャスは2013年10月からの措置で、おそらく入国者数が多くないため入管職員も知らなかったのだろう。
中国外交部がこの2月明らかにしたところによると、中国人は37の国家・地区で、イミグレでビザを取得することができる「Visa on Arrival」(アライバル・ビザ)の待遇を受け、11の国家・地区では片務的にビザ免除となっている。先進国の間ではまだ制約が多い。日本に比べれば微々たるものかも知れないが、着実に対外的な人的往来が活発化していることは間違いない。
「爆買い」現象を奇異な目で見ているだけの日本人は、その奥にある中国の現状に目が向いていない。一時帰国中感じたのは、日本社会が中国に対し、聞きたくない、見たくないと急速に関心を失っている状況だった。内向き志向は国際認識においてもガラパゴス化を招く。由々しき事態である。
グローバル化を議論することには熱心だが、隣国の現実から目を背けていてはまともな戦略は立てられない。日本はまだ世界第3の経済大国であり、中国は総体としては今年で間違いなく日本の3倍を超える規模に膨らんでいる。量だけではない。中国の若者は、単なるアニメブームを超えた日本への旺盛な関心を持っている。中国のメディアでは伝えられない、本当の日本を知りたいと思っている。ネット規制はあっても、ファイヤーウォールを飛び来えるソフトを駆使し、世界の情報をかき集めている。年間1億人の中国人が海外に行き、1億人の外国人が中国を訪れる時代なのだ。
日本の中国研究者がしばしば中国訪問中に拘束され、関係者の間に「怖くて中国に行けない」との不安が広がる。確かに底知れない闇を抱えた一党独裁国家である。だが中に飛び込めば見えてくるものも多い。危ないかどうか、自分の目で確かめなければ何もわからない。「怖くて行けない」と尻込みしている中国研究者が、公の場では臆面もなく中国情勢を語っているのは滑稽だ。行きもしないで、自分の見聞もないまま、見てきたかのような論評をするいわゆるチャイナウオッチャーは論外である。
タコツボに入って、人のあら捜しをしていても取り残されるだけだ。外野で野次を飛ばしているのではなく、グラウンドに降りてプレーをしなければ、だれも認めてくれない。そろそろ目を覚まさないと、取り返しのつかないことになる。
編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2017年2月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。