日銀は主にその月の最終営業日に「当面の長期国債等の買入れの運営について」を発表している。2月28日の夕方に発表された「当面の長期国債等の買入れの運営について」には、これまで回数だけだったものから、具体的な国債の買い入れ日も表記された。
日銀のサイトにある「国債買入れ」
https://www.boj.or.jp/mopo/measures/mkt_ope/ope_f/index.htm/
この日銀の国債買入を巡って、国債を中心に売買している債券市場参加者が、調節を行っている日銀の意図が読めず、1月から2月にかけて市場は動揺し、その結果、日銀も動揺することになった。それが今回の日程発表の要因となっていた。この間に何かあったのかを確認したい。
そもそもの発端は昨年12月30日に発表した「当面の長期国債等の買入れの運営について」での変更点にあった。11月30日に発表したものでは「オファーの回数」が1年超5年以下であれば11月30日分は「6回程度」となっていたものが、12月30日分では「5~7回程度」と変更されていた。5年超10年以下も「6回程度」から「5~7回程度」に、10年超は「5回程度」が「4~6回程度」となっていた。
いったいこれは何のための変更なのか。それがわかったのが1月25日の日銀の国債の買い入れにおいてであった。25日の日銀の国債買入の市場参加者の予想は、残存10年超25年以下と残存期間25年超に加えて「1年超3年以下」、「3年超5年以下」も含まれていた。1年超3年以下と3年超5年以下は一応セットとなっており、1月は25日までに4回の買入が実施されていた。昨年12月には6回実施されており、1月も当然6回あると市場参加者は読んでいた。ところが25日に「1年超3年以下」、「3年超5年以下」がオファーされなかったことで、27日に1年超3年以下、3年超5年以下の買入あっても、もう一日がみつからない状態となってしまったのである。
これが月初めや月半ばであれば、調整が利くかもしれないが、1月も押し迫っている上に26日には流動性供給入札、30日には2年国債入札、30~31日は日銀の金融政策決定会合が予定されていたことで、市場参加者が、えっとなったのである。現実に1月の「1年超5年以下」の国債買入は1回分スキップされた。
日銀はこのスキップを意識していたため、「オファーの回数」の表現を変更したとも言える。来年度の国債発行額は中期ゾーンを含めて減額される。日銀にとっては巨額の国債買入を継続するのは次第に困難になることが予想され、そのため事前に手を打ったとの見方もできよう。ただし、市場の動揺を抑えるためか「5年超10年以下」について日銀は27日に4500億円と400億円増額させてきた。
ところが1月31日に発表された「当面の長期国債等の買入れの運営について」では、5年超10年以下の2月初回分では4100億円と元に戻されていた。これから伺えることは5年超10年以下の400億円の増額は中期ゾーンを1回スキップしたことによる一時的な金利上昇(もしくはその懸念)に対応するものであったといえる。
長期ゾーンの増額が一時的なものであることがわかり、市場は日銀のイールドカーブコントロールによる長期金利の居所を改めて探りに来た。2月2日に10年債利回りは上限とみられた0.1%を越えてきた。長期金利が0.1%という節目を越えたことで、日銀がどのような対応を行うのかが焦点となった。3日の10時10分の日銀による国債買入のオファーでは残存期間5年超10年以下の買入金額が4500億円となった。つまり5年超10年以下を4500億円に戻してきたのである。
それでもこの日の国債は急落した。これは5年超10年以下のところの増額が前回と同様の400億円にとどまったこと(最大5300億円まで可能)、さらに金利を抑えたいのであれば、ここは普通に超長期ゾーンをオファーすべきところ、それがなかった。これによりある程度の10年債利回りの上昇を日銀は容認しているとものサインとも受け止められ、債券先物が大きく売られ、10年債利回りは0.150%まで上昇したのである。
日銀はもしかすると400億円程度の増額で長期金利の上昇にブレーキを掛けられると信じていたのかもしれない(状況を考えるとそれはかなり債券市場の地合の読み方を間違えたともいえる)。日銀が読み間違えていたのであれば、10年債利回りの0.15%までの上昇は想定以上のピッチとなる上、ここで歯止めを掛けておかないと、0.2%あたりまで簡単に上昇するリスクが生ずる。
そこで日銀はこの日の12時半というイレギュラーな時間帯に「天下の宝刀」ともいうべき「指し値オペ」をオファーした。11月17日に初めて実施された指し値オペは実勢利回りが指し値よりも低下したため応札額がゼロとなり、いわば空砲であった。しかし、今回の国債買入は、対象が残存期間5年超10年以下の固定利回較差は0.006%(前日の引け値対比)となり、10年利付国債345回でみた買入利回りは0.110%となった。前場の10年債利回りの引け水準が0.140%近辺となっていたので、今度は空砲ではなく実弾となった。これにより7239億円の買入を行った
さらに2月10日の国債買入では10年超25年以下の買入金額をそれまでの1900億円から2000億円に、25年超を1100億円から1200億円に増額している。そして2月は1年超5年以下の国債買入の回数を6回に戻した。日銀は国債買入の削減を意図していたとみられるが、むしろ指し値オペを含めて増額せざるを得ない状況となってしまったのである。
2月28日の夕方に日銀は「当面の長期国債等の買入れの運営について」を発表した。1月から2月にかけてのドタバタで少しでも不透明感を払拭させるため、今回からオペ通告日を事前に発表することになったとみられる。1年超5年以下の中期ゾーンは6回(1日、10日、15日、21日、29日、31日)、5年超10年以下の長期ゾーンも6回(3日、8日、13日、21日、29日、31日)。そして10年超の超長期ゾーンは5回(3日、8日、10日、15日、23日)となっていた。
1月は1年超5年以下の中期ゾーンは5回と12月の6回から減額したが、2月は6回に戻し、3月も6回となる。
そしてこちらも注目されていた3月初回の金額であるが、どうやら今回から初回のオファー金額は提示しないようである。買入日程の発表で不透明要素がひとつ減った格好ながら、金額に関しては不透明要素が増えた格好となる。ただし、1回あたりの上限については微妙な修正をしている。中期ゾーンの上限を下げた反面、長期と超長期はゾーンそのものを微妙に修正している。
市場に動揺を与えないためには国債買入額は結果として増額のままにせざるを得ない面はあるものの、4月以降の国債発行額そのものが減少することを考えるとむしろ減額する必要が出てくる。このため初回の金額については提示しなかった可能性もある。
実際に3月1日の日銀の国債買入オファーでは、1年超3年以下を3200億円(前回4000億円)、3年超5年以下を4000億円(前回4200億円)と減額してオファーしている。日銀は回数ではなく金額で修正してきた。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年3月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。