佐藤優氏と対談。この世界を知るための「教養」とは?

田原 総一朗

佐藤優さんという人がいる。佐藤さんは、僕がもっとも恐れ、尊敬する論客の一人だ。とにかく知識の量がすごい。それも単なる博識ではない。外交官として現場で身につけた知識、それも舞台の表と裏の両方の知識と、膨大な読書と研究で得た知識が結びついている。だから、この人の言葉には説得力があるのだ。

先日、その佐藤さんと長時間の対談をした。そこで僕は「佐藤優」流の物事の見極め方を徹底的に聞いた。混乱をきわめ、予測不能なこの世界を、佐藤さんはどうやって読んでいるのか。僕たちは何をすればいいのか、何を身につければいいのか、と。

いま、世界情勢は非常に見通しづらくなっている。例えば、イギリスのEU離脱、アメリカのトランプ大統領誕生はたいへんな衝撃だった。この2つの出来事について、僕は事前に知り合いの政治家や学者、ジャーナリストたちに聞いた。みな、「あり得ない」と答えた。ところが、「あり得ない」ことが現実になってしまったのだ。

かたや、中国やロシア、北朝鮮はどうか。これら近隣諸国がこの先どうなるのか、まったく予測することができない。その理由は、不確定な「変数」が無数にあるためだろうと僕は思っている。無数の「変数」を含んだ「世界方程式」を誰も解くことができない、それが、いまの時代なのだ。

このような時代だからこそ、「本質を見抜く力」が必要だ、と佐藤さんは答えた。具体的には、新しい「教養」だそうだ。例えば、これからの世界を読み解くならば、「10のキーワード」を押さえておけばいいという。これをもとに、無数の「変数」を整理しておけば、新聞、雑誌、テレビ、インターネット、そして書籍などからの膨大な情報に接しても、思考を整理して、理解が進むのだ。

詳しくは、『田原総一朗責任編集 オフレコ!BOOKSこの世界を知るための教養』(アスコム刊)として発刊されたので、ぜひ読んでみてほしい。ここでは、もう少し佐藤さんとの対談の中味について触れたい。

佐藤さんがあげた「キーワード」のひとつに、「グローバル化」がある。佐藤さんは、この「グローバル化」について、こう話す。「国のシステムには大きく3つの要素がある。第1に資本、第2に国家、第3に民族。資本が行き過ぎるとグローバル化になり、国家が行き過ぎると国家主義、民族が行き過ぎるとナショナリズム(民族主義・国家主義)や排外主義に陥る」国というのはこの3つの要素がバランスを取りながら成り立つのが理想だ。ところが、「世界中でグローバル化が先に進みすぎてしまった。そこで、ある国では国家が、ある国では民族が逆襲をはじめた」というのだ。

こう考えると、最初に挙げたトランプ大統領誕生の本質がみえてくるのではないだろうか。なぜ、アメリカ人が「グローバル化」に対して不満を爆発させ、トランプ旋風がおきたのかを理解できるだろう。

トランプ政権誕生やイギリスのEU離脱といった流れに、僕は強い危機感を覚えている。佐藤さんは、僕の危惧をズバリ、「新・帝国主義」というキーワードで表してくれた。このまま自国を優先させる考え方が進むと、「自国のプラスになる戦争は許容する」ということになる。第3次世界大戦も起こり得るのだ。

ただし、これからの戦争は、これまでとは様相が変わってくる。「自国第一で自国大事だから、徹底的に(戦争を)やって国が滅ぶ瀬戸際に追い込まれたり、核攻撃によって数十万人の犠牲者が出たりしかねない戦争はやらない」と佐藤さんは語る。このあたりが「新」帝国主義なのだ。AIやドローンなど、最新のテクノロジーを使い、限りなく小さい戦争を目指すのだ。

ほんとうに大変な時代になったものだ、と僕は思う。しかし、脅えてばかりいても始まらない。新しい「教養」を一人ひとりがしっかり身につければ、この複雑で予測不能な世界を生き抜くことができるだろう。そう、佐藤さんの話を聞いて確信した。


編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2017年3月6日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。