先の記事『米国での情報アクセシビリティ訴訟』で説明したとおり、米国では情報アクセシビリティに関する訴訟が多発している。障害者差別禁止を求める法律が存在するため訴訟は障害者に有利に決着し、企業は情報アクセシビリティへの負担を強いられる。しかし、これは単に費用要因となるわけではない。
聴覚障害者など音声での情報入手が困難な人々のために、YouTubeは2006年に字幕付与を始め、その後、自動付与に挑戦した。現在では毎日1500万人が自動字幕でYouTubeを楽しんでいる。しかし字幕は正確ではない。動画の”My heart was broken. I know yours is broken, too.”は”My heart was broken nose is broken too,”と表示されることもあるという。
2009年に自動字幕を導入して以来YouTubeは音声認識の機械学習を向上させようと研究開発を続けている。また、動画の制作者も字幕をチェックし、視聴者からの指摘もフィードバックされている。今では。英語、オランダ語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、日本語、韓国語、ポルトガル語、ロシア語、スペイン語で自動字幕が提供され、10億本の字幕付きビデオがあるという。
機械学習技術の向上は字幕の精度を高め、YouTubeが情報アクセシビリティ応える負担を軽減していく。情報通信技術の発展は急速だから自動字幕付与のように最初は荒唐無稽と思われた対応策もいつしか現実的なものになっていく。音声認識に関する機械学習の成果は、当然のことながら他の用途でも利用されるようになる。
米国の大学はMOOCsと呼ばれる、無料で利用できる教育コンテンツの提供に熱心である。ここでも情報アクセシビリティが求められる。3playMediaの記事では、多くの作業者がMITなどのコンテンツに手作業で字幕を付与する様子が写真付きで紹介されている。エンタテイメントに比べて教育は間違いへの許容度が低いから、今は人間が行っているのだろう。しかし技術の進展を考えれば、近い将来この分野も自動化されることは間違いない。
自動字幕では間違いが起きると躊躇する時代は終わりつつある。情報アクセシビリティの義務化は企業に負担をかけるとわが国では認識されているが、技術によって補うことが可能である。