大学による産学連携の課題と明るい兆し

文部科学省が『平成27年度 大学等における産学連携等実施状況について』を発表した。民間企業との共同研究費受入額が初めて450億円を超える、民間企業からの受託研究費受入額3年連続で100億円を超える、特許権実施等収入額が初めて25億円を超える、と報告は勇ましい。

しかし分析すると課題も見えてくる。

報告書には、共同研究と受託研究それぞれに、「相手先別実施件数及び研究費受入額の推移」表が掲載されている。受入額を実施件数で割れば平均額がわかる。共同研究の平均額は、民間企業相手で224万円、国274万円、独立行政法人等497万円、地方公共団体164万円、その他331万円、すべての平均値が250万円と計算できる。受託研究の平均額は、民間企業153万円、国1615万円、独立行政法人等1399万円、地方公共団体255万円、その他353万円、平均値が880万円になる。

共同研究と受託研究のいずれについても、民間企業からの受託額は国や独立行政法人に比べて低い。資金提供の目的に疑いがわくが、実際、理工系を中心に、民間企業が大学教員に毎年少額の研究費を「名刺代わり」に渡すという慣行が1980~90年代にはあった。未だに慣行が残り、人的つながりを維持するのが主目的という可能性がうかがえる。

民間企業が大学の研究力を評価し、望んで資金を提供するように変えていかなければならない。防衛省の安全保障技術研究推進制度は「軍事研究」と朝日新聞から批判されているが、防衛省の制度は資金提供の規模が年1千万円以上と大きい。研究には研究費が必要という当然の事情を考慮しないと、批判は表面を流れてしまう。

報告書からは明るい兆しも読み取れる。文部科学省は2016年に国立大学を「地域に貢献」する55大学、「全国的な教育研究」を実施する15大学、「世界で卓越した教育研究に特徴を持つ」16大学に区分した。今回の報告書には、「同一県内企業及び地方公共団体との共同・受託研究実施件数」の順位が掲載されている。それを見ると、「地域に貢献」する55大学の多くが順位表に登場しているのがわかる。

教員養成大学10校、医科大学3校は順位外だったが理解できる。それ以外で順位表から漏れたのは、小樽商科大、福島大、滋賀大、和歌山大の4校だけ。このうち和歌山大は特許実施料収入が多い大学として特記されている。「地域に貢献」すると指定された大学のほとんどが、指定前の2015年度(平成27年度)から地元の民間企業・地方公共団体と関係を築いていたとわかる。これらの大学には、地元地域との関係を「名刺代わり」を超えて強化していただきたい。