破産者等の失敗例から学ぶ「お金」の戦略

画像出典:写真AC(編集部)

よく「老後破産」という表現を耳にします。

「破産」というのはれっきとした法律用語で、個人の場合は借金が「支払不能」に陥った場合を「破産状態」といい、裁判所で破産決定が下さてはじめて「破産者」になります(ちなみに、法人の破産原因には「支払い不能」だけでなく「債務超過」もあります)。

ですから、いくら資産や収入が乏しくて生活が苦しくなっても、借金がゼロの場合や微々たるものである場合は「破産」には該当しません。
そこで、私が取り扱ったり相談を受けた個人の破綻原因(主に自己破産と債務整理)大まかにを分類すると、次のようになります。

1 事業の失敗

これには、自ら始めた事業の失敗と親や祖父母から受け付いた家業や会社の破綻があります。
あくまで伝聞ですが、米国では、事業の失敗回数が誇るべきキャリアになるそうです。「私は今まで10回も会社と倒産させてきたキャリアがある。だから今回は大丈だ。安心して投資してくれたまえ」と投資家にPRするそうです。

このように、事業の失敗は前向きな失敗であることが多く、経済環境の激変のように本人一人の責任に帰すべきでない場合も多いのです。

よく見られるケースをひとつ指摘するとすると、(私が見てきた範囲では)コスト意識が低過ぎて事業を失敗する人が多いように思えます。
身近な業種である小売店や飲食店を例にとると、店構えや内装を身の丈以上に立派にして従業員も必要以上に抱えるようなケースです。収入見通しが甘かったのか、月々の材料費や人件費や家賃負担の見通しが甘かったのか…「想像以上に重すぎました」と顔を歪めて苦悩する人を何人も見てきました。

2 連帯保証人

一般の方々が想像しているよりもはるかに多いのがこのパターンです。
親戚・知人に頼まれて連帯保証人になり、借り手の破綻の煽りを受けてドミノ倒し的に破綻に至るケースです。

法律的には、連帯保証人は借り手本人と全く同じ責任を負うのです。
自分が借りたのと同じだと考えて差し支えありません。
親戚・知人の「絶対に迷惑はかけないから」という言葉は決して安易に信用してはなりません。

3 依存症

ギャンブルや買い物などの依存症で、カードも使えなくなって消費者金融等から借りまくって破綻するというご存じのパターンです。意外かもしれませんが、(少なくとも私の経験では)上記2つに比べるれば数的にはかなり少ないのです。法律事務所のドアを叩く前に親や親戚が尻拭いをするからかもしれませんが…。

ただ、このパターンの破綻者が結婚している場合は、ほぼ全員が離婚します。「免責決定が出れば債務か消えるし(私からの)受任通知が届けば消費佐金融からの督促もなくなりますよ。何も離婚までする必要はありません」と説明しても、必ずと言っていいほど離婚します。

まあ、相手方配偶者の身になれば、破産申立や債務整理をきっかけに、「依存症の夫(妻)」ときっぱりと縁を切りたいのかもしれません。「弁護士のところまでは一緒に行ってやる」ということで、費用は手切れ金代わりなのかもしれませんね。

5 住宅ローン

従来から割合的にはかなり少ない方ですが、聞くところによると昨今は増えているそうです。
勤め先の破綻、リストラ等、予想していた収入が確保できずにローンの返済が滞ってしまうのです。
よくよく考えてみれば、これは至極当然のことで、今の時代、20年先や30年先までの収入が確実に見込める人なんて滅多にいません。

大企業とて破綻する時代ですから、30年先まで同じ(もしくはそれより高い)所得が見込めると思うこと自体が楽観的過ぎるのです。

長谷川景太郎氏がご著書で「住宅ローンの3分の1が延滞を起こしている」と書いていますが、低成長マイナス金利の上、経済環境や社会環境が激変している今日なら十分納得できる数値でしょう。

ファイナンシャルプランナーの方々に相談すると、「月々の返済は〇万円以内に」とアドバイスしてくれることが多いようですが、私の感覚からすれば「アドバイスの6割、せいぜい8割以内」と見積もった方が安心です。

もちろん、今の世の中でも公務員やメガバンクのように手厚い身分保障のある職場も存在します。
某メガバンクに勤める私の知人は、何十年か前に心身の疾患を発症したものの、ほとんど負担のかからない部署に20年以上ご同輩と一緒に置いてもらい、きちんと給料をもらっています。また、かつて頻繁に刑事被告人の接見に赴いた警察署の留置係の人は、「心臓を悪くしたので負担の少ない”ここ”に回してもらったんですよ。いやあ公務員で助かりました」と言っていました。

もっとも、こういった恵まれた職場にいるからといって安心するのは禁物です。メガバンクが潰れる時代が来るかもしれませんし、公務員のリストラが容易になる可能性だって十分あるでしょう。現状がいつまでも続くなどとは決して考えないことが肝要です。

このように見てくると、(起業のように借入金を上回る成果が期待できる場合を除けば)借金は極力しない、今ある借金は前倒し的に返済していくというのが破綻を免れる一番の近道です。

なぜなら、お金を貸す側は(慈善活動を除外すれば)ビジネスでやっており、あなたにお金を貸すことで利益を得ているのです。いくら低金利に思えても、お金のレンタル料としての富は日々着実にあなたから貸し手に移転しているのです(これは賃貸物件も同じです。レンタル料という富が、あなたの懐から貸し手の懐に移転しているのです)。

カードのリボルビング払いは年利にすると15%になると言われています。単なる分割払いだと考えるのは大間違い!年15%のレンタル料が確実にカード会社に払われているのです。

ごくごく単純に言ってしまえば、借金や手数料という形で調達してきたお金のコストを上回る効用がなければ「確実に損をしている」ことになるのです。(手数料を含めて)年1%で借りたのであれば、年1%以上の効用アップが必要です。

1%の金利の借金があるのに0.01%の定期預金を持っているのは、日々寝ている時間にも着実に損をしていることなのです。逆に、1%で借りて3%で運用できれば大成功です(無借金でいける企業が敢えて借金をするのは、こうしたレバレッジ効果を見込むからです)。

ということで、できことなら大きな借金は避けて通ること。返済可能であればどんどん返済していくことが大原則です。例外はレバレッジをかけられるような借り入れだけです。(例えば、アメリカの一流ビジネススクールに留学すれば向こう10年間の年収が確実に倍になるのであれば、借り入れをしてでも留学するという手はあるでしょう)。

くどいようですが、借金は365日24時間絶え間なく利息というマイナスの富を生み出します。それを上回る効用を作れないのであれば…借金を慎むべきだというのは小学生にでもわかる理屈なのです。

本当にあったトンデモ法律トラブル 突然の理不尽から身を守るケース・スタディ36 (幻冬舎新書)
荘司 雅彦
幻冬舎
2016-05-28

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年3月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。