トランプ政権発足で、雇用統計は再び”グレート”に

米2月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比23.5万人増と、市場予想の20万人増を上回った。6ヵ月ぶりの高水準だった前月の23.8万人増(22.7万人増から上方修正)と、ほぼ変わらず米2月ADP全国雇用者数や人材派遣会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマス社が発表した2月の採用予定数で明らかになった通り、1月に続き足元のレンジを超える水準を示す。JPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)はトランプ米大統領が「アニマル・スピリッツを目覚めさせた」と発言したように、自動車メーカーを中心に大手企業が続々と設備投資計画や採用計画を発表。完全雇用が近づくなか、採用が出遅れ気味だった財部門(製造業、鉱業、建設)が牽引した。過去2ヵ月分は、0.9万人の上方修正(2016年12月分が15.7万人増→15.5万人増)だった。12〜2月期平均は20.9万人増で、2016年の平均17.6万人増をを超え、景気回復サイクルに入って最も強い経済成長率を遂げた2015年平均の22.9万人増を視野に入れた。

NFPの内訳をみると、民間就労者数が前月比22.7万人増と、市場予想の21.5万人増を上回った。前月分の22.1万人増(23.7万人増から上方修正)を超え、2016年6月以来の高い伸びを遂げている。ただし民間サービス業は13.2万人増と、前月の15.0万人増(19.2万人増から下方修正)に届かず。セクター別動向では1月に2位だった教育/健康が1位へ返り咲いた、専門サービスは前月と同じく2位、娯楽/宿泊も1月に続き3位。政府の伸びが縮小したが、これは米大統領令で国防を除く政府職員の採用を凍結した影響を反映したとみられる。詳細は以下の通り。

(サービスの主な内訳)
・教育/健康 6.2万人増>前月は2.1万人増、6ヵ月平均は4.9万人増
(そのうち、ヘルスケア/社会福祉は3.3万人増>前月は2.6万人増、6ヵ月平均は3.6万人増)
・専門サービス 3.7万人増<前月は4.6万人増、6ヵ月平均は4.6万人増
(そのうち、派遣は0.3万人増<前月0.7万人増、6ヵ月平均は0.4万人増)
・娯楽/宿泊 2.6万人増>前月は2.4万人増、6ヵ月平均は2.1万人増
(そのうち食品サービスは1.7万人増、2016年平均の2.3万人増を下回り鈍化モード継続)

・卸売 1万人増>前月は0.6万人増、6ヵ月平均は0.6万人増
・輸送/倉庫 0.9万人増>前月は1万人減、6ヵ月平均は0.4万人増
・その他サービス 1.6万人増>前月は1.7万人減、6ヵ月平均は0.3万人増

・政府 0.8万人増<前月は1.7万人増、6ヵ月平均は0.6万人増
・金融 0.7万人増<前月は3.2万人増、6ヵ月平均は1.3万人増
・情報 0.1万人減<前月は±0万人、6ヵ月平均は±0万人

・公益 0.1万人減<前月は±0万人、6ヵ月平均は±0万人
・小売 2.6万人減<前月は4.0万人増、6ヵ月平均は1.6万人増

2月は財生産業の伸びが目覚ましく前月9.5万人増もの急伸を見せ、少なくとも2000年以来の高水準を達成した。前月の5.4万人増(4.5万人増から上方修正)を含め、3ヵ月連続で増加している。温暖な気候を追い風に建設が6ヵ月連続で増加し2006年2月以来の増加幅を記録、製造業も3ヵ月連続で増加しただけでなく1年ぶりの強い伸びを示した。鉱業は原油価格が2015年半ば以来の水準で安定推移するなかで、4ヵ月連続で増加し少なくとも2000年以来の高水準を叩き出した。

(財生産業の内訳)
・建設 9.5万人増>前月は5.4万人増、6ヵ月平均は3.4万人増
・製造業 2.8万人増>前月は1.1万人増、6ヵ月平均は0.6万人増
・鉱業/伐採 0.9万人増(石油・ガス採掘は0.2万人の増加)>前月は0.3万人増、6ヵ月平均は0.1万人減

NFP、2ヵ月連続の20万人乗せは、2016年のホリデー商戦以来。

nfp
(作成:My Big Apple NY)

平均時給は前月比0.2%上昇の26.09ドル(約3,000円)と前月(0.1%から上方修正)と変わらず、ただ市場予想の0.3%だには届いていない。前年比では2.8%上昇し、2009年4月以来の力強さを遂げた2016年12月の2.9%に接近した。

週当たりの平均労働時間は34.4時間と、市場予想と前月に並んだ。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は40.3時間と前月の40.2時間を上回りつつ、約7年ぶりの高水準を遂げた2014年11月の41.1時間が遠い。

失業率は4.7%と、市場予想に並び4ヵ月ぶりの高水準だった前月の4.8%を下回った。景気後退以前の2007年8月以来の水準まで改善が進んだ2016年11月の4.6%に接近し、同年12月米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーによる2017年末見通しから距離を開けたままだ。マーケットが注目する労働参加率は63.0%と、前月の62.9%を超えただけでなく原油安が開始する前の2014年3月以来の63%台に乗せた。労働参加率の改善にも関わらず失業率は低下し、労働市場に復帰した人々が就職に成功した様子が伺える。なお労働参加率のボトムは2015年9〜10月で62.4%と、1977年9月以来の低水準だった。

失業者数は前月比10.7万人減と1月から減少に反転、失業率の低下を促した。雇用者数は44.7万人増と前月の3.0万人減から大幅に改善。 就業率は60.0%と、前月の59.9%を超え2009年2月以来の高水準を果たした。

フルタイムとパートタイム動向を季節調整済みでみると、フルタイムは前月比0.2%増の1億2,503万人と4ヵ月連続で増加した。パートタイムは0.5%増の2,755万人と、増加に反転。増減数ではフルタイムが32.6万人増、パートタイムは14.9万人増となる。

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間雇用者数が前月から若干増加したため、前月比で0.1%上昇し6ヵ月連続で伸びた。平均賃金の伸びは変わらず、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比0.4%上昇し、前月の0.6%以下ながら良好な伸びを続けた。

イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長のダッシュボードに含まれ、かつ「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全失業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。

1)不完全失業率 採点-○
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている不完全失業率は9.2%と、2016年12月に続き金融危機前にあたる2008年4月以来の最低を更新した。ムニューシン米財務長官候補が指名公聴会後に書簡で重視すると明らかにしたU-5すなわち縁辺労働者を含む失業率は5.7%と2007年11月以来の水準へ再び改善した2016年12月と一致し、前月の5.8%から改善した。

2)長期失業者 採点-○
失業期間の中央値は10.0週と前月の10.2週以下となり、再び2008年11月以来の10週割れに接近した。平均失業期間は25.1週で変わらず、2009年7月の数値に並んだ。27週以上にわたる失業者の割合は23.8%と、前月の24.4%を下回り2009年2月以来の水準まで改善が進んだ。

3)賃金 採点-△
今回は前月比0.2%上昇、前年比は2.8%上昇し2009年4月以来の高水準だった前月の2.9%に接近した。生産労働者・非管理職の平均時給は前月比0.2%上昇の21.86ドルとヘッドラインに並んだが、前年比は2.5%の上昇と1月の2.4%を超えたが管理職を含む全体の水準には届かず。管理職を含めたヘッドラインにも届いていない。非管理職・生産労働者の賃金は、2016年10月からの流れを引き継ぎ管理職を合わせた全体を下回った。

平均時給、前年比では再び生産・非管理職の労働者が管理職を含めた全体に一歩及ばず。

wage
(作成:My Big Apple NY)

4)労働参加率 採点-○
労働参加率は63.0%と原油安が開始する前の2014年3月以来の63%台に乗せたが、金融危機以前の水準である66%台は遠い。 軍人を除く労働人口は0.3%増の1億5,226万人と、4ヵ月連続で増加した。労働参加率が改善した通り、非労働人口は0.2%減の9,419万人と2ヵ月連続で減少した。

ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、結果を受けて「力強い雇用統計で、3月利上げの道が開く(’Strong Jobs Data Clears Way for Fed Rate Increase)」と題し、3月利上げの決定打と報じた、

バークレイズのマイケル・ゲイピン米主席エコノミストは、就業者数を振り返り「就業者の加速を示さず、過度に楽観的となる必要性を感じない」とのコメントを寄せた。製造業など財部門が好調だったものの、「サービスの鈍化が続いている」ためだ。

——米1月雇用統計・NFPは見事な増加を果たし、2月末からFed高官が3月利上げキャンペーンを張った理由が伺えます。労働参加率が上昇したにも関わらず失業率は低下し、文句なしの好結果です。賃金の伸びも、悪くありませんでした。米株の上げ幅が小幅にとどまる理由は、3月利上げだけでなく年4回の利上げがちらついたせいではないでしょうか。

(カバー写真:Chris & Karen Highland/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年3月10日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。