提案者が語る地方創生人材支援制度の狙いとこれから

ずっーとお世話になっている「毎日フォーラム」3月号巻頭に、北海道天塩町の齊藤啓輔副町長(35歳、外務省)、秋田県湯沢市の藤井延之副市長(35、総務省)とともに、「地方創生人材支援制度の狙いとこれから」について寄稿させていただきました。

2年間の集大成、ぜひご一読ください。

社会人1年目は愛知県庁に出向した。県には限られた期間しかいない。この機会を逃せば、二度とこのお祭りには行けないだろう、と思い1年間で50近くの祭りに参加した。

「地域には隠れたヒーローがたくさんいる」。祭りで体感したことだ。そして、「地域で活動する人はそのホームグラウンドで輝く」。総務省に戻ってからも毎週末、私費で全国を訪ね歩いた。

一方で、地域で活動する人は、往々にして、地元や業界のことしか知らないことにも気づいた。ミツバチが花粉を運ぶように、僕が出会った素敵な人や事例をつなげ新しい花を咲かせたい。地域のミツバチがライフワークになった。

地方創生が掲げられると、さまざまな政策を提案する機会に恵まれた。その一つが、小さな市町村に官僚らを派遣する地方創生人材支援制度だ。

今、地方に足りないのはお金ではなくて、人材です。中と外を繋ぐ人材なんです。東北の被災地には、国、企業、NPOから派遣された方々が大きな活躍をしています。過疎化や高齢化は、被災地だけでなく全国の問題です。全国に中と外をつなぐ人材を派遣しましょう」

15年4月、自ら第1号として鹿児島県長島町に派遣され、7月には副町長(地方創生担当)に選任された。長島町では、中と外を繋ぐ役割に徹して、さまざまな課題解決に取り組んでいる。

その象徴が、役場内に開設した阪急交通社長島大陸支店。九州八つ目の支店として、観光庁にも正式に登録した。人口1万人の長島町がまるで県庁所在地になった気分だ。観光振興は、役場職員が町の中だけで頑張ってもほとんど効果をあげない。外の人に伝えるために、大手旅行会社との連携が有効だ。

一方、旅行業界では、旅行商品の画一化やインターネットの普及により、オリジナリティーと付加価値の高い商品の開発が求められている。阪急交通社では、その対策の一環として、「地域超密着」を掲げることとし、新たな事業領域を構築することにした。

阪急交通社のプロフェッショナルが定期的に長島町を訪問。役場、商工会、漁協などさまざまなプレーヤーに、熊本県天草市の方々も加えて会議を開催し、「地元の人しか知らない長島・天草ツアー」を共同開発している。

高校・大学卒業後10年以内に地元に戻れば返済を全て補塡する「ぶり奨学金」や、全国で初めて漁協が設立した株式会社によるネット版道の駅「長島大陸市場」など長島町の地方創生の取り組みは非常に多岐にわたる。

共通するのは、行政だけが公共を担う時代ではないということを認識し、企業やNPOの専門性を生かす、知恵を出してお金を極力かけないということ。だからこそ圧倒的なスピード感で実現することができた。

例えば、「ぶり奨学金」では、地元の鹿児島相互信用金庫に超低金利の奨学ローンを作ってもらうとともに、返済を補塡する原資は町のさまざまな事業者などから寄付を募った。地域の人口が減少すると、経済は衰退してしまう。その危機感を共有することで、既に700万円以上の寄付が集まり、利用者は60人近くにのぼるが、財源の心配はなく、持続可能な制度だと言える。

みんながウィン―ウィンになる夢を描くことが大切だろう。

一方で、全国の派遣者を見渡すと、人材支援制度の課題も浮き彫りになった。一つは、受け入れ側の問題派遣者を既存の部長などに充てる例が散見されるが、それは今までも地元の人が十分に担っていたこと。外から来た人材には、中と外をつなぐ役割を担わせた方がいい。長島町では副町長2人体制が、大きな成果を挙げた。僕は通常の入札や決裁から外れているからこそ、町内外を自由に飛び回ることができる。

そして、旅費を十二分につけてもらった。受け入れ自治体の中には、派遣者が県庁所在地に行く旅費すら満足にないところもあると伺うが、それでは成果を出すのが難しいだろう。相手の懐に飛び込むからこそ信頼関係が構築されるのではないか。

もう一つは派遣者の問題。被災地と違い、自分から動かなければ企業などと連携できない。派遣される前から、官民の人脈を構築していなければ、短い期間で成果を出すのは難しいだろう。

人材支援制度を制度としてより良く定着させていくためには、中と外をつなぐ派遣者の役割を徹底して、派遣者に一定の旅費を支給する、そして、官民のサポートチームが定期的に巡回することが重要だろう。

特に小規模市町村では、国や県と比べて1人の職員が幅広い業務を抱えており、また住民と接する仕事も多いため、どうしても短期的な視点に陥りやすい。外から定期的にサポートチームが来ることで、区切りができ、中長期的な課題にも対応しやすくなる。長島町では、慶応義塾大学の玉村雅敏教授らがほぼ毎月来てくれたことが良かった。

ドリブルだけでは限界がある。社会というフィールドの中で最適なパスを出すプレーヤーを育て、彼らが活躍できる環境をつくっていくことが求められている

2人の文章は、ぜひ毎日フォーラムでご覧ください。
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湯沢市 × 長島町 自治体RAPが白熱!

前職は総理官邸で国際広報を担当。異色の副町長・齊藤啓輔さんが語る”スピード感あふれる”まちづくりの秘訣

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<井上貴至(長島町副町長(地方創生担当)プロフィール>
http://blog.livedoor.jp/sekainotakachan/archives/68458684.html

<井上貴至の働き方・公私一致>
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http://blog.livedoor.jp/sekainotakachan/archives/68581524.html

<井上貴至の提言>
杯型社会に、求められること
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編集部より:この記事は、鹿児島県長島町副町長、井上貴至氏のブログ 2017年3月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は井上氏のブログ『「長島大陸」地方創生物語~井上貴至の地域づくりは楽しい~』をご覧ください。