嘘と機械と男と女

以前、法廷での反対尋問を例にとって「嘘を見破る方法」の書籍を書きました。
幸いご好評をいただき、本書の関連でNHKを始めとするテレビ番組にも出演させていただきました。

その中にも書いたのですが、男性の嘘は容易に見破ることができるけど、女性の嘘を見破るのは極めて困難です。

具体例を挙げましょう。
犯人を目撃した証人が検察官の主尋問にスラスラと答えたとします(民事でも刑事でも、主尋問の事前準備をするので、主尋問では予習したとおりにスラスラ答えるのが普通です)。

予習した範囲内のことを反対尋問で尋ねても、スラスラ答えが出てくるに決まっています。そこで、反対尋問では予習の範囲外のことを尋ねます。

先程の目撃者の証言で考えると、「犯人を見たという道の右側にコンビニがありますよね」「犯行時刻はたいていコンビニの前に高校生がたむろしていますが彼らを憶えていますか?」と尋ねたりします。

証人が男性の場合はほとんどの人がうろたえてしまいますが、女性の証人だと「ああ、そう言えば思い出しました。A高校の生徒たちでしょう…なんだかガラが悪くて」と、瞬時にデタラメを創り上げてしまうのです。

もしかしたらデタラメではなく、別の日に目にしている光景を「犯行当日」の光景だと頭の中で勝手に重ね合せているのかもしれません。
いずれにしても、こういう臨機応変さは男性には到底真似ができないものだと私は思っています。

米国の高名な法廷弁護士のウエルマンも「よほど確信がない限り女性に対する反対尋問はしない方が賢明だ」という趣旨のことを述べています。

妻に問い詰められて夫が浮気を白状する時も、先程のように「予習の範囲外」の質問でボロを出すことが多いようです。

接待ゴルフに行ったと嘘をついている場合、「誰と一緒に、どこへ行き、誰が勝ったか、自分のスコアは…」というような事柄は「予習」をして帰宅するのが通常でしょう。

ところが、「帰り、〇〇道路を通ってきたんでしょう?」「そうだよ」「今日の夕方あの道路で事故があって大渋滞だったけど大丈夫だったの?」と「予習の範囲外」でカマをかけられたり、「クラブハウスの受付の人は女の人だった?」という想定外の質問をされると、たいていの男はうろたえます。

ところが、多くの女性たちは、こういうケースでも実に鮮やかにかわしてしまいます。たとえ自分の言っていることが客観的に矛盾していたとしても、自信たっぷりに確信を持ってしゃべられるので、次第に尋ねている男性の方が自信を失ってしまうようです。

男性が妻たちの嘘を見破るためによく使うのが「文明の利器」です。
電話を盗聴録音したりレコーダーを車の中に仕掛けたりした男性…私が担当した案件だけでも数人はいました。

それに対して妻はせいぜい携帯メールなどを撮影するくらいで、録音したものを持ってきた人は一人もいませんでした。

裏を返せば、「文明の利器」に頼らないと男性は女性の嘘を見抜けないのでしょう(「酒と泪と男と女」の歌詞みたいですね…少し古い?)「文明の利器」と言えば、最近の顔面認識システムでは83%位の確率で嘘が見抜けるようになったそうです。

刑事事件の取り調べの可視化が進んで、取り調べの様子を録画するようになっていますが、このシステムを利用されれば「嘘発見器」にかけられて取り調べを受けるのと同じではないかと私は危惧しています。

精度がもっと上がれば、法廷での反対尋問すら不要になる日が来るのかもしれませんね。

反対尋問の手法に学ぶ 嘘を見破る質問力 (ちくま文庫)
荘司雅彦
筑摩書房
2013-09-10

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年3月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。