多様化する採用活動に大学ができること

林 良知

2018年卒採用解禁

2018年卒業予定の大学生の就職活動がいよいよ本番を迎える。(実際はとっくに始まっているのだが・・)企業の採用説明会が3月に解禁となり、リクナビ、マイナビを始めとする就職情報会社による大規模な合同企業説明会、各大学でも学内合同企業説明会が連日開催されている。

ワークス見通し採用調査(リクルートワークス,2016.12)によると、民間企業では、2018年卒業予定の新卒採用(大学生・大学院生)は「増える」(13.5%)が「減る」(5.7%)を上回っている状況にあり(+7.8%)、その後、ブレグジット、トランプ大統領誕生等の不安定要素もあったが、引き続き堅調に推移する見通しである。

 

2018年卒採用動向のポイント

就職白書2017-採用活動・就職活動編-(リクルートキャリア、2017.2)によると、企業による2018年卒の採用活動の見通しで「増えると思う」と回答された割合が最も多かった項目は『新卒採用活動に係るマンパワー』(37.3%)となり、次いで『新卒採用コスト』(35.3%)であった。超売手市場が続く中、企業による人材獲得競争が激化していることがうかがえる。

一方で、企業が「減ると思う」と回答した割合が最も多かった項目は、『新卒採用活動の母集団』(30.4%)となり、次いで『選考応募人数』(29.8%)であった。

これまでの新卒採用の王道である、「母集団至上主義」(母集団を増やすことが内定者の質の向上、量の増加につながるという考え方)であれば、『新卒採用活動に係るマンパワー』や『新卒採用コスト』を増やせば、当然、『新卒採用活動の母集団』や『選考応募人数』は増えると考えるのが当然であるが、なぜ減少するのだろうか。

 

多様化する採用手法

ある大手企業の人事担当者は、「これまでのような大手就職ナビを使った採用方法では、プロ学生に代表される少数の上位学生を採用することは難しく、今後は様々な手段を通じてピンポイントで採用行う。一方、マス層についてはできるだけ効率的に採用する」と言う。

超売手市場の中、選考辞退人数や内定辞退人数が増えている(同データ)ために、これまでの「母集団至上主義」では学生の採用充足に対応できなくなっており、採用手法を多様化させている。結果として『新卒採用活動の母集団』や『選考応募人数』が減るということである。

多様化する採用手法の中で、近年、急速にその存在感を高めている採用手法ががスカウト型採用である。スカウト型採用とは、学生が企業にエントリーするのではなく、企業が学生の情報を事前に見た上でオファーを出すことにより、企業がピンポイントで学生を採用する方法で代表的なサービスとしては、OfferBoxニクリーチがあり、これらサービスの登録学生数は急激に伸びている。

また、これまで中途採用をメインに行われてきた社員や内定者のつながりを通じた紹介によって選考を進めるリファラル採用も、近年新卒採用でも存在感を見せている。

(参考)新卒採用にこそ、リファラル採用が必要だ。|@人事ONLINE

 

多様化する採用活動

採用手法の多様化に加えて、採用時期にも変化が見られる。通年採用、夏採用を増やすと回答した企業は昨年度より増加している(同データ)。最近は、ヤフー、リクルートライフスタイル、ADK等の大手企業が、新卒一括採用を廃止通年採用を導入したのは記憶に新しい。

常見が『「就活」と日本社会』(2015.1)で述べているように新卒一括採用は企業、学生の双方にとってメリットも大きく、ある脳科学者が主張するような「新卒一括採用廃止」に、すぐに繋がらないだろう。

しかしながら、服部が『採用学』(2016.5)で主張するように、これからの採用活動は、従来の方法を中心としながらも、「日本一短いES」、「統計解析を駆使したエントリーシート活用」、「顔採用」、等多様な方法で行われていくことは間違いない。

 

多様化する採用活動に大学ができること

これからますます多様化する採用活動の中で、大学は「顔採用」には「お顔作り実践講座」、「日本一短いES」には「ワンフレーズでES作成講座」、「コンピテンシー採用」には「コンピテンシー向上プログラム」、等を行うのだろうか。

学生は大学の学びで、社会人基礎力(「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」)を身につけているが、それを社会でどう活かすか、仕事にどう繋げるかがわからない。日々学生と面談していると、感じることである。

学生が採用活動(社会システム)に流されず、自律的にキャリアを選択するために大学がすべきことは

大学本来の学びを大切にしつつ、あらゆる学びの場面で社会との接点を散りばめることで、学問のアカデミックな領域と現実社会のプログマティックな領域を接続する場を提供すること

アカデミックな領域とプログマティックな領域を接続するというのは、授業にアクティブ・ラーニングやPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)を取り入れるということだけではない。むしろ、現在の授業はそのままで、授業で学んだ内容を社会で活かす方法については学ぶ機会を散りばめるということである。

大学の学びが社会でどう活きるかを知るための「社会で活躍しているOB・OGによる講演会」や「OB・OGとの懇談会」、これからの社会動向を知るための「社会を知る講座」、大学で学んだことを実践・検証する場としての「ボランティア」、「サービスラーニング」、「インターンシップ」、「課題解決型授業」等が具体的な機会として考えられる。

学外のリソースも積極的に活用すべきである。キャリア大学は、学部1・2年生を対象に企業とコラボした講座を多数行っており、大学での学びをどのように社会と繋げるべきかを考える良い機会になる。VISITS OBBIZREACH CAMPUS等は低年次からOB・OG訪問可能なツールで、社会人のロールモデルに出会うという点で活用できるだろう。

これらの機会・経験を通して、学生は大学での学びが社会でどのように活かされるのかを実感し学びを深めると共に、自分が社会で何をしたいのかを深く考えていく。

 

学問と社会を行き来する場としての大学

重要なことは、これらプログラムを既存の授業と接合することにある。

特定の分野をあらゆる角度から批判的な視点で粘り強く見つめ続けた研究者(大学教員)しか伝えることができないものがある。

研究者は社会的常識がない、期限は守らない、理想論だけ語る、しかし、それら欠点を補って余りある、創造的思考(突飛もない案)、批判的思考(ただの文句)、論理的思考(屁理屈)、徹底的なこだわり(粘着質)という凡人では持ちえない能力を持ち、それら能力を自らの専門領域の教育を通して学生に教授することができる。ここに高等教育機関での学びの価値がある。

大学と企業の不毛な争いの終焉でも述べたことだが、文学部不要論をはじめ、とかく大学への批判が強い時代だが、大学の良い部分も認めつつ現実的な対応をしていくことが、社会にとっても望まれるのではないだろうか。

 

最後に

最後にある学生の話しをして終わりとしたい。

東日本大震災の被災地である陸前高田で、「陸前高田の広報について提案する」というプロジェクトを行った際の話しである。文学部の学生が宮沢賢治のいくつかの文学作品からテキストを抜き出し、東北人のアイデンティティーを浮き彫りにし、そのアイデンティティーを利用した広報戦略を提案した。

大学での学びをベースに現地での体験を踏まえて提案した秀逸の内容であった。

私はそこに、文学部、そして高等教育機関としての大学の底力を見たのである。