昨日に休憩を含む約9時間の長丁場となる百条委員会・第一回の証人尋問が終わり、各社で「新事実」をめぐる報道が相次いでいます。
豊洲の土地売買、水面下で元都副知事らが強引な交渉:朝日新聞デジタル
東京ガス側から委員会に提出されたダンボール50箱にも及ぶ記録・資料の中から今回、私は都側の資料がほとんど残っていない「浜渦副知事による水面下交渉」の時期に焦点を絞り、徹底的に捜索をかけました。
その中から新たに出てきた折衝記録(議事メモ)により、点と点をつなぐ新たな事実が浮かび上がったのです。私の中では、これによってほとんどの疑問が氷解しています。今日はこの点について徹底的に解説・詳述をしていきます。
予め申し上げますと、この新たに見つかった記録(折衝記録・メモ)について、委員会での質疑中も
「どこから出てきたんだよっ!」
などのヤジが自民党サイドから飛んできましたし、ネット上でも
「捏造ではないか」
「第二の永田(堀江)メール問題になりかねない」
などと揶揄されておりますが、これは東京ガス側が公式に提出した記録の中から発見されたもので、私が独自取材したものでも、ましてや創作したものでもありません(他会派の委員も同様のものを発見、尋問しています)。
万が一、捏造がありえるとすれば提出者サイドということになりますけど、東京ガス側にそんなことをする動機が見当たらないので、その可能性は低いでしょう。それは現取締役社長として出席いただいた証人にも確認しています。
昨日の証人尋問では一様に関係者が「記憶にない」と証言しましたが、人の記憶は曖昧で、ある意味では「どうとでもなる」からこそ、文字による記録や資料の存在がエビデンスとして重要になるのであり、これが東京ガス側から自発的に提出されたというのは極めて重い事実です。
この記録を元に、新たなファクトを紐解いていくことにしましょう。
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豊洲市場の土地購入をめぐる経緯を丹念に読み解くと、浜渦副知事の前任である福永副知事時代には、東京ガス側は土地売却に強い難色を示して続けていることが数多く残されている交渉記録から明らかになっています。
特に先端部(現在の6街区・7街区)については、ほとんど売る考えはなかったと言っても良いでしょう。
ところが平成12年10月4日、交渉担当をバトンタッチした浜渦副知事による「水面下でやりましょう」という記録を最後に、都側からの交渉記録はほぼ一切なくなります。そして平成13年2月、急転直下とも言えるスピードで、土地売却を前提とした覚書が両者の間でかわされることになります。
なお、その後に再び復活する都と東京ガスの交渉記録(都側提出)では、
東ガス「(土壌汚染への対応について)話が違う」
東京都「言った言わないで揉めてもしょうがないではないか」
などのやり取りが散見されます。
この記録が「不存在」となっている時期に、いったいどんなハードネゴシエーションが行われていたのか?「口約束」しかできないような、あれほどマメに記録を残していた都側が記録を抹消せざる得ないような、何らかの穏便とは言い難いやり取りがあったのではないか?
その疑問を氷解させたのが、東京ガス側から提出された記録の中から見つかった「東京都政策報道室赤星理事との折衝内容」なる、ワード4枚でタイピングされた資料です。
先方から提出された資料はオープンにすることはできませんが、その要点をまとめて私がパネルにしたものがこちらです。
※「福永知事」は「福永副知事」の誤り。
※「平成12年12月22日」は「平成12年12月14日および22日」の誤り。以上訂正致します。
都側の赤星理事は浜渦副知事からの指示として、「土壌Xday」という単語を用い、
「この日(土壌Xday)を迎えれば土壌問題が噴出し、東京ガスが所有する土地の価格が下落する」
「「結論」さえ出せば石原知事が安全宣言で救済するから、早急に結論を出すように」
などの内容を伝えている様子が記録されています(記録の内容を一言一句、模写したものではありません。念のため)。
そのほかにもこの資料には、
「先週は中曽根元首相が都庁にやってきた」
「いま石原・扇(当時建設・運輸大臣)・亀井(自民党政調会長)はバッチリだ」
「本日亀井政調会長が都庁を訪問し、東京都の懸案事項への国費投入を約束していった」
「国費投入は(亀井静香)政調会長もOK」
「都知事もそんなに時間がない」
など、12月14日に浜渦副知事から東京ガス・江口氏(故人)へあてたコメントも記録されています。
そしてこの東京ガス側の記録の作成者は末尾に、
「脅かしてきた」「これ以上議論をしても無駄」
など、激しい憤りを節々ににじませつつ、終盤には「以下の約束をした」として、今後は「土壌Xday」までには方向を出すべく双方努力することなどが取り決められています。
これによって東京ガスがこれまでの態度を一変させたとしたら、これは驚くべきことであり、国政にまで言及した明白な政治的圧力と言えます。
以上が、記録によって明らかにされた「事実」の一端です。
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ではこの、キーワードとなっている「土壌Xday」とは、一体なんのことでしょうか?ここからはこの記録を元に、前後の事実関係から推察した内容を含みます。
結論から言うとこの「土壌Xday」とは、国が定める土壌汚染対策法の方針・内容が発表され、この基準が東京ガスの所有地になんらかの形で影響を及ぼす日を意味していたのではないでしょうか。
詳しくない方は何のことやらさっぱりわからないと思いますので、できるだけ簡潔に解説を試みます(長いけど)。
東京ガスは最終的に都に売却予定の土地を、都の「環境確保条例」の基準に基づき処理することで合意をしています。しかし都の環境確保条例よりも土壌汚染対策について厳しい内容となる、土壌汚染対策法(土対法)がほどなくして施行されます。
対策後に「東京ガスの所有する土地から、新たな汚染が見つかった」とされる原因の一端はここにあります。都条例では30mメッシュと呼ばれる調査範囲で可とされているのが、土対法だと10mメッシュ、つまり非常に細かい調査が求められるのですね。
荒い調査では出てこなかった汚染状況も、細かく調査をすれば出てくるのはある意味では当然です。しかしながら東京都は、ある意味では駆け込みでこの「比較的緩い基準」の方で対策することで了とし、東京ガスの土地に「安全宣言」を出すことにして、その後の対応もすべてここをスタートにしました。
図にあるように、都の環境確保条例が施行されたのはまさにこの「水面下」交渉が行われていた平成12年12月22日。結果としては土対法が施行されたのは平成14年5月29日までずれ込みましたが、平成12年12月から法の施行を検討する審議会が立ち上がっています。
都の条例が「このために作られた」というのは流石にタイミングとして無理がありますが、土対法の成立を見越してその内容をちらつかせながら、国政への関与を伺わせて圧力をかけたことは十分に予想されます。
仮に東京ガスが都の条例に基づいて「安全宣言」のお墨付きを得ることができず、所有するすべての土地に土対法の基準が求められれば、土壌汚染対策の費用は増大し、土地の価格に大きな影響を及ぼします。
こうした背景を利用し、浜渦副知事・赤星理事は、土対法の全容が明らかになる前に、都条例の範囲内で土壌汚染を処理すれば「安全宣言」を出すことを取引材料に、東京ガスに土地売却の早期承諾を迫ったのではないでしょうか。
それを裏付けるかのように、浜渦副知事が東京ガスを初めて訪れた平成12年10月4日の2日後である10月6日、東京ガスが所有地の土壌の取り扱いを東京都建設局に照会するという不可思議な行動を起こしています。
そして平成13年1月には「社有地の土壌調査結果と今後の対応について」というペーパーを発表し、豊洲だけではなく相模原、大森、北千住といった社有地に「都の環境確保条例に基づいた対策」をする旨を発表しています。
これらの時系列の行動も、資料要求によって開示された事実関係を丹念に調べたことにより、立体的に浮かび上がってきたものです。
もう一つさらに付け加えれば、東京ガス側から提出された記録の中から発見された平成12年8月の手書きメモ「市場ブレスト」では、
「浜渦副知事 人事掌握 9月から攻勢だろう」
「汚染土壌 条例 事務局とのすり合わせが問題」
などの走り書きが残されており、従前から土壌汚染対策が交渉の遡上に上がっていたことが判明しています。こちらのメモには委員会に起こしいただいた証人の方が2名、出席者が明記されているにもかかわらず、「記憶にない」との答弁でしたが…。
土対法の詳細が明らかになった後であれば、仮に法律では対象とならない土地ではあっても(結果的に土対法では、東京ガスの社有地は土対法の対象外となる。しかしながら、成立前は先行き不透明な状態だった)、世論によってこれらの土地には土対法基準(10mメッシュ)による安全対策が求められた可能性もありました。
しかしこれに先んじて、都条例に基づいた都の「安全宣言」を得ることによって、土対法に準じる事態を防ぎ、土地の価格下落を防ぐ意図があったのではないかと推察することができます。
そして「赤星理事との折衝記録」に記載のあった「2月中旬頃?に安全宣言」という内容の通り、石原知事は2月下旬の都議会定例会にて、初めて豊洲への移転を明言することになります。
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長くなりましたが、以上が新たな事実と、そこから推察される結論です。
ある意味では条例や法律を利用した「インサイダー取引」ですから、こうした経過が一切、表に出る都側の交渉記録に残せなかった理由も、これであれば非常に得心ができます。
本来は都民の安心安全を守る法律や条例を利用し、「石原知事が安全宣言で(東京ガスの土地を)救済する」などと発言し、交渉を進めていたことが事実であれば、都民に対する重大な裏切り行為であり、批判のそしりを免れることはできません。
ここで環境確保条例や土対法を政治利用して「安全宣言」を口約束したことが禍根となり、その後の土壌汚染対策でも都と東京ガスの交渉は二転三転していったと考えると、色々なことが腑に落ちます。
口約束で「握った」のに、結局は世論に押されて東京ガスに追加対策を求める東京都。東京ガスも「話が違う」と抗いながら、不誠実な取引に応じたという負い目から、追加支出に応じざる得なかった。しかし、流石に何度も何度もというわけにはいかず、平成23年に瑕疵担保責任の免責で決着をつけた…と。
本来であれば当然つけられるべきであった瑕疵担保責任を最後には免責せざる得なかったのは、裏返せば東京都側にも「負い目」があったからであると考えられます。
石原都知事は先の記者会見で、小池知事を「安全と安心を混同し、混乱を招いている」と断定しましたが、安全と安心の政治利用はまさにこの浜渦・石原都政から始めたことであり、それが今日まで続く混乱を生み出したのではないでしょうか。
本当の安全安心ではなく、政治的な安全安心からすべてがスタートしているのですから、ときの世論や政治的思惑によって土壌汚染対策の内容が左右されてしまうわけです。
ここの「起点」こそを清算・総括することができれば、事態は大きく前に進む可能性もあります。
これから続く証人喚問で、さらにその事実と真意をつまびらかにし、安心と安全をめぐる混乱に終止符を打つべく、全力で邁進していきたいと思います。
それでは、また明日。
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おときた駿 プロフィール
東京都議会議員(北区選出)/北区出身 33歳
1983年生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループで7年間のビジネス経験を経て、現在東京都議会議員一期目。ネットを中心に積極的な情報発信を行い、日本初のブロガー議員として活動中。