2017年3月3日に行われた豊洲市場問題に関する石原慎太郎元都知事の会見の様子がマスメディアによって一斉に報じられました。その論調は「知らぬ存ぜぬで通した石原氏はまったく責任をとらずに部下のせいにした」「会見では何も明らかにならなかった」とする否定的な結論ががほとんどであったと言えます。しかしながら、会見の動画をすべて視聴すれば、このような結論は正確ではなく、実際には石原氏のスタッフによる代読によって、事態の経過が詳細に語られていると同時に、石原氏は明らかに自らの責任を認めていることがわかります。
石原慎太郎氏
私は、当時の最高責任者として、審議会なり専門会だった特別委員会なり、あるいは議会も調査権を持っていろんな調査もして、委員会でもきわどい採決で可決されたわけですけども。それを踏まえてですね、私はあの最高責任者として、とにかく豊洲の移転に裁可を願いたいということでそれ承諾して裁可しました。ということで係りの者が、判子を預かっている課長さんが私の判子を捺してことが決まったわけですけどね。ともかくね、行政の責任って裁可した最高責任者にあると。これは私も認めます。[logmi]
また、石原氏は豊洲移転はボトムアップによる先代からの継続的な事業であることと、議会も承認した事業であることを述べています。このことは、豊洲移転が行政における通常の手続きを踏んだプロジェクトであることを意味しています。むしろ、このような主張に対して「責任をとっていない」「何も明らかにならなかった」とマスメディアが揃いも揃って主張することには、一定の方向に世論を誘導しようとする何かしらの強い意思を感じる次第です。
マスメディアが石原氏にどのような「新しい証拠」を期待しているのかはまったく不明ですが、このように会見者の主張を一切認めない論調で、一方的に会見の様子が伝えられていることは、沖縄ヘリパッド反対派の公然の暴力が地上波テレビで一切伝えられないのと同様、マスメディア報道の【アジェンダセッティング agenda-setting】が国民にとって非常に有害なレベルに達していることを示していると考えられます。まさしく公然と【吊し上げ kangaroo court】が行われている様相となっています。
この記事では、石原氏会見に関わるいくつかのマスメディア報道を分析し、それが国民世論形成に対してどのように関連しているかについて地道に考えてみたいと思います。
会見におけるマスメディアの質問
今回の石原氏の会見に対するマスメディアの論調は、総じて「石原氏のせいで何も明らかにならなかった」というものですが、もしもマスメディアに明らかにしたい部分があったのであれば、質疑応答の際に疑問点を明らかにする機会があったと言えます。しかしながらその言葉とは裏腹に、ほとんどの質疑内容は無意味・非論理的・ナイーヴであり、事実を明らかにしようとする性格のものではありませんでした。むしろ「石原氏は悪人である」という認識を前提として、ヒステリックな口ぶりで子供を叱るように石原氏の倫理を糺すというものであったと言えます。このセクションでは、そのいくつかを具体的に示したいと思います。
橋本五郎氏(読売新聞特別編集委員)
今の説明は、もう石原さんは自分の代ではなくて、豊洲は前から決まっていた路線なんだと。ただ、決めるこの2001年7月に基本合意し、12月に移転を決定するんですけれども、その前に環境基準の1,500倍の濃度のベンゼンが検出されるんですよね。明らかになるんですよね。そうするとなぜそこで、「ちょっと待てよ」「踏みとどまってみよう」とそういうことにならなかったんですか?
橋本氏は、土壌汚染があるにもかかわらず計画を進めた石原氏の判断を問題視していますが、安全性が確保されている現状において問題視すべきは、科学的知識を持つことなく風評で現状を不当に問題視する橋本氏の方であると言えます。市場施設の建設前に環境基準の1,500倍の濃度のベンゼンが部分的に検出されたところで、施工時に掘削置換工等を行えば、十分に濃度を低減できることは工学的な常識です。東京都の責任追及を行うとすれば、むしろ改良目標値を環境基準まで下げるという理不尽な環境対策によって不必要に多くの箇所で掘削置換工を行ったことであると考えられます。
小正裕佳子氏(日本テレビ「NEWS ZERO」)
今のお話をうかがっていますと、市場の移転というのは、大きな予算のかかる、そして市民の方々の生活にも影響してくるわけですが、そうした市場の移転に関することについて、すべて副知事やその他の方々に任せていらっしゃったということでしょうか。
常識的に考えて、経営責任者は組織を運営して事業を進める役割分担であり、専門性を要するサブシステムの運営を部下に委任するのは至極当然のことです。「外部専門家が委員となっている都の財産価格審議会の意見も得ていた」ということから、東京都と東京ガスの契約内容には専門的観点から一定の合理性を持っている可能性があります。マスメディアとしての自覚があるのであれば、このようなナイーヴな質問をして時間を浪費するよりは、財産価格審議会の意見の根拠について調査するのが本質であると考えます。
広瀬修一氏(フジテレビ「グッディ!」)
先ほど知事本局という役職の方の名前が上がったと思いますが、改めてその方のその後の経歴と今なにをなさっている方なのかということを石原さんの口から説明していただきたいと。
自ら把握している内容をわざわざ石原氏に答えさせるという【人民裁判 people’s court】のようなことを要求する広瀬氏は「何も明らかにならなかった」ことへの責任を取るべきでしょう(笑)。
横田一氏(フリー)
今の回答を聞くと、「責任逃れの恥さらし」の説明だと思ったんですが、(中略)今のような「責任逃れをして逃げ回る」つもりなのか。(中略)そんな「恥さらし」の回答をするんですか?
この人物は【評価型言葉 evaluating word】で石原氏を【悪魔化 demonization】しています。すなわち、主観的評価を内包した形容詞を散りばめることで、石原氏を悪とする倫理観を情報受信者に植え付けていると言えます。マスメディアの程度の低さを露呈するまったく無意味な演出です。
奥平邦彦氏(CBCテレビ「ゴゴスマ」)
それと、「小池さんに言いたいことがあると」ずっと先月もおっしゃっていたんですけれど、もうすべて言い終えましたか?
このような【戦略型フレーム strategic frame】の無意味な質問は、ワイドショーが情報弱者を心理操作するにあたっての巷談として利用されることになります。
大江麻理子氏(テレビ東京)
土壌汚染対策で、多額のお金がかかるというのがわかっていながら、豊洲市場を選んだその理由を聞きしたいんですけれども。東京都の財政が痛む、つまりは都民の税金がかなり使われてしまうというのがわかっていてこれをこう無駄遣いではないかというふうには感じられなかったのでしょうか?
これもかなりナイーヴな質問であると言えます。当然のことながら、サイト選定にあたっては、複数の候補地から比較優位を基準にして意思決定されるわけです。テレビ東京はやっぱり「モーサテ」のアッコさんが出てこないとダメですね(笑)。
武内絵美氏(テレビ朝日)
当時、知事時代に例えば銀行税ですとか、多くの都政の課題も抱えていらっしゃったと思います。この豊洲移転の問題は、どれほど重要な課題と考えていらっしゃったのか? 優先順位はどれほど高かったのか? 教えていただきたいと思います。
マスメディアは「今回の会見では何も明らかにならなかった」という結論を得るために、何も明らかにならない質問をしているのかもしれません(笑)。
橋本五郎氏(読売新聞特別編集委員)
先ほどから石原さんは「自分は専門性がない」「専門的な知見がないんだからそれに従うしかない」という主旨のお話だったんですけれど、だったらなんのために知事はいるんですか。そういうものを含めて、大きな観点からどうしたらいいのかという判断を知事はされるんじゃないんですか。
知事の定常用務は、必要な行政業務の効率と効果を最大化するため、組織の各部局を動かして優秀な専門家集団に仕事をさせることであると考えます。そんな一般的な知見もなくて、何のために特別編集委員はいるんですか(笑)。
駒田健吾氏(TBS News23)
TBSのコマダと申します。明確に「瑕疵担保責任の放棄」を書いてある協定書に石原さんの判子が押されているんですが、先ほど「誰かが使った」というふうにちらっとおっしゃいました。それが正しいのかどうかということと。先ほどから聞いていますと、石原さんの専門分野は文学だと思いますが、それ以外のことであなたは豪腕を奮ってきました。責任という言葉はもはや生ぬるい。ミスの連続だと思いませんか? 石原さんの。判子の問題と、自分のミスを認めるか、その2つを教えてください。(中略)「瑕疵担保の責任の放棄」の意味くらいわかりますよね?(中略)ではその文面に書いてあってなぜ判子を押しましたか?(中略)その判子は他の人が使ったんですか? それとも石原さんが押したんですか?(中略)資料があります。ここにしっかりと石原さんの判子がありますが。
駒田氏は、まるで小学校の先生がヒステリックに生徒を叱るように「責任という言葉はもはや生ぬるい」「ミスの連続」「瑕疵担保の責任の放棄の意味くらいわかりますよね」「なぜ判子を押しましたか?」と個人の倫理を前面に出して石原氏を問い詰めました。このような演出がかった説教攻撃がマスメディアのミッションだと思っているのでしょうか。何を勘違いしているのか、石原氏に対して「生ぬるい」という判決を下した駒田氏が行っていることはまさに【人民裁判】です。駒田氏が、石原氏の専門分野は文学であると決めつけているのも問題です。現在の社会的常識として、世の中には「パイ型人材」や「トライアングル型人材」が普通に存在しています。また、社会的常識として、大組織の公印は、総務局や総務部に厳重に保管されているものと考えられます。駒田氏は、通常は石原元都知事自身が自分の手で判子を押すものと思っているようです。
楪望氏(AbemaTV)
先ほどから「わからない」「覚えていない」、「そのほかすべて一任していた」「行政の手続きの下、すべて行ってきた」っておっしゃっていますけれども、では、今回の問題は責任は誰にあると思われていますか?
石原慎太郎氏
今回って、なにがですか?
楪望氏(AbemaTV)
今回の問題の責任ですね。
石原慎太郎氏
今回の問題ってなんの?
楪望氏(AbemaTV)
すべてですね。その・・・。
石原慎太郎氏
豊洲の問題?
楪望氏(AbemaTV)
はい。そうです。
今回の豊洲の問題には極めて多くの論点があります。したがって、まともな質問者であれば、「個別の事案の該当部分」に対しての責任を問うことになりますが、楪氏は多岐にわたる事案の集合体である「豊洲問題」に対する責任を問いました。これはあまりにも常軌を逸した無意味な質問であり、それこそ、まともな東京都民が知りたがっていることではないと思います(笑)。まさに「今回の会見では何も明らかにならなかった」という結論を得るのに楪氏は大きく貢献していると言えます。それにしてもこのやりとりは、「嵐のどこが好き?」「全部~!」というとりとめのない会話を想起させてくれます(笑)。
フロアの記者A
わかってないんじゃないですか。
フロアの記者B
今日の会見を聞いて、都民の方は納得されたと思いますか?
会見の最後にフロアから不規則質問が飛び交いました。これはスキャンダルの芸能人がよく浴びせられる言葉であり、冷静な議論の場ではまったく不妥当なものであると言えます。明らかに【人民裁判】の様相です。
以上のような例からわかるように、大半の質疑は無意味・非論理的・ナイーヴであり、何かを明らかにしようとするような論理が欠如していたと言えます。
さて、厄介なのは、これらの質問者がそれぞれ自分の出演する番組に戻ったときに本格的な社会的害が発生することです。各テレビ番組は、自らの番組が送り出した出演者が会見で質問するシーンを放映します。ところが、その質問自体は無意味・非論理的・ナイーヴであるため、石原氏からは当然のことながらロクな回答は得られませんでした。そこで、番組が何を行ったかと言えば「石原氏は知らぬ存ぜぬを繰り返し、何も明らかにならなかった。」という結論を造ったわけです。これは明らかに【認知的不協和 cognitive dissonance】による行動であると考えられます。すなわち、「明確な事実が得られなかったのは自分たちの質問のせいではなく、石原氏が真摯に答えなかったからだ」と考えるものです。ここにマスメディアによる情報操作が行われ、世論が造られることになります。
ケーススタディ TBS「NEWS23」
ここで個別のテレビ報道について具体的に着目します。TBSテレビ「NEWS23」は、岸井成格氏の降板以降は誤謬も少なくなり、「TBSの報道番組」としては真面な部類の番組になったものと考えます。しかしながら、会見で質問した駒田健吾氏の対決姿勢が番組まで持ち越されてしまったのか、石原氏の会見報道については、各所に疑義が認められる内容となっていました。以下、放送内容の着目点に番号を振って詳しく分析したいと思います。
(a) 会見前の状況
<ナレーション> (1-1)ゆっくりとした足取りで壇上へ向かう石原慎太郎氏。豊洲市場をめぐる一連の問題発覚後、初めての記者会見です。
石原慎太郎氏
みなさん、本日、この機会を与えていただいていただきまして、本当にありがとうございました。百条委員会なるものに呼ばれているようですけれども、とてもそれまで待てない心境なんです。座して死を待つつもりは私ございません。
<ナレーション> (1-2)反転攻勢への強い決意ともとれる言葉。今朝、自宅を出る際も自らを侍に例え、鼓舞しました。
石原慎太郎氏
(1-3)果たし合いに出かける昔の侍の気持ち(メディアスクラムの質問への回答)
<ナレーション> これに対し小池都知事は・・・
小池百合子都知事
(1-4)まぁ、あの世代の人達はよくもののふとか侍とかおっしゃるので、ちょっと違和感を感じるところであります。でも、石原元知事におかれましてもね、そういう気持ちなのかと思いますけれども、都民のニーズということとご自身の思いとは若干ずれがあるような気がいたします。
(1-1) 会見前の状況をリポートするこの報道の最初のセクションは、論理的にはまったく不必要な印象映像であると言えます。情報弱者は、物事の内容には興味がなく、興味があるのは勝ち負けだけなので、このように争い事を伝える【戦略型フレーム】の報道が大好きです。それゆえ、ニュースをエンタメ化するテレビメディアは、けっして会見から報道を始めることなく、その前段階からドラマ仕立てで放映するわけです。なお、そもそも初めての記者会見であるにもかかわらず、「何も新しい事実は明らかにならなかった」というのもかなり矛盾しています(笑)。
(1-2) 相変わらず非常に薄気味悪いのは、石原氏の自宅玄関前に【つきまとい stalker】のように待機している【メディアスクラム media scrum】です。彼ら彼女らは、石原氏が玄関を出て自動車に乗るまでのわずかの間にどうでもいい言葉を投げかけて、何の意味も持たない一言を引き出す存在と言えます。このような集団の人件費が、広告料として物品価格に強制的に転嫁されることは非常に理不尽であると言えます。
(1-3) 石原氏が「果たし合いに出かける昔の侍の気持ち」などとメディアスクラムにサーヴィスしたことは軽率な行為であると考えます。野生動物に餌を与える行為が動物虐待であるのと同様に、メディアスクラムに一言与える行為はある意味で彼らに対する虐待であると言えます。人に近づけば餌が得られることを知ってしまった動物は、自分で餌をとることができなくなり、人里を荒らすことになります。
(1-4) マスメディアは石原氏が「果たし合いに出かける昔の侍の気持ち」と言ったことを小池都知事にすぐに注進し、アイロニーを含んだ根拠不明瞭の感想を引き出しています。これは典型的な【思わせぶりの言説 pseudo-profundity】と呼ばれるものであり、情報弱者はこのような言葉に深遠なる知性を感じて魅せられてしまうと同時に、論者に好都合なように勝手に解釈してしまうことが知られています(笑)。
(b) 会見の状況
<ナレーション> 豊洲移転の真相は果たして明らかになるのか。会見で石原氏は、一連の問題に対する自らの責任について、次のように述べました。
石原慎太郎氏
(1-5)行政の責任っていうのは当然裁可した最高責任者にあると。これは私は認めます。しかしやるべきことをやらずにことを看過し、しかも日々築地で働く人を生殺しにしたままほったらかしにして。こういった混迷、迷走に対する責任は、私は今の都知事、小池さんにあると思いますね。
(中略)
駒田健吾キャスター
(1-6)なぜ判子を押しましたか?
石原慎太郎氏
いやそれはしかしね、その問題について私はその、なんて言うかな、これについてどう思うかということを聞かれたこともないしですね、瑕疵担保、瑕疵責任の留保という言葉も、初めてこの問題が起こってから聞きましたしね。
駒田健吾キャスター
(1-7)その判子は他の人が使ったんですか? それとも石原さんが押したんですか?
石原慎太郎氏
それはわかりませんね。どんな判が押してあるか、知事の判を押したとしたらですね。
<ナレーション> わからないと繰り返す石原氏。
記者
今回の問題の責任ですね。
石原慎太郎氏
(1-8)これやっぱり都庁全体の責任ですよ。議会も含めて、みんなで決めたことじゃないですか。
(中略)
<ナレーション> (1-9)新たな事実が判明したとは言いがたい石原氏の会見。
記者
(1-10)今日の会見を聞いて、都民の方は納得されたと思いますか?
石原慎太郎氏
そりゃいろんな問題は残ったと思うでしょうね。それは。
<ナレーション> その一方で、1時間9分にわたる会見中、持論とする豊洲への移転には5回も触れました。会見の最後にも
石原慎太郎氏
もっと大事なことはね、今、宙ぶらりんになっている豊洲というものを早く稼働させることだと思いますよ。
(1-5) この会見の最大のポイントはスタッフが代読した石原氏の主張ですが、番組では、それをまったく無視した上で、石原氏が口頭で述べた発言のみをつまみ食いして紹介するにとどまっています。
(1-6) 石原氏は「なぜ判子を押したのか」について、スタッフが代読したステイトメントで明確に述べています[全文]。それは、「譲渡価格が妥当かどうかは専門家に鑑定していただき、外部専門家が委員となっている都の財政価格審議会の意見も得ていた」からであり、一般会計予算7兆円(特別会計を含めた全体予算規模で13兆円)の行政組織のトップが、100億円に満たない案件の決済の判断を専門性を有する部下と外部委員に委託することには、一定の合理性があります。このことを理解せずにヒステリックに聴きなおすところがマスメディアの全く理不尽な点です。ただし、会見を見ていない普通の視聴者は、駒田氏のこの発言を聞いて「石原氏は何も答えなかった」と考えている可能性があります。
(1-7) 駒田氏は、役所や大企業などの大組織の公文書作成プロセスを理解していないようです。一般的に役所では意思決定に関する会議の担当幹事が会議の結果を総務に伝え、専門の担当者が間違いのないように公文書を作成した上で厳重に保管してある公印を取り出して押印するというプロセスを経るのが普通です。石原都知事が直接自分の手で公文書に押印していないとしてもそれはまったく普通であると言えます。しかしながら、そのような常識的プロセスを知らない一部視聴者は「わからないと繰り返す石原氏」という番組の言葉につられて「判子を人任せにするとは責任感のかけらもない」というように解釈している可能性があります(笑)。
(1-8) 二元代表制をとる東京都において、通常の意思決定プロセスを経た豊洲移転などの事業に対して最高の責任をとるのは事業の執行責任者である都知事と事業を議決した都議会です。また、豊洲移転はボトムアップされたプロジェクトであるため、東京都の各部局にも責任は伴います。したがって、石原氏が自分を含めた「都庁全体の責任」というのは至極妥当であるといえます。さらに石原氏および都議会の議員を当選させた東京都民にも責任はあるといえます。その一方で小池都知事がトップダウンで議会を通さずに豊洲移転を延期したことについては小池都知事が全責任を負う必要があります。
(1-9) News23が「新たな事実」として何を期待しているのか、まったくわかりません。News23は、今回の会見の内容は既にわかっていたように主張していますが、実際にそのことが詳細に報道された形跡はありません。
(1-10) この言葉は、マスメディアによる【人民裁判】まがいの会見におけるステレオタイプと言えます。なお、今回の会見において石原氏は自らの主張を述べたのであり、都民が納得するかどうかを問うのは不合理です。
(c) 会見後の反応
<ナレーション> 小池知事は今日の会見について
小池百合子都知事
(1-11)まぁ、中身はよくわからなかったですね。いろいろと新しいことを言うかと思っておりましたけど、せっかくの記者会見だったのに残念です。都民の皆様からすれば、石原さんらしくないなぁという印象だけが残ったんじゃないでしょうか。
<ナレーション> 会見終了後、石原氏は午後5時半頃、帰宅しました。
メディアスクラム
(1-12)果たし合いはいかがでしたか~?
石原慎太郎氏
五分五分でしたね。
メディアスクラム
説明はしっかりできましたか?
石原慎太郎氏
できました。
(1-11) この部分における小池都知事の言説はすべて個人的な印象のみを語る【思わせぶりの言説 pseudo-profundity】です。また、「石原さんらしくない」というのは、論敵の人格を貶める情報で対人論証を行う【毒の混入 poisoning the well】です。この言葉一つによって石原氏の言説のすべてを怪しむ情報弱者がいても不思議ではありません。いずれにしても、小池都知事が今回表明した印象は、その根拠がまったく欠如していて、中身がよくわかりません(笑)。
(1-12) 明らかに意味のない【戦略型フレーム】で情報弱者を心理操作するものです。
(d) スタジオトーク
雨宮塔子キャスター
結局、(1-13)私たちが最も知りたかった豊洲移転の経緯については何も明らかにならなかったということですね。
星浩キャスター
そうですね~。
駒田健吾キャスター
築地で働く人を生殺しにしているのは小池さんの責任だと石原さんはおっしゃいましたが、(1-14)生殺しにしないために、どういう判断をしたらよいのか、様々な事実が出てくるかと思って我々、待っていたんですがなかなか出てこない焦りとそして、(1-15)あきらめというムードが会場には漂っていました。果たし合いは五分五分と石原さんはおっしゃっていましたが。
星浩キャスター
(1-16)石原さんは侍のお気持ちと言ってましたけど、真相解明するんだという潔さがあんまり感じられませんでしたね。そういう意味ではあまり侍というのとはほど遠いような印象ですよね。
駒田健吾キャスター
(1-17)これまでの主張と、ほぼ変わらない内容でした。
星浩キャスター
そうでしたね。
駒田健吾キャスター
そして、この後です。いよいよ百条委員会が始まるということで、元都の人たち、そして東京ガスの幹部らが登場してくるということになります。
星浩キャスター
(1-18)ハンコを押した経緯を石原さんは知らないと言っているわけですから、この調子だと真相が明らかになるのはなかなか難しいですよね。
駒田健吾キャスター
はい。
星浩キャスター
そうするとどうなるかというと、(1-19)「豊洲の移転経緯は怪しい。異議がある。」と言っている小池さんの方に世論は「やはりそうなんだ。小池さんの方が正しいんじゃないか」というふうになって、小池さんの方が優勢になっていく。そういう流れをもしかしたら石原さん読み間違えているんじゃないかという気がしますね。
(1-13) 豊洲移転の経緯については、「時系列に沿った事実関係」ということで石原氏のスタッフが長々と代読しており、「何も明らかにならなかった」というのは誤報です。内容を取り上げもしないで何も明らかではないというのは【論点歪曲 the straw man】を伴った恐ろしい【チェリー・ピッキング cherry picking / suppressed evidence】です。
(1-14) 駒田氏は「政策決定者の責任問題」と「移転の科学的可否の問題」を完全に混同しています。このような不合理な根拠で石原氏を批判するのは、まさにマスメディアによる【吊し上げ kangaroo court】【人民裁判 people’s court】であると言えます。
(1-15) 明らかな印象報道です。「あきらめムード」と判断するに至った具体的な根拠を示す必要があります。
(1-16) これも明らかな印象報道です。また「真相解明するんだという潔さ」とは一体何なのかさっぱりわかりません。
(1-17) 駒田氏は「これまでの主張」と今回の主張をほとんど示すことなく安易に「ほぼ変わらない内容」としています。多くの視聴者は誤解させられるものと考えます。
(1-18) 石原氏は、判子を押した経緯は「譲渡価格が妥当かどうかは専門家に鑑定していただき、外部専門家が委員となっている都の財政価格審議会の意見も得ていた」とはっきり主張しています。News23は、自分の手で判子を押印しなかったことを問題視しているのと同様に、自分の口で話さない主張(スタッフによって代読)も認めないということなのかもしれません(笑)。
(1-19) 星氏は視聴者に対して恐ろしい【心理操作 psychological manipulation】を行っています。すなわち、「豊洲移転に関する責任問題」を「石原vs小池の勝負」に転換し、しかも世論は小池氏を支持する気がする旨の不合理な判定をしています。ここに世論が形成される礎が築かれることになります。
情報弱者は自分で物事を判断することが困難なため、マスメディア報道の判断を自分の意見にします。この行動基準は、マスメディア報道の大半が真であることから帰納原理に従っていると言えますが、マスメディア報道が偽であるときにはその意見は破綻することになります。自分の意見が間違っていることを判断できない情報弱者は、当然のことながらその意見は正しいものとして社会で吹聴します。このとき情報弱者の意見を聞いた別の情報弱者は、それが社会的コンセンサスを持った意見であると錯覚し、その意見を支持します。このようなプロセスを重ねているうちに、情報弱者は他者も自分と同じ考えを持っていると錯覚するようになります。これは【フォールス・コンセンサス効果/投影バイアス false consensus effect / projection bias】と呼ばれるものであり、実際には自分の意見が少数意見であっても、多数意見であるかのように錯覚するものです。日本は、他者の意見に対して自由に反論する【アヴァンギャルド avant-garde】層や自分の意見を変えない【ハードコア Hardcore】層が少ないため、フォールス・コンセンサス効果が強く作用する社会であると考えられます。このような社会においては「孤立への恐怖」から最終的には反論を唱えることができなくなる状況に陥ることになります。この状態は【沈黙の螺旋 Spiral of silence】と呼ばれ、【ファシズム fascism】の原動力になります。星氏の結論は、明らかに沈黙の螺旋の形成を助長するものです。ここにマスメディアの論調が世論に発展していくことになります。
ケーススタディ TBS「サンデーモーニング」
TBSテレビ「サンデーモーニング」と言えば、これまでにも複数にわたるアンチ石原報道を行った実績がある番組です。今回も複数箇所にわたって【論点歪曲 the straw man】が認められる極めて不合理な報道であったと考えます。
関口宏氏
(2-1)やっぱり守りたい。自己保全。これはどうしても働くのでしょうが。結局何も出てこなかったということかこの会見からは。どうですか。
(2-1) 根拠を示さずに「自己保全」と勝手に決めつけるのには強い悪意を感じます。
姜尚中氏
(2-2)「座して死を待つことはない」とか「もののふ」とか「侍」とか「国辱」だとか。つまり仰々しい言葉のオンパレイドでそれだけは饒舌なんですね。でも、肝心要のことは結局一億総懺悔と同じように(2-3)自分には責任がないと、だから本来だったら石原さんが、これはすべての責任が自分にあると一言言えば、彼自身の人間的な魅力は少なくとも保たれたと思うんですね。結局これは、かつて戦争をおっぱじめたA級戦犯と同じ理屈で結局自分が免責ということですから、これは東京ガスの瑕疵担保の免責についてもね、なぜそれができたのか、だから(2-4)今都民が知りたいことは、そういう仰々しい饒舌ではなくて、本質に迫る極めて事務的な話だと思うんですね。それはやっぱりできるはずで、(2-5)あるところは忘れ、あるところは詳しく覚えているというのはやっぱりかなり印象が悪いのではないでしょうかね。
(2-2) 姜尚中氏は、最初から、人物の人格を攻撃する対人論証である【人格攻撃/人身攻撃 ad hominem / argumentum ad hominem】全開でコメントしています。具体的には、論点の議論に不必要な詳細情報を提示することで論点の中心をそらす【無意味な詳細の提示 irrelevant and selected detail】で人格を貶めています。
(2-3) 石原氏は自分の責任を認めています。明らかに他者の言説を不当に言い換えて、その点を批判する【他説の歪曲 putting words in opponent’s mouth】と呼ばれる【論点歪曲 the straw man】を行っています。
(2-4) 事務的な話は石原氏のスタッフが会見で代読しています。これも完全な【論点歪曲 the straw man】です。
(2-5) 「あるところは忘れ、あるところは詳しく覚えている」というのは、人間なら誰でも普通に犯す[記憶錯誤 paramnesia]というものです。なお、恐ろしいことに、姜尚中氏の一連のコメントの中に事実に基づく論理展開はなく、すべて印象で批判しています(笑)。
目加田説子氏
私も、(2-6)報告を受けてないとか、自分は専門家ではないとか、責任は皆にあるんだというようなおっしゃり方は、ちょっと到底納得できないなと。少なくとも10年以上にわたって、都の最高責任者として知事を務めた方ですから、(2-7)その責任というのはご本人に当然ですけどあるということを自覚して、これから百条委員会が開かれるわけですよね。前の知事も前の前の知事も百条委員会が開かれる前に辞めてしまわれているわけですよね。そして今回も本当に百条委員会が設置されたので、都議会はやはりこの場をきちんと活かして、単なる政治的手法ではなくて真相を究明することをしていただかないと(2-8)都民としては到底納得できないなという思いがします。
(2-6) 目加田氏は行政組織の意思決定システムを知らないナイーヴさを露呈していますが、情報弱者にはもっともらしく聞こえる言説です。このコメントに限らず、そもそも目加田氏の大半の言説は面白いほど根拠が抜けています(笑)。そして、この番組が恐ろしいのは、このようなナイーヴな言説に対して他の出演者からまったく反論が出ないことです。
(2-7) 石原氏は本人に責任があることを認めています。これも姜尚中氏と同様に、他者の言説を不当に言い換えて、その点を批判する【他説の歪曲】です。
(2-8) この「都民としては納得できない」という言葉は、「国民としては納得できない」という言葉と同パターンの心理操作の常套手段であり、「都民」や「国民」に目加田氏が同じ集団に属していることを意識させることで意見を同調させるテクニックです。人間には、同じ属性の人物に迎合しやすい【内集団バイアス/身びいき in-group bias / in-group favoritism】と呼ばれる認知バイアスが存在します。
古田大輔氏
(2-9)本当にひどい会見だったなと、(2-10)自己弁護だけだったと思うんですけれども、(2-11)今都民が知りたいことで言うと、都の責任者をあぶりだすことなのかと思うんですね。(2-12)それ以上に先にやってほしいのは、本当に豊洲は使えるんですかと。豊洲移転できるんですかと。築地だって汚染が指摘されているわけですよね。で、建物の危険性も指摘されているわけで、その中でそっちの方を先にやるべきなんじゃないかなと思います。
(2-9) 古田氏は、「ひどい」という【評価型言葉】を使って石原氏を悪人と認定させています。
(2-10) 石原氏は本人に責任があることを認めています。これも姜尚中・目加田説子氏と同様に、他者の言説を不当に言い換えて、その点を批判する【他説の歪曲】です。
(2-11) 恐ろしい【マッカーシズム McCarthyism】です。
(2-12) 専門家はすでに事実上の安全宣言を出しています。この主張は誰に対して言っているのかまったく意味不明です。
谷口真由美氏
(2-13)政治家石原慎太郎という人ってどういう存在だったのかなとあらためて考えさせられる場面で、強い言葉、激しい言葉、強権的なリーダーというようなイメージだったのが、(2-14)自分には責任はないと、(2-15)言われたら言われるがままに判子を押していたというと、じゃあ選挙で選ばれるリーダーなんて必要ないじゃないかというのを自分から言ってしまったものだと思うんですね。そんな人がやってたことをすごく支持してた人達って今どういう気持ちでいらっしゃるんかなということと、(2-16)私すごく個人的に石原さんに伺いたいことがあって、尖閣諸島を東京都が買うと言ったときに募金をしたはずなんですね。あの募金のお金は一体どこに行ったんだということは、あれは結局民主党政権の時に国が勝ったわけなんで、あのお金もどこに行ったんだろう。だから本当は問われるべきはいろいろあるはずなんですけど、止めたから免責ということでもないはずじゃないかなとは思います。
(2-13) 典型的な【思わせぶりの言説】です。情報弱者に対する心理操作目的以外には全く意味のない言説です。
(2-14) 石原氏は本人に責任があることを認めています。これも姜尚中・目加田説子・古田大輔氏と同様に、他者の言説を不当に言い換えて、その点を批判する【他説の歪曲】です。
(2-15) 目加田氏と同様に谷口氏も行政組織の意思決定システムを知らないナイーヴさを露呈しています。すべての案件の決済を都知事が直接行うと思っているようです(笑)。
(2-16) まったく論点と異なる事案をいきなり話題にしてヒステリックに石原氏を批判しています。これも【マッカーシズム】の典型です。
岸井成格氏
新銀行東京もそうですね。あれも大変な負債を抱えて倒産しちゃったということもありましたけども、今度の会見についてはある意味では予想の範囲内でしたね。(2-17)つまり自分の責任は絶対ないんだよということをいう。そのために出るんだろうなということですよね。新聞の見出しで言うとね、無責任とか責任転嫁とかずっと並んでいましたよね。結果的にはそうなったのかなと。(2-18)だから最初に果し合いに出る侍の心境だと言ったんで、もう果し合いというと決闘型と恨みを晴らす仇討ち型とあるんだけど、結果聴いていると、やっぱり仇討ち型だったんですね。つまり長いこと豊洲の移転について自分が悪いことをしたように決定をしたようにやられていると、そういうふうに持って行っているのは小池だと。この際に我が身に降りかかっている疑惑を晴らすと同時に小池をやっつける。(2-19)恨みを晴らすという目的だったんですね。それともう二つ気になることがありまして、一つはね、百条委員会に出るというのは、座して死を待つわけにはいかないと言っているということは、百条委員会でなかなか物が言いにくいということがわかっていてああいう言い方をしているのかなというのが一つ、それから(2-20)豊洲の安全性についてこれは本当に問題だと思いますけれど、あらゆる権威、科学者がOKだと、安全だと言っているんだと、だから早く豊洲に行くべきだと。誰が言っているんですかそこまで。まだモニタリングが終わっていないんですよ。そこが大問題ですね。ああいう言い方をするということはね。
(2-17) 石原氏は本人に責任があることを認めています。これも姜尚中・目加田説子・古田大輔氏・谷口真由美氏と同様に、他者の言説を不当に言い換えて、その点を批判する【他説の歪曲】です。この番組の極めて恐ろしいところは、このような歪曲を全員のコメンテイターが口をそろえて行うということです。5人も同じことを言えば、公然の虚偽も真実のように聞こえてしまうということです。これぞまさに【情報操作 information manipulation】と【プロパガンダ propaganda】の極みと言えます。ちなみに司会者の関口宏氏も同じようなことを言っています。
(2-18) 石原氏が「果たし合い」と玄関先でメディアスクラムにつぶやいたことが、これほどまで膨らむとはまったくドタバタ喜劇を見ているようです(笑)。事実など関係なしに【戦略型フレーム】の報道を続けるこの番組につける薬はないと思います。
(2-19) 根拠は何ですか(笑)。
(2-20) 専門家会議の平田座長が地上は安全と専門家会議で言及しています。それから、環境リスク分野の本物の権威の中西準子先生と米田稔先生も同意見です。これらの事実を踏まえないで危険を煽る岸井成格氏は明らかに風評被害を拡げています。
「サンデーモーニング」という事実を無視して虚偽を堂々と報じる番組が、現在も堂々と存続しているというのは奇跡に近いと考えます。
結言
本記事では、石原氏の会見報道を基にマスメディア主導の世論形成メカニズムについて考察しました。一つ言えることとして、日本のマスメディアによる論理なき【スケイプゴート化 scapegoating】は異常であり、まるで【人民裁判】のようにマスメディアの価値観がスケイプゴートに強制適用されていると言えます。この独断的論調が情報弱者を【心理操作】することで社会に【沈黙の螺旋】を形成し、世論誘導している可能性があります。
最後に、百条委員会において、都議会とマスメディアが一体化した人民裁判が行われることだけは避けてほしいと切に願う次第です。
編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2017年3月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。