15日に開催された米国の金融政策を決めるFOMCでは、追加利上げを賛成多数で決定した。政策金利であるフェデラル・ファンド金利の誘導目標を年0.50~0.75%から0.75~1.00%に引き上げた。ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁が金利据え置きを主張して反対票を投じた。イエレン議長は「利上げが遅れればリスクになる」と強調し、ドットチャートによる年内利上げの見通しは今回含めて3回という数字が示された。市場では年4回の可能性もあるのではと懸念していたことで、この結果をみてむしろ安堵した。
昨日のイングランド銀行のMPCでは、賛成多数で金融政策の現状維持を決定したが、フォーブス委員が利上げを主張して反対票を投じた。他のメンバーも早期の景気支援策縮小が正当化される可能性を示唆し、イングランド銀行の次の選択肢は利上げとなる可能性が出てきた。ちなみにフォーブス委員は6月に退任する予定となっている。
9日のECB理事会後の会見でドラギ総裁は、ユーロ圏にはデフレリスクはもはや見られないとの認識を示した。デフレリスクへの対応として一段の行動を必要とする切迫性がもはや存在しないことを主に示唆しているとも述べ、デフレ脱却宣言とも取れる発言となった。
16日の日銀の金融政策決定会合では、金融政策の維持を決定した。景気の総括判断も据え置かれた。黒田総裁は会見で、米国の利上げは国内金利の引き上げに直接的な影響はないとの認識を示した。
FRBの利上げペースは2015年、2016年の年一回から今年はすでに複数回の利上げの可能性が高くなっている。正常化に向けて慎重なスタンスからここにきてペースを早めた格好である。それだけ経済環境が好転していることになるとともに、世界的なリスクの後退も当然影響しているとみられる。
いわゆるリーマン・ショックに代表される米国の金融機関を中心に発生した世界的な金融経済危機、その後、ギリシャを発端とした欧州でのユーロ危機は、とりあえず収束した。しかし、なかなかリスクへの警戒を緩めることはできなかった。
それでもいち早く正常化路線を歩んだFRBがそのペースを速めつつある。EU離脱という選択をした英国も混乱は一時的となり、むしろポンド安で物価は上昇し、株価も上昇した。イングランド銀行も中立姿勢に戻しつつあり、正常化にむけたタイミングを計っている。日銀と同様に緩和政策に前傾姿勢をとっていたECBも、ここにきてやっと中立姿勢に戻そうとしつつある。そのなかにあって日銀だけがいつまでも非常時の体制を維持し、かなり無理な緩和策を継続し、緩和に前向きな姿勢を崩そうとしていない。
中央銀行の金融政策で物価を能動的に動かすことはかなり困難であることは、日銀の異次元緩和の進み方と物価の動向を重ねれば明らかで、それならば今度は財政でというような妙な意見まで出ている。それほど無理を重ねて物価を上げようとする前に、なぜ日本の物価は上がりづらいのか。日銀が目標としている消費者物価をあらためて分析する必要もあるのではなかろうか。といってもこれは日銀が実は一番良くわかっている問題でもあり釈迦に説法か。日銀自体、大量に長い期間の国債を買うことで物価が上がるというロジックは通用しないことはわかっていたはずである。
ここにきての欧米の物価上昇も中央銀行の金融緩和が効いているというよりも、世界的なリスクの後退により景気そのものが回復し、心配された新興国経済も思いの外しっかりしていること、そこに原油価格の上昇も影響して生じたものと言えよう。
世界的な潜在リスクは当然、いつも存在する。しかし、現実のリスクそのものは金融市場を見る限り後退しているなかで、中央銀行の金融政策だけが異次元のまま非常時の対応が続けられることに違和感はないのか。違和感だけで済めば良いが、それがいずれマーケットの歪みを生む懸念もありうるのではないか。日銀にはリスクを警戒するあまり、自ら別なリスクを高めているようにも見えてしまう。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年3月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。