4月に第一回投票が迫ったフランス大統領選挙は。候補者の討論会も始まり、佳境に入ってきた。候補者は11人だが、実質的には、ルペン(極右)、フィヨン(中道右派)、マクロン(中道左派・オランド政権の元閣僚に中道派が合流)、アモン(左派・社会党)、メランション(左派・社会党左派分離組&共産党)という組み合わせ。
そのなかで最有力候補であるマクロン元経済相が一種の徴兵制度復活を提案して波紋を広げている。ヨーロッパでは、軍事技術の高度化を受けて1990年代から2000年代初頭にかけて徴兵制度が廃止されたのだが、最近、移民問題やテロ対策を受けて兵役復活の動きが急だ。
とくに男女ともに義務化するのがトレンドになってきており、スウェーデンはすでに6ヶ月の兵役を開始したし、ドイツでもメルケルが復活もあり得るとしている。
フランスでは、すでに、ルペン、メランションの最右翼と最左翼の候補が復活を公約にしているが、そこに中道左派で、しかも、独走状態に入りつつあるマクロンが加わったことで、にわかに大統領選挙の争点のひとつになってきた。
マクロンの主張は、18歳から21歳までにあいだに、男女を問わず1ヶ月、軍事教練に参加させるというもの。武器の扱い、団体行動、スポーツ、救急救命知識の習得などを行い、市民と軍との連隊を深めるというものだ。
これに強く反対しているのは、中央右派のフィヨン陣営だ。予算に見合う効果がないとしている。もともと、徴兵制の廃止はシラク大統領のもとで行われたものだから当然といえば当然。その廃止に社会党や共産党は反対していたので、メランションが賛成なのは当然だし、アモン陣営がどう出るか注目される。
二重国籍などがヨーロッパで消極的ながらも認められていたのは、どこの国で兵役を行ったかで、忠誠の対象がはっきりしていたからだ。だから、女性はどうなるという問題は常にあった。男女同権なら兵役は男性だけというのは論理矛盾だ。そして、徴兵制の廃止で国家への忠誠の対象が非常にわかりにくくなっていたのも、テロ以来、問題にされ、このような兵役の形を変えての復活の動きに拍車をかけている。
日本ではどうなのか?あまり議論されることはなさそうである一方、憲法違反とはいえないように思うが(訓練を意思に反する苦役とはいえない)、頭の体操としては興味深い。二重国籍の人は日本のために戦う義務はないが、もうひとつの国籍のために戦う義務はあるというのが現状だ。
また、戦わないにしても、自衛隊や米軍に協力する義務はないのかもよくわからない。また、いずれもう少し詳しく論じたい。