昨今、AIによって人間の仕事が奪われるのではないかという議論が盛んになされています。
とりわけ、知識を売り物にしている専門職の多くは間違いなくAIにとって変わられるでしょう。既に、医療の診断の正確性では(AIとまでいかない程度の)機械の方が人間の医師を上回っています。
ところで、私はAIにとっての適職(?)の一つが裁判官だと思っています。
膨大な過去の判例や事実認定のデータを全て吸収できるという点だけでも人間より優れていますが、何と言っても公正な判断ができるという点がAIの最大のメリットだと考えます。
「誰が考えても結果が明らか」という事案を除けば、判決は裁判官の資質、考え方、人間性等々によって大きく左右されているのが実情です。
具体的例として、多くの被害者が出ている国賠訴訟のようなケースで被害者寄りの判決を下す裁判官が少なからずいます。
毎度毎度裁判所の前に多くの被害者が溢れ、傍聴者のほとんども被害者というプレッシャーがかかると、「被害者ら敗訴」という判決を下すのはとても勇気がいります。もしかしたら、「不当判決を下した◯◯裁判官」と名指しされててネット上で叩かれるかもしれません。
それに引き換え、国や自治体を敗訴させても賠償金は「税金」で賄われますので誰の懐も痛みません。公務員特有のモラルハザードが生じる恐れは十分あるのです。裁判官も普通の人間ですから、多くの人たちに恨まれるよりは喜ばれたいという気持ちになります。
昨今では、逆転無罪判決をたくさん下したことを書籍で著している元裁判官もいます。
緻密な事実認定を行った結果「有罪とするには合理的な疑いが残る」と判断するに至ったプロセスを開示することは、後進の法曹や裁判員になる可能性のある一般市民にとって極めて有益なことです。
しかし、「俺も無罪判決を出せば有名人になれる」などと下衆な考えを抱く輩もいるので、「なんでもかんでも無罪」という偏った判決を下す裁判官が現れる可能性も否定できません。今のいびつな日本の刑事司法を考えれば、そのくらいでもいいのかもしれませんが、「有名になりたいバイアス」が加わって「公正な判断」ができなくなるというのはとても危険です。
米国のとある州で、機械が仮釈放すべきでないという結果を出したにも関わらず人間の判断で仮釈放を決定したところ、すぐに逃走して社会を恐怖に陥れた凶悪犯罪者がいたそうです。
「機械に自分の運命を変えられるのは嫌だ」という意見もあります。
しかし、敗訴したり有罪になった人間の多くは「あの裁判官は俺を嫌っていたんだ。他の裁判官だったら…」という悔し涙を流すので、いっそ全国どこでも同じ判決を下すAIの方が当事者にとって納得感が高いようにも思えます。
人間から偏見や先入観を取り除くことができない限り、「完全に公正な判決」を期待するのは無理と言うべきでしょう。「公正な裁判」を実現するのであれば、やはり余計な感情を持たないAIが最適だと思うのですが、いかがでしょう?
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年3月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。