明日はエイプリールフールだが、このところ話題の小学校設立詐欺を超えるのはむずかしい。そこで、今日は嘘のような本当の話。
老化が進むと噛む力が弱っていく。これが原因で健康障害が進むと、ますます噛む力は弱まり、ついには食事によって十分な栄養が取れなくなる。虚弱化を押しとどめるためには、嚙む力が弱まる前には噛み応えのある食品で力を鍛えておくのがよい。虚弱化が始まっても、嚙む力が維持されるように工夫しながら、噛みやすい食品を与えるようにしたい。
この考え方に基づいて「自立高齢者を増やすための革新的食品提供システム」という研究開発プロジェクトがスタートした。プロジェクトは日本の大学と企業、スウェーデンの大学と企業が参画する国際共同研究開発である。研究資金は、日本側には科学技術振興機構(JST)が、スウェーデン側にはスウェーデン・イノベーションシステム庁(Vinnova)が提供する。
噛む力に対応した食品を3Dフードプリンタによって製造するのが、プロジェクトの目玉である。工業製品ではなく、3Dフードプリンタとは奇想天外と思うかもしれない。しかし、ネットを検索すると多くの記事を見つけることができる。
2014年11月28日の東洋経済ONLINEには「外食産業を喰い尽くす、3Dプリンタの破壊力 突然やってくるビジネスモデルの激変」という田中大貴氏と山田英夫教授による記事がある。タンパク質・脂肪などの栄養素や香料などをノズルから射出し、層が積み重なるように料理を製造し、家庭で高級フランス料理が楽しめるようになるという未来が語られている。
2016年6月14日付のWall Street Journal日本語版も「夕食は何を印刷する?3Dプリンターで料理も」という記事を掲載している。病院の患者は噛んだり、飲み込んだりに問題があっても病院食を嫌がることが多い。そこで、3Dプリンタを用いて個々の患者に合わせて洗練された料理を提供するというアイデアが書かれている。欧州連合の研究開発資金で、オランダの研究機関が、介護施設の入居者20人向けにカスタマイズした100種類の食事を提供する3Dプリンタを開発したそうだ。
僕も委員として採択した、JSTとVinnovaの共同研究開発プロジェクトも荒唐無稽ではない。僕は情報アクセシビリティについて多くの記事を書いてきたが、世界的に進む高齢社会に対応する研究開発は食の分野でも進められているのである。