金融政策運営に関する意見の興味深い箇所

27日に日銀が公表した3月15、16日開催の金融政策決定会合における主な意見は、よくよく読むとなかなか面白い箇所があった。このなかの金融政策運営に関する意見を確認してみたい。

「世界経済が好転するもとで、わが国の景気回復の足取りもよりしっかりしたものになってきているが、2%の「物価安定の目標」にはなお距離がある。こうした状況では、現在の金融市場調節方針のもとで、強力な金融緩和を推進していくことが適切である。」

これが現在の日銀の金融政策の基本的なスタンスとなっている。我が国の景気がしっかりし、日銀が異次元緩和を行って、何故2%の物価安定の目標にはなお距離があるのか、ここが物価目標達成に向けた最大の問題点となろう。そこを解き明かさないと強力な金融緩和を推進していくことで本当に良いのかどうかは結論できないはずである。

「経済の好循環は緩やかで、「物価安定の目標」達成は道半ばである現況下においては、経済の好循環の後押しに資するべく、現在の金融政策を継続するべきである。」

ここでは「経済の好循環の後押しに資するべく」との表現が気になる。実はこれが当たり前の金融政策の見方だったはずなのだが、黒田日銀のスタンスは能動的に金融政策で物価を動かすというものであり、これは昔の日銀の香りが漂う発言となる。

「物価安定の目標達成に向けて、経済を自律的な成長軌道に乗せることが重要である。海外経済を巡る不確実性も踏まえると、拙速に行動すべきではなく、現行の枠組みのもとで粘り強く金融緩和に取り組むことが肝要である。」

拙速にどんな行動を起こせというのであろうか。これはもしや昨年のマイナス金利政策などの反省を込めて、ということになるのであろうか。

「オーバーシュート型コミットメントを含む「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早く達成するために、現時点で最適な政策枠組みである。」

最適というよりもいろいろと矛盾した政策であることは昨日、このコラムにて指摘させていただいた。

「現行の金融緩和政策は、その所期の効果を発揮しており、またオペレーション上も特段の問題をきたしていないことから、早急に枠組みを変更する必要性は認められない。」

早急に枠組みを変更する必要性はさておき、日銀の現場の担当者は今年に入り、オペレーションではかなり苦労したであろうことが伺える。また、どの物価を見れば、現行の金融緩和政策は、その所期の効果を発揮していると言えるのであろうか(物価だけが中央銀行の金融政策の目標ではないが、掲げた目標はあくまで物価であったはずである)。

「金融市場局が国債買入れオペ実施日の公表などの工夫も講じながら機動的なオペ運営に努めたことから、イールドカーブは、引き続き金融市場調節方針に沿った形で推移している。」

国債買入れオペ実施日の公表などの工夫は確かにマーケットの動揺を抑えた。市場との対話がやっとスムーズになってきた印象はあるが、それでも期末に向けた対応などやや唐突な面もあり課題は残ろう。

「海外金利の上昇から、金融政策の転換を求める声があるが、日本の金融政策はあくまでも日本の景気と物価を考えて行うべきである。米国や欧州の物価上昇率は2%近傍となっているが、日本はいまだ0%近辺である。日本の金融政策の転換が必要となるまでには相当に時間がかかる。」

米国の金利上昇と日本の足元物価の回復は、日本の長期金利の上昇要因となりうる。果たして長期金利をいつまでゼロ%近辺に抑えることが可能なのかを市場は懸念している。日銀の政策変更を求めているわけではないが、実勢に見合った長期金利が形成出来ない状態が何かしらのリスク要因となったりはしないか。そもそも長期金利の目標引き上げは単なる調節ではなく利上げに見えてしまう点にも長短金利操作の難しさがある。

「本行の金融政策が注目されている中では、市場の状況次第で、我々の情報発信が、意図と異なった受け止め方をされ得る。情報発信にあたっては、その時々の状況を踏まえることが肝要である。」

まさにその通りかと思うが、なにぶん政策に矛盾した面があり(量と金利の併存、大胆な緩和で物価が動かない等々)、日銀の情報発信は注意したとしても、市場は悩んでしまう面もある。

「2月に国債買入れ額が大幅に膨らんだことは、長期金利に目標を設定すると大幅な国債買入れを余儀なくされ得るという 、イールドカーブ・コントロールの弱点が顕現化したものだ。」

木内委員の発言とみられるが、その通りとしか言いようがない。

「10年金利の目標をゼロ%程度とすることに反対であり、望ましい経済・物価情勢の実現に最適なイールドカーブの形状は若干スティープであるべきと思う。先行きの不確実性への備えもあり、買入れは極力減らしておくことが望ましい。なお、先行きの外貨調達環境を考えると短国利回りは4月以降もさほど上昇しない可能性があり、一段の買入れ減額の余地がある。」

こちらは佐藤委員の発言か。こちらもほぼ同意であるが、先行きの外貨調達環境をどのように設定しているのであろうか。

「見通しに沿って、物価の基調が高まれば、長期金利の上昇圧力が強まることが見込まれる。長短金利操作の手順や政策反応関数について、今のうちから議論しておく必要がある。」

これもその通りとしか言いようがないが、今のうちから議論しておく必要があるというのは少なくとも政策委員ベースでの議論はこれまで行っていないということになる。もちろん執行部ベースではシミュレーションはしていようが(しているはずだが)、表だっては出口に向けた動きを見せられず、政策委員間での議論はこれまで本当になかったようである。

「イールドカーブ・コントロールのもとで、市場の金利や期待をコントロールするのは難しい一方、国債買入れオペは、むしろ市場の期待に影響され、買入れ額の調整等の面で柔軟性を失っていくリスクがある。このため、資産買入れ額に新たに目標を設定し、それを秩序だって段階的に下げていくことが、政策の持続性と市場の安定性を高める。」

これは発言内容から、資産買入れ額を減額して操作目標とする枠組みを提案していた木内委員の発言と思われる(同一人物の発言が複数回載っていることはありうる)。これが素直なやり方のひとつであると思うが、金融緩和の後退は認めたくない現在の日銀が、この政策を取り入れることは、余程のことが起きない限りはたぶんない。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年3月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。