保育のニュースがもっと身近に。今さら聞けない、保育制度にまつわる素朴なQ&Aを、わかりやすく解説します。
今回のほいQは、今話題の「男性保育士」について。
「男性保育士には女児の着替えをしてほしくない」という保護者の意見は考慮すべきか-。
先日、千葉市長のTwitterでの発言に端を発した「男性保育士」を巡る議論。
みなさんはどう感じましたか?
お子さんの通う園、あなたの働く園に男性保育士はいますか?
今回は、保育士という資格の成り立ちを見ながら、「男性保育士」について考えます。
保育士資格と保母資格
児童福祉法では、保育士について次のように定められています。
「保育士とは、第18条の18第1項の登録を受け、保育士の名称を用いて、専門的知識及び技術をもって、児童の保育及び児童の保護者に対する保育に関する指導を行うことを業とする者をいう。」(児童福祉法第18条の4)。
よく幼稚園の先生と混同されますが、別の資格です。
幼稚園の先生は「幼稚園教諭(一種・二種・専修)」の資格を取得している者のことで、管轄は文部科学省。保育士の管轄は厚生労働省です。
両方とも、子どもに関わる仕事としては同じなのですが、保育士免許で幼稚園の先生になることはできず、逆に幼稚園教諭免許で保育士として働くこともできません。
さて、この保育士資格、1999年までは「保母」という名称でした。
1999年4月に児童福祉法が改正されたことによって「保育士」という国家資格になりました。
日本で最初の幼稚園が設立されたのは1876年、東京女子師範学校附属幼稚園(現在のお茶の水女子大学附属幼稚園)です。
当時、幼稚園で幼児を保育する女性には、保姆(ほぼ)という名称が用いられていて、1926年の 「幼稚園令」 発布後には、文部大臣の定めた検定規則によって、全国共通の保姆検定制度がつくられました。1947年(昭和22)に学校教育法が制定されて、幼稚園が小学校などと同様、学校と位置づけられた時に、「保姆」から「教諭」に改められました。この改正を機に、女性だけでなく男性も「教諭」の資格を得、幼稚園教諭となることができるようになったのです。
一方日本で最初の保育所は、1890年に赤沢鐘美が設立した新潟静修学校の付設保育部と言われています。
戦前には、保育所保母の資格について特別な規定はなく,幼稚園の保姆資格をもっている者が保育所保母として働き、無資格者も多かったようです。
学校教育法が制定された年と同じ1947年、児童福祉法が制定されて、保育所が児童福祉施設として法的に定められました。
そして、保育所保母の資格要件として、以下の条件が定められました。
①厚生大臣の指定する保母を養成する学校その他の施設を卒業した者
②保母試験に合格した者
③児童福祉事業に 5 年以上従事した者であって,厚生大臣が特に適当と認定した者
翌1948年、厚生省は「保母養成規定」を作成し、1949年には、第1回の保母試験が実施されました。
しかし、保育所保母は女性を想定していたため、男性が保母資格の受験を認められたのは1977年以降。それ以前は男性が資格を取得することはできませんでした。
1977年、児童福祉法の改正で、男子も「保母に準ずるもの」と呼称されるようになったことで、男性も児童福祉施設において児童の保育に従事することができるようになりました。
また、保母養成機関であった〈高等保母学院〉にも、男子の入学が認められるようになり、〈高等保育学院〉と改称されました。
1985年には男女雇用機会均等法が制定されました。
資格を取得して保育園で働く男性保育者が増加し、俗称として「保父(ほふ)」という名が用いられるようになりました。
しかし、資格の正式名称は「保母」のまま。
1999年の男女雇用機会均等法の改正に合わせて、児童福祉法施行令も改正され、ようやく、資格名が男女関係ない「保育士」に改められたのです。
男性保育士はどのくらいいるの?
総務省国勢調査の推計によると,2000年の保育士就業者数は、36万1,488人。うち男性は4,666人で,全体に占める割合は1.3%です。
2010年には、就業者数は47万4,900人、うち男性は1万3,160人で,割合も2.8%に上昇しました。
男性保育士は近年、確かに増加していますが、それでも全体的に見ればまだまだ少ないですね。
ちなみに男性幼稚園教諭の割合は、「約7~8%」と、保育士よりも割合が高いようです。
平成7年 1995年 |
平成12年 2000年 |
平成17年 2005年 |
平成22年 2010年 |
|
保育士総数(人) | 305,090 | 361,488 | 419,296 | 474,900 |
男性(人) | 2,515 | 4,666 | 9,277 | 13,160 |
割合 | 0.82% | 1.29% | 2.21% | 2.77% |
(総務省国勢調査より)
平成26年賃金構造基本統計調査の結果から、給与について見てみると、女性保育士の平均金額より若干高いものの、男性全体の給与よりはかなり低いことがわかります。
男性保育士ってどんな仕事をするの?
「保育士」は専門職ですので、男女で職務内容は変わりません。
保育士は子どもとただ遊んだり、お世話をしているだけと思っている人も多く、保育の専門性について、まだ認識されていない点があるかもしれません。
今回議論の焦点になった着替えやおむつ替え、排泄介助も、大切の職務の一つではありますが、それだけが保育士の仕事ではないのです。
保育は、「保育所保育指針」という国の指針に基づいて行われ、「養護」と「教育」が一体となって、子どもの育ちを保障するものです。
園で預かっている子どもに対してだけでなく、保護者や地域家庭の支援といった役割も担っていて、近年ますます職域が広がり、専門性も求められています。
男性、女性といった性別役割でなく、「保育士」としての専門性が求められています。
実際に保育業界で働く男性は増えています。
しかしながら、まだまだ数の少ない男性保育士。
勤務している園によっては、「力仕事担当」「身体を使った遊びを求められる」といった傾向もあるようです。
また、「賃金が低い」「男性保育士の先輩がいないので相談しづらい」今回の議論のように「保護者からの理解を得られにくい」といった働きにくさも。
もともと女性が担っていたことによる業界全体の待遇の低さ、男性にとって働きにくい環境といった、改善すべき状況があるのは事実。職場の人間関係だけでなく、給与体系や労働時間等は、男性女性に限らず、保育士全体の課題でもあります。各事業者によって工夫できる部分もありますが、業界全体として声をあげて、男女差によらない、専門性をもった職業としての地位を確立していくことが必要です。
男性保育士を取り上げた小説や漫画、ドラマもありますので、ぜひ見てみてくださいね。
新野剛志「戦うハニー」
川端裕人「みんな一緒にバギーに乗って」
落合さより「ほいくの王さま」
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編集部より:この記事は認定NPO法人フローレンス運営のオウンドメディア「スゴいい保育」より、2017年3月14日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「スゴいい保育」をご覧ください。