相談に応えるときは、気をつけよう

写真ACより(編集部)

私は、弁護士になる前に旧長銀と野村投信でサラリーマンをやってました。
そのサラリーマン時代、結婚に関する相談を受けたことが何度かあります。おそらく「法学部卒業」ということで相談をしてきたのでしょう。司法試験も公務員試験も受験せず不真面目な学生時代を送った私としては、いささか困ったことではありました。

そのうち2件が、今でもとても印象に残っています。
1件は、お見合い相手とこのままお付き合いを続けるべきかどうか悩んでいた女性の相談でした。
日曜日に彼とデートで映画に行ったそうです。当時の映画館には新幹線のように「自由席」と「指定席」があり、「指定席」はかなり高額なものでした(私は一度も座ったことがないので、金額の記憶はありません)。「自由席」が一杯だと立見になることもありました。

彼女が言うには、「2人でずっと立っていたんですよー。指定席は空いていたのに」とのことでした。
20代の独身サラリーマンだった私は、気の利いたことを言って尊敬されたいというスケベ心があったのでしょう。
「好きな相手とだったら立っていても楽しいはずじゃないかな?もしかしたら、君は彼のことをそれほど好きじゃないのかもしれない」などと口走ってしまいました。

彼女は「そうよねー!」とひどく納得して見合い話を断ってしまいました。
約1年後、転職に際して職場の一人一人に挨拶回りをしていたら「荘司さんのせいで人生変わってしまいましたよ」と厳しい一言を彼女から浴びせられました。

もう1件も同じようなものですが、結納を交わしていた点が違っています。
彼女が、結婚前にアメリカに在住している親友のところに行く当日、婚約者がいきなり「成田空港まで車で送ります」と自宅に現れたそうです。

事前連絡なく、しかも早朝だったので、彼女の家人らも驚いて困ってしまったとか。
どのように答えたのかは忘れましたが、彼の努力と献身さを讃えたことは確かです。

弁護士なりたての頃その話をベテランの弁護士にしたところ、「彼は彼女が本当に一人で親友のところに行くのかを確かめに来たんだぜ。独占欲の強い男は相手の女性の行動をすべて把握したがるものなんだ」と教えられました。
確かに、相手の女性の行動を逐一監視するような言動をしてしまったがためにフラれてしまった男性を何人か知っています(会社で飲み会があるというと「男性は来るの?」「二次会は行くの?」などとくどくど詮索する男性が典型です)。

彼女はめでたく結婚したようですが、その後どうなったのかわかりません(汗)籠の中の鳥にされていなければいいのですが…。

弁護士になってからは、どのような相談でも「まず耳を傾けて事情を聴き」次に「それであなたはどうされたいのですか?」と尋ねるようになりました。

場合によっては「以上のように、方法は3通りあります。決めるのはあなたです。私は一介の法律屋に過ぎませんので、あなたの人生を左右することはできません」とお答えしています。対価をいただいて相談に乗るという責任感と、年齢と経験によって少しは謙虚になったからでしょう。

いくら無料の素人的相談であったとしても、本人の意思をじっくり確認する前に勝手に自分の意見を言ってしまった当時のことは、今振り返っても未熟極まりなく赤面するばかりです。「相談される」という一種の優越感に乗ってしまったのでしょう。

読者のみなさんもお気をつけください。「人生が変わった」などと言われたら…やはり寝覚めが悪いものですよ。

荘司 雅彦
2017-03-16

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年4月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。