米投資家ソロス氏対オルバン首相

長谷川 良

ハンガリーの首都ブタペストで4日夜、数千人の市民が著名な米国のエリート大学、中央ヨーロッパ大学(CEU)の前に集まり、オルバン政権が同日、国民議会で高等学校法の改正案を賛成多数(賛成123票、反対38票)で採決したことに抗議した。
同集会は独立学生団体「講義の自由」が主催した。彼らは「オルバン政権は大学の自治権を侵害している」、「教育の自由への挑戦だ」と批判し、アーデル・ヤーノシュ大統領に拒否権を行使して法案に署名しないように要求している。

国民議会で採決された改正案によれば、外国人が開校した学校はハンガリー国内の学校と共に出身国にも同様の学校を開校していなければならなくなる。その条件を満たさない外国大学は来年1月1日から新学生を受け入れることはできなくなる。

CEUは、ハンガリーのブタペスト出身のユダヤ系の世界的な米投資家、ジョージ・ソロス氏が1991年、冷戦終焉直後、故郷のブタペストに創設した大学だ。同法案はソロス氏が創設したCEUの終焉を意味する。なぜならば、CEUはブタペストにあるが、米国には存在しないからだ。CEUは目下、約100カ国から1400人以上の学生が登録している。

ハンガリーの野党系メディアは「オルバン首相はCEU問題で米国政府と交渉する用意があると表明するなど、CEU問題で調停役を演じる気だが、CEU問題の米国での管轄先は連邦政府ではなくソロス氏のオープン・ソサエティ財団(Open Society Foundation ) 本部があるニューヨーク州だ」と指摘し、オルバン政権の強権政治を糾弾している。

ソロス氏自身は、「オルバン政権の政策は欧州連合(EU)の価値観に反する」と批判。「CEUを救え」ということで署名集めも行われ、3万人以上の署名が3日、ハンガリー議会議長宛てに送付されたばかりだ。

なお、CEUは4日、公式サイトで議会の法案採決を批判する声明を発表している。

Central EUropean University (CEU) condemns the Hungarian Parliament’s passage of amendments to the Hungarian national law on higher education today. The new law puts at risk the academic freedom not only of CEU but of other Hungarian research and academic institutions

オルバン政権の政策について、ドイツのフランク= ヴァルター・シュタインマイアー大統領、米国務省、駐ハンガリー米大使館などから激しい抗議の声が挙がっている。
隣国オーストリアは「オルバン政権がCEUを追放したいのなら、CEUはウィーンで開校すればいい」(ウィ―ン市のMaria Vassilakou副市長 )とCEUの移転先の候補に手を挙げている。また、オーストリア大学会議(UNIKO)もブタペスト議会の決定に抗議を表明するなど、批判の声は欧州全土に広がってきている(以上、オーストリア通信=APAから)。

ちなみに、オルバン首相自身、その政治活動の初期、ソロス氏から経済支援を受けてきたことは周知の事実だ。その首相が今日、外国団体の財政支援を受ける非政府機関(NGO)の活動に厳しい監視の目を注ぎ、ソロス氏創設のCEUを閉鎖に追い込もうとしているわけだ。難民受け入れ問題でEU本部ブリュッセルと戦ってきたオルバン首相も世界的な投資家ソロス氏との戦いでは無傷でいられないだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年4月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。