FRBの情報漏洩問題、中央銀行の情報漏洩は何故起きるのか

久保田 博幸

リッチモンド連銀のラッカー総裁は4日、2012年の機密情報漏洩事件に関わったとして、即日辞任すると発表した。

ラッカー総裁は声明で2012年10月2日に調査会社メドレー・グローバル・アドバイザーズのアナリストと話した際、その後のFRB内の会合で話し合われる予定の政策選択肢についてアナリストが詳細な情報を握っていることが分かったとした。だがアナリストとの会話でコメントを拒否しなかったため、その情報を確認もしくは事実と承認しているかのような印象を与えた可能性があると述べた(WSJ)。

問題となったのはメドレー・グローバル・アドバイザーズの2012年10月の顧客向けリポートで、FRB内部の政策協議に関して市場を動かしかねない情報が含まれていたとされる。この問題を巡り下院共和党や連邦当局が調査を行っていた(WSJ)。

メドレー・グローバル・アドバイザーの有料レポートはメドレー・レポートと呼ばれ、真偽のほどはとにかくも金融に関する特ダネが掲載されることがあり、それが市場を動かすということがあった。最近ではあまり聞かなくなったものの、私が債券ティーラーの現役時代はこのレポートの記事がよく話題となっていた。

2012年10月当時の自分で書いたものを確認してみたが、メドレー・レポートに触れたものはなかった。しかし、それを探しているときに面白いものを見つけた。2012年10月31日の日銀の金融政策決定会合で追加緩和が決定されていたが、それについては私は下記のような事を書いていた。

「日銀は31日の金融政策決定会合で、追加緩和策を決定した。事前に資産買入等基金の10兆円程度プラスリスク資産の増額は報じられていた。今回は政府による経済対策と歩調を合わせた格好となっており、この報道は日銀関係者というよりも政府関係者から漏れた可能性が高いと思われる。」

憶測で書くなと言われそうではあるが、この際には決定会合の内容が事前に漏れていたことは確かであった。これはこの会合に限らずで、以前には決定会合の最中に決定内容が速報といった格好で報じられることもあった。かなり大昔となるが、日銀短観そのものが1週間前に漏洩して債券ディーラー間で回し読みされていたということもあったそうである。

中央銀行の金融政策、大昔では公定歩合の上げ下げとかは報道関係者にとり、そのスクープを抜くことが大きな勲章のようなものになっていたとされている。これもあってか、やや金融政策に関する事前報道が加熱していた時期もあった。ところが、こと日銀に関しては黒田総裁が就任してからは、そういったことがほとんどなくなった。だからこそ黒田日銀の追加緩和がサプライズと称されたのである。黒田総裁の異次元緩和そのものについては個人的には批判的ながらも、この情報漏洩を完全に遮断している姿勢に対しては評価している。

ただし、中央銀行が作為的に金融政策の情報を流すケースもあることにも注意する必要がある。いまのFRBがまさにそうである。年内複数回の利上げをするぞと関係者がコメントしている。これは当然ながら情報漏洩ではない。特に金融緩和ではなく、その反対方向に向かう際にはそれを市場に浸透させ、市場の動揺を押さえ込む必要があるためである。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年4月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。