19世紀から20世紀にかけて、イギリスでは食品に混ぜ物をして、かさを増やしたものが大量に流通していた。パン、紅茶をはじめ、薬効が高いとされたチョコレートは格好のターゲットとなる。その後、食品や医薬品に関する法律が制定されるが、このような行為は後をたたなかった。
今回は、ケンズカフェ東京(東京・新宿御苑前)の氏家健治シェフ(以下、氏家)に、チョコレート業界の歴史について伺った。同店のガトーショコラは、フジテレビ「有吉くんの正直さんぽ」、TBS「ランク王国」、日本テレビ「ヒルナンデス! 」「おしゃれイズム」「嵐にしやがれ」などで紹介されたことがあるので、ご存知の方も多いことだろう。
■混ぜ物だらけのチョコレート市場
――どのようなものが混ぜられていたのだろうか。当時の文献にはジャガイモのデンプンが混ぜられたとある。
「皆さまは、濃厚なものがチョコレートだと思ってませんか。デンプンなどが混じっていると濃厚になる場合があるのです。口の中で溶ける時に冷たかったり、ゼラチン状の塊ができるようなら、それはデンプンなどの混ぜ物が入っていることを疑わなくてはいけません。文献に書いてある内容は整合性があると考えられます。」(氏家)
「混ぜ物を見破る検査としはヨウ素反応が使用されていました。デンプンが含まれていればヨウ素反応によって紫色に変色します。」(同)
――実際にデンプンを加えたもの日持ちがしないため痛みも早かった。チョコレートは日持ちがすることから見破られることも多かったようだ。
「また、チョコレートは貧血症に効果があるとされていました。チョコレートを用意して鉄分が混じった水で溶いたり、ペーストに鉄の粉を混ぜるなど、かなり荒っぽい作り方をしていたようです。」(氏家)
――1850年、イギリスの医学雑誌『ランセット』(The Lancet)が、食品を分析するための衛生委員会を創設することを発表する。『ランセット』は、1823年にイギリスの外科医トーマス・ウェイクリーによって創刊された査読制の医学雑誌である。
「チョコレートに関する調査は、分析した品目のうち過半数に違反があり、そのほとんどは、デンプンを含んでいたとされています。他には、粘土や絵の具で着色されていたとの記録が残っています。この後、食品添加物法が制定されるなど法整備がおこなわれます。」(氏家)
「チョコレートの歴史には欠かせない、キャドバリー社 (Cadbury)も違法行為をしていましたが、『今後は混ぜ物をした商品は売らない』と消費者に約束したことで窮地を切り抜けます」(同)
――また、キャドバリー社 の提案によって、チョコレートのパッケージに原材料を記すことが一般的となる。この後、キャドバリー社はシェアを拡大していく。
■カカオ飲料とともに市民権を得る
――イギリスは世界有数の紅茶消費国である。「紅茶と言えばイギリス」と言われる程、紅茶文化が根付いている。目覚めのアーリーティー、朝食と一緒に飲むモーニングティー、お昼に飲むランチティー、おやつに飲むアフタヌーンティー、食事と一緒に飲むディナーティー、就寝前のナイトティー。紅茶は生活の一部である。
イギリスには、目覚めの紅茶から、眠りの紅茶まで生活に密着した紅茶文化が存在する。コーヒーハウスの出現もあり、最初に市場確立を果たしたのは、カカオ飲料(チョコレート)だった。カカオ飲料は国民的な飲み物として地位を確立していたが、紅茶も同様に市民権を獲得して紅茶文化を形成していくのである。
今回は、ケンズカフェ東京(東京・新宿御苑前)の氏家健治シェフに、チョコレート業界の歴史について伺った。謹んで御礼申し上げたい。
尾藤克之
コラムニスト
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