4月7日付、日経新聞 Deep Insight の「起業大競争と内向き日本」と題する記事は、2016年の国内ベンチャー投資が2030億円と過去最高に達したと報じた。同時に「世界のダイナミックな動きと比べたとたん、日本はかすんでしまう。」とも指摘した。 記事は未上場ながら企業価値が10億ドル(約1100億円)以上の「ユニコーン」とよばれる有望ベンチャーを紹介している。ユニコーンについては筆者も「GDP600兆円達成へ向けたイノベーション促進策」で以下のように紹介した。
「全世界で185社存在するユニコーンの国別内訳をみると、アメリカ(99社)に続いて、2位中国(42社)、3位インド(8社)とアジア勢が健闘しているが、日本はアジアの中でも韓国(3社)、シンガポール(2社)の後塵を拝し、インドネシアと同じ1社のみ。」
この時は今年2月時点の数字を紹介したが、「フェアユースとイノベーション――『フェアユースは経済を救う デジタル覇権戦争負けない著作権法』出版にあたり」では昨年11月時点のデータを紹介した。5か月前と記事が紹介する現時点を比較すると、トップのアメリカは99社と変わらないが、第2位の中国は38社から45社に、第3位のインドは8社から9社に増えている。これに対して、日本はスマホで中古品を売買するフリーマーケットアプリのメルカリ1社のまま。
記事はさらに、「資金や人材の確保が容易でスタートアップが発展しやすい場所のランキングを見ると、20位までにシリコンバレーやロンドン、バンガロール(インド)などが並ぶが、東京や大阪は蚊帳の外だ。」とも指摘する。
問題点として、スタートアップの専門家たちの指摘を2つに集約している。
「まず起業がIT関連に偏り、ゲームアプリなどで『そこそこ成功する』パターンが定着したこと。そして『有名大卒で金融機関出身』といった最近主流の優等生起業家はプレゼン上手でそつがないが、ここ一番でリスクをとれないということだ。要はアニマルスピリット不足で内向き志向。」
最後に記事は以下のように結ぶ。
「過去最高とはいえ、日本のベンチャー投資額は他の主要国に比べるとなお少ない。せっかくの芽も世界から隔絶された「温室栽培」では強く育たない。こじんまりとした起業では世界は変えられない。」
確かにユニコーン企業数でアメリカに次ぐ中国やインドの人口は日本の約10倍。日本と同じ1社のインドネシアも日本の2倍の人口を誇り、日本と違って人口が増えている。こうした国であれば、国内市場だけでも規模の利益が十分期待できる。3カ国に比べて人口も少なくかつ減少に転じている日本こそ内向きでなく、外に打って出なければならない。世界をめざすには世界を変える発想が必要である。内向きのこじんまりとした起業ではなく、世界を変える発想こそが大輪の花を咲かせるからである。
スティーブ・ジョッブスは、ペプシコーラのCEO候補でもあったジョン・スカリーを、当時ベンチャー企業だったアップルにヘッドハントした。1年半以上、固辞し続けたスカリーをくどき落とした有名な殺し文句が、「このまま一生砂糖水を売って過ごすのか、それとも一緒に世界を変えてみないか」だった。
記事は「『有名大卒で金融機関出身』といった最近主流の優等生起業家はプレゼン上手でそつがないが、ここ一番でリスクをとれないということだ。要はアニマルスピリット不足で内向き志向。」とするが、この点についてもスティーブ・ジョッブスが米有名大の卒業生に贈った有名な言葉がある。スタンフォード大卒業式で述べた “Stay hungry, stay foolish” という言葉である。
日本の起業家にも内向きでこじんまりとした起業に安住することなく、ハングリー精神を失わずに世界を変えるような発想で起業することを期待したい。
城所岩生(国際大学客員教授・米国弁護士)