ローマ法王のエジプト訪問の背景

ローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王のフランシスコ法王は来月28日から2日間の日程でエジプトの首都カイロを訪問する。バチカンが18日、公表した。同訪問は、エジプトのエルシーシ大統領、同国のカトリック教会司教会議、キリスト教少数宗派コプト正教会の最高指導者タワドロス2世、そして同国のイスラム教スンニ派の最高権威機関「アズハル」のタイイブ総長らの招請に応じたもの。バチカン放送によると、フランシスコ法王の詳細な訪問先などは後日、発表される予定だ。

ローマ法王のエジプト訪問は近代に入って2回目となる。故ヨハネ・パウロ2世は2000年2月、カイロを訪問し、市内の競技場で記念礼拝を行い、コプト派正教徒指導者と会見し、シナイ山を巡礼訪問している。

2000年の時と今日ではエジプトの政情は全く異なっている。ムバラク政権時代はエジプトは中東で最も安定した国だったが、今日、エジプトは他の中東諸国と同様、2回の革命を体験し、多くの犠牲を払い、その政情は依然、不安定だ。

チュニジアから始まった中東アラブ諸国の民主化運動(通称・アラブの春)は少数宗派にも少なからず影響を与えた。エジプト最大の少数宗派、コプト派正教徒はムバラク政権下では黙認されてきたが、イスラム根本主義組織「ムスリム同胞団」主導の政権発足後、厳しい弾圧を受けてきた。

カイロのタハリール広場で民主化運動が勃発した時、コプト派最高指導者シュヌーダ3世総主教(当時)はムバラク大統領、スレイマン副大統領、そしてシャフィク新首相らを支持したこともあって、イスラム根本主義組織「ムスリム同胞団」出身のムルスィー大統領の政権就任後は、コプト正教会への風当たりは強くなっていった。そして2013年の軍の介入時では、イスラム過激派と戦うエルシーシ現大統領派を支持してきた経緯がある。

ローマ法王フランシスコは2013年5月10日、コプト正教会の最高指導者タワドロス2世と初めて会合している。コプト派正教徒はヘロデ王の迫害を逃れてエジプト入りしたヨセフとマリア、イエスが歩んだ聖地を保護してきた。ちなみに、ローマ法王はイエスの第1弟子ペテロの後継者であり、コプト正教会のタワドロス2世は新約聖書「マルコによる福音書」の作者、使徒マルコの後継者に当たる。エジプトのコプト正教徒は非イスラム教最大少数派で、人口8000万人の約10%と推定されている。

タワドロス2世は「エジプトはローマ・ギリシャ文明、そしてイスラム文明の発祥の地であり、ユダヤ・キリスト教の伝統も継承する」と述べ、エジプトが歴史的に大きな役割を演じてきたことを強調している。

フランシスコ法王のエジプト訪問は、アブラハムから派生したユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3大宗教との出会いであり、ペテロとマルコの再会を意味する。フランシスコ法王の今年の外国訪問のハイライトだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年3月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。