エネルギー源:米国攻撃の影響

米国によるシリア空軍基地へのミサイル攻撃のニュースを受けて原油価格は上昇したが、とても「想定外」とは言えず、むしろ「想定内」といってもよいレンジの中で収まっている。

ここ最近の価格動向を振り返ってみよう。
OPECが減産を合意した昨年11月30日のNYMEXのWTI終値は49.44ドルで、取扱量は史上最高の24億7,400万バレル、未決済取引残高(Open Interest)は20億2,000万バレルだった。それから3ヶ月あまり、12月7日に一度50ドルを割った以外は50ドル台前半の狭い範囲で推移していた。この間、もっとも高かったのは2月23日の54.45ドルで、3月9日になって再び50ドル割れを記録し、それから3月末まで50ドル以下で推移していた。

ちなみにミサイル攻撃翌日の4月7日(金)は終値52.24ドル、取扱量15億2,000万バレル、未決済取引残高22億1,000万バレルで、昨日4月10日(月)はそれぞれ、53.15ドル、11億5,600万バレル、21億8,900万バレルだった。

興味深いのは先物曲線で、期近ものの終値に対して、数ヵ月後から2~3年間は2~3ドル高の水準でほぼフラットで推移しているのだ。つまり今年最高値を記録した2月23日でも57ドル程度だったということだ。

これは市場参加者の見方が、OPEC/非OPECの減産効果とシェールの増産効果がほぼ拮抗し、リバランスはゆっくりとしか進んでいない、ということで一致していることのあらわれだろう。

逆にいえば、このどちらかが崩れることがはっきりすれば、方向性は見えてくるとも言える。
さて、これからアメリカはドライブシーズンを迎えるのだが、価格はどちらに向かうのだろうか、と考えていたら、今朝FTにEd Crooks(在ニューヨーク)が興味深いタイトルの記事を書いていたので、恋人に会いに行くような気持ちで読み始めた。”Energy Source: Aftermath of US strikes” (around 00:00am on Apr 11, 2017 Tokyo time) という記事で、サブタイトルが “Attack on Syria shows how dependent the world still is on Mideast crude supplies” となっている。

読んで見ると結構長い記事で、今般のミサイル攻撃を踏まえて現状を総括しており、たとえば石炭から電気自動車までカバーしている。その内容は極めて幅広く、限られたスペースですべてをご紹介するのは筆者の能力を超えている。したがって、いつものように筆者の興味と関心に添って、要点だけを次のとおり紹介しておこう。

・中東で戦火が上がると、通常石油価格は上昇するものだから、米国がシリアの空軍基地をミサイルで攻撃した後、原油価格が上昇したことは予測された反応だった。だが長続きはせず、Reuter Breakingviewsは、原油供給が阻害されると予測する理由はないと論じた。

・FTのAnjli Raval(在ロンドンのエネルギー記者)は、今回の攻撃の結果は究極的には価格を押し下げる可能性がある、と指摘している。たとえばロシアが、サウジや他のOPEC諸国との協調原産を続ける意欲を失う可能性があるのだ。今回の攻撃の前から、サウジとロシアの間で、現実のものではなく比喩的なものだが、石油価格戦争の気配がある、と警告する声もあった。

・今回のシリア攻撃は、石油市場にとって重要な影響をもたらさないかも知れないが、シェールブームの後でも、世界は中東からの石油供給におおいに依存していることを思い出させるものだ。

・Teslaは年初以来販売が好調で、時価総額がFordを上回っているが、既存の大手石油会社も電気自動車に注力している。Fordは今週、2025年までに中国で販売する車の70%がハイブリッドか電気自動車になると語った。

・カリフォルニア州では、巨額な資金が必要な道路や橋の修復工事、代替工事の費用捻出のため新たな税金を課すこととなった。ガソリンにかかる税金がガロンあたり12セント(リットルあたり約3.5円)増となり、電気自動車は1台あたり年間100ドル(約1万1千円)の税金を支払う必要がある。1週間に16ガロン(約60リットル)以下しか使用しない人にとってはガソリン車の方が負担が少ないことになる。

・米国第3位の石炭生産業者であるCloud Peak Energyの最高経営責任者はトランプ大統領に書簡を送り、パリ協定に留まり、たとえばCCS(二酸化炭素回収貯留)への援助等を
して欲しいと要請した、と伝えられている。

ふむふむ。
そういえば、昨日のローマにおけるG7エネルギー相会合は、地球温暖化問題を巡り意見の一致が見られず、コミュニケが出せなかったと報じられていた。おそらくトランプ政権内部での意見統一に時間がかかっているのだろうな。米国の石油会社も石炭会社も、現業は「パリ協定残留」を望んでいるのだから、結論は見えているような気がするのだが・・・。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年4月11日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。