世界のキリスト教会は16日、1年で最大のイベント「復活祭」(イースター)を迎える。イエス・キリストが十字架で亡くなった後、3日目に蘇ったことを祝う「復活祭」は移動祭日だ。東西両キリスト教会のカレンダー(グレゴリオ暦とユリウス暦)が異なるために「復活祭」の日は異なってきたが、今年は両教会とも16日に「復活祭」を共に祝う。
今回のコラムのテーマに関係するので、先ず9日から始まった聖週間(受難週)を簡単に復習する。
「復活祭」前の最後の日曜日(9日)はエルサレム入りするイエスをシュロの枝で迎えた故事に倣って「シュロの主日」と呼ぶ。13日はイエスが弟子の足を洗った事から「洗足木曜日」だ。イエスは十字架磔刑の前夜、12人の弟子たちと最後の晩餐をもった日だ。ローマ法王はサン・ジョバンニ・イン・ラテラノ大聖堂でイエスの故事に倣って聖職者の足を洗う。そして14日は「聖金曜日」でイエスの磔刑の日であり、「受難日」「受苦日」とも呼ばれる。そして「復活祭」の16日、ローマ法王は復活祭記念礼拝を挙行し、サン・ピエトロ大聖堂の場所から広場に集まった信者たちに向かって「Urbi et Orbi」(ウルビ・エト・オルビ)の公式の祝福を行う。これが毎年バチカンで挙行される一連の「復活祭」の行事だ。
ところで、今回は「聖金曜日」の話だ。しかし、イエスの十字架に関する神学論争ではない。「聖金曜日」を国民の祝日とすべきかの議論についてだ。
オーストリアでは「聖金曜日」を法的祝日と認知されているのはプロテスタント教会だけだ。だから、プロテスタント信者の労働者がその日、仕事をすれば当然、祝日手当が出る。通常、時給は平日の倍だ。一方、大多数のローマ・カトリック教会信者の労働者にとっては「聖金曜日」は祭日だが、祝日となっていない(オーストリアは1934年、バチカンとの間で宗教条約を締結済み)。だから、その日に働いたとしても特別手当は支給されない。もちろん、無神論者の労働者にとっても「聖金曜日」は祝日ではないので、カトリック教徒と同様だ。
この差別を苦々しく感じてきた無神論者やカトリック教徒は「差別禁止法に反している」として裁判に訴えた。そして最高裁裁判所がこのほど「差別禁止法に該当するかの判断を欧州司法裁判所に委ねる」と決定したのだ。どちらに転んだとしても、反発は必至の判決を下したくない、というオーストリア裁判官の計算も働いているのだろう。
欧州司法裁判所がどのような判決を下すかは目下、不明だが、はっきりとしている点は今年の「復活祭」は従来通り、プロテスタント信者だけが特別手当を受けることになることだ。
参考までに、「聖金曜日」が国家の祝日となれば、オーストリア国民は「聖金曜日」、土曜日、日曜日(復活祭)、そして「聖月曜日」と4日間の大型連休を享受できるわけだ。
もちろん、オーストリア経済界では「聖金曜日の国家祝日」化には強く反対している。経済界の計算では祝日が1日増える度に6億ユーロの損失が出てくるというのだ。それだけではない。「『聖金曜日』を祝日とするのならば、ユダヤ教徒の祭日『ヨム・キプル』(贖罪の日)も『国民の祝日』とすべきだ」という声が聞かれる。また、「イスラム教徒の『犠牲祭』(イード・アル=アドハー)は次期祝日の最有力候補だ」という意見すら出てきている、といった具合だ。
ちなみに、オーストリアでは有給休暇日数と祝日数を合わせると年間の休日日数は38日間だ。そのうち、祝日日数は13日間で、リトアニアと共に世界で2番目に多い。「聖金曜日」が「国民の祝日」となれば、リトアニアを抜いて単独2位だ。いずれにしても、オーストリア国民は他国の国民と比較しても十分、休日が与えられている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年4月12日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像はWikipediaから)。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。