サンクコストと認知不協和

失った時間もサンクコストも回収不能!(写真ACより:編集部)

「サンクコスト」という経済用語は、世の中で割と頻繁に用いられています。海の底に沈んでしまって回収不能になってしまったもののように、どんなにあがいても回収できない費用のことです。

例えば、当初はダムを作る必要があったことから3年間費用を投じてダム建設をしていたところ、新たな技術の発達でダムが不要になったとしましょう。過去3年間で費やした費用が仮に100億円だとしても、現段階ではダムを作る意味がないので100億円を取り戻すことは出来ません。「100億円投じた以上、何が何でも完成させなければ」と言って更に100億円を投じるのは愚の骨頂です。200億円かけて無用の長物を作ってしまう結果となるからです。

映画でも本でも、どうにもつまらなくなったら観たり読んだりするのを中断してしまうべきなのです。チケット代や本代は返金されないサンクコストです。それ以上無意味な時間を過ごすのは「追加コスト」を払うことになってしまいます。残りの時間を有意義に使う方がはるかに賢明です。

しかしながら、人間というものは理屈通りに「サンクコスト」を捨ててしまうことが出来ないようです。その最大の原因を、私は「認知不協和」だと考えています。

Wikipediaによると「認知不協和とは、人が自身の中で矛盾する認知を同時に抱えた状態、またそのときに覚える不快感を表す社会心理学用語」と定義され、次のような例が挙げられています。

認知1  私、喫煙者Aは煙草を吸う
認知2  煙草を吸うと肺ガンになりやすい

この2つの認知はA氏にとっては極めて不快なものです。
そこで、「認知4 喫煙者で長寿の人もいる」「 認知5 交通事故で死亡する確率の方が高い」という新たな認知を加えて、「認知2煙草を吸うと肺ガンになりやすい」に修正を加えて心理的な安心感を得るのです。

買った宝くじが当たるような気持ちになったことはありませんか?私は、宝くじを買うとそれだけでお金持ちになったような気分になることがあります(笑)もしくは、馬券を買った時、今日はその馬は調子がいいと思うことはありませんか?

宝くじも馬券も既に買ってしまって払い戻しができないモノです。外れてしまえば完全な「サンクコスト」です。お金を払った自分の行為を正当化する認知(「当たりそう」だという気持ち)がある方が「認知不協和」は起こりにくいのです。

「宝くじの1等に当たるのは1000万人に1人」というような情報は、宝くじを買ってしまった人にとっては認知不協和を起こさせる不快な情報です。誰かにこのように指摘された人は「だって買わなければ当たることもないだろう」という認知を新たに加えて自己の行為を正当化することが多いですよね。

あなたの友人がパチンコで5万円負けたとしましょう。
あなたが友人思いの人物だったら、「今日は運が悪いんだよ。これもサンクコストだと割り切って切り上げようぜ」とアドバイスをするでしょう。
ところが、認知不協和で不快感が増幅した友人は、「これだけ不運が続いたんだから、そろそろ好転するはずだ。コインを投げて10回裏が出れば、そろそろ表が出るだろう」と言って、パチンコを続けるかもしれません。

ご承知のように、コイントスは毎回一回限りの勝負であってそれ以前の結果には左右されません。やるたびに約50%の確率で裏が出るのです。今まで10回裏が出たからと言って、次回に贔屓してもらえるものではありません。

好きになった異性にたくさんの贈り物をしたとしても、相手があなたのプロポーズに「NO」と言ってしまえば、贈り物はサンクコストです。

くれぐれも、「あれだけの贈り物をしたのだからモトを取らなければ」と思ってストーカー行為などはなさならないようにして下さいね。警察に捕まって途方もなく大きな「追加コスト」を払うことになりかねませんから…^_^;

荘司 雅彦
2017-03-16

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年4月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。