欧州の若者は「神」を必要としない

ローマ・カトリック教会では14日は「聖金曜日」と呼ばれ、イエスが十字架にかけられ処刑された日だ。その3日後、イエスは復活し、散らばっていた弟子たちを呼び集めていった。そしてキリスト教がスタートしたわけだ。

その「聖金曜日」にこのような報告をするのは気が引けるが、キリスト教社会の欧州の現状を知るうえで参考となると思うので、紹介する。

18歳から34歳の欧州の若者たちを対象とした意識調査「Generation What、ジェネレーション・ホワット」が実施されたが、その結果によると、欧州の若者は幸せになるためには「神」を必要としないと考えていることが明らかになったのだ。
欧州の10カ国、約20万人の若者を対象に昨年4月から今年3月の間に実施された今回の意識調査は過去最大規模だ。テーマは仕事、家庭、友人、愛、セックス、政治、宗教と多方面に渡る。その結果、欧州の若者の85%が「神がいなくても幸せ」と考えていることが判明し、キリスト教会関係者に衝撃を投げかけているのだ。

バチカン放送独語電子版(4月6日)は独司教会議青年問題委員会議長のステファン・オスター司教に今回の意識調査の結果についてインタビューしている。

オスター司教は、

「欧州社会は物質的には豊かだ。その上、平和だ。だから、欧州の若者はその欲望を簡単に満たすことができる。その一方、人生の内的な深い願望と真摯に対峙することが難しいのだ。幸せは市場とメディアに主導されて決められている」

「自分の人生を享受することが出来、ロマンチックな人間関係を築き、旅行を楽しみ、自由と可能性を保有する、これらが人間の幸せとリンクされている。人間の深いところの諸問題についてはもはや敢えて問うことをしなくなってきた」

「調査結果によると、86%が宗教機関に対し信頼を有していない。機関、組織に対する信頼感は一般的に減少してきている。例えば、ドイツのカトリック教会では依然、66万人の青年信者がいるが、教会に対して関心が薄く、教会生活と人間の幸せが結びつかなくなってきている。もちろん、若者たちの中には人生の目的を真摯に求める者もいるが、多くの若者は教会という機関に対して距離を置き、もはや信頼しなくなってきている」

「現代社会には多くのオファーがある。神への接近を覆い隠してしまうようなチャンネルも少なくない。若者は今日、インターネットを利用し、デジタルな世界に生きている。若者はインターネットの世界に埋没し、方向性を失ってしまっている。デジタルの世界がオファーするものは現実生活とは異なっている。多くは代用品だ。それが分からなくなってきている」

と警告する。

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若い世代が「神」を必要としなくなったという調査結果は、“85%”という数字には少し驚かされるが、決して新しいことではない。神への無関心さは久しく社会に見られるからだ。そしてスマートフォンで全ての問いに素早く答えを見いだせる時代に生きている。情報や知識だけではない。心の悩みですら教会に足を運ばなくてもスマートフォンでその解答を見つけ出せる世の中だ。フェイスブックは会ったこともない仮想友人で溢れている。データ主義が席巻し、人間の生活でデジタル化できない世界は削除されていく。

欧州の若者たちも悩み、苦しむ。その時、彼らの多くはもはや「神」に問い掛けない。「神」という言葉自体がもはや何の新鮮さも感動も与えなくなってきたからだ。スマートフォンをオンにし、仮想友人にメールを送信する。「寂しいアメリカ人」という本が昔、日本でベストセラーとなったことがあったが、欧州の若者たちもひょっとしたら寂しいのではないか。

「人間に必要なものは全てオフラインの世界に存在する。空気から水までオフラインだ」…独社会学者ハラルド・ヴェルツァー氏は独週刊誌シュピーゲルとのインタビューの中で強調している(「『オフラインの世界』の再評価」2016年5月2日参考)。
欧州の若者たちは、神を見いだせるか否かは不明だが、オフラインの世界に飛び出すべきだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年4月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。