日本の結婚市場の崩壊と梅毒感染者の急増

藤沢 数希

僕はさまざまな要因から、結婚によってメリットを受けられる女性は一握りで、それゆえに未婚化、少子化が進んでいる、と指摘してきた。そして、そのひとつの解決策として、結婚して子供を産み家族を作る or 生涯未婚で子無し、という極端なふたつの選択肢しかない現状に対して、欧州の先進国のように、事実婚などが増え、家族の多様性が当たり前になればいいのではないか、と提案した。

『損する結婚 儲かる離婚』藤沢数希

女性が自分より所得が低い男と結婚するメリットはなく、男女の所得格差がなくなれば、婚姻率が下がっていくのは当たり前のことなのだ。女性がもっと社会進出し、男女平等をますます推進していく、というのは先進国では当たり前のことであり、また、僕の願いでもある。大臣の数、企業の役員の数などでも、日本は男性の方が多く、いまだに女性差別が残っている。本来、これらは北欧などの進んだ国がそうであるように、男女で半々になるべきものだ。婚姻率がどれだけ下がっても、日本でジェンダーフリーを推進していくことを止める、という考えは絶対にありえないのだ。

このような背景から、僕の本は、女性たちの背中をポンと押し、欧米では当たり前のリベラルな社会へと堰を切るきっかけになると考えていた。もう、伝統的な(単にキリスト教の影響を受けた西洋の家族法を輸入しただけのものだが)結婚にこだわる必要もないし、所得格差がなくなった以上、メリットのある結婚をすることはますます困難になっているのだから、日本人女性たちはもっと自由になればいい、と応援したかったのだ。

しかし、日本の女性たちは、僕の想像を超えて、はるかに先を行っていたことがわかった。先日、性風俗や個人売春など、日本の性産業に造詣が深い経営者や編集者の人たちと、最近の社会情勢について議論する機会を得た。その際に、いま日本で起きている驚くべき現象を、僕は知ることとなった。

20代、30代の日本人男性の年収は300万円程度であり、サービス業がさかんになり女性の労働者のほうが人気がある昨今では、多くの若い女性と所得が同程度か逆転してしまっている。こうした状況で、年収300万円程度のふつうの男性と結婚する女性はほとんどいない。その結果、何が起こったかというと、驚くべきことに、個人売春業が活況を呈することになったのだ。

つまり、男性との所得格差がなくなった以上、女性たちは、セックスを長期独占契約で売る結婚にまったくメリットを感じなくなり、その代わりに、セックスのバラ売りをはじめたのである。そのやり方はさまざまである。本番行為のないソフトな性風俗店でアンダーザテーブルで顧客から金をもらい本番を行うというものから、女子大生たちの間で流行っているいわゆる「パパ活」と呼ばれる中高年男性との月締めの売春契約、富裕層へのAV女優の斡旋など、形態は非常に多岐にわたる。しかし、ボリュームという点で最も多いのは、出会い系アプリなどを使った、個人取引であると思われる。

要するに、男女格差の縮小により、日本の結婚市場が崩壊し、セックスを長期独占契約で売る結婚から、一回ずつのバラ売りである売春に、日本人女性のビジネスが急激にシフトしていったのが、この2、3年に日本で起きていることなのだ。当然、これらは地下経済であり、公式の統計には現れないが、こうした仮説を裏付けるいくつかの強力な証拠はある。

里見ゆりあまずは、税務当局による直接の摘発である。人気AV女優であった里見ゆりあ氏に2億4500万円の所得隠しが発覚した。本人は単に貢がれた、と主張したが、東京国税局の調査官たちは売春業による所得と認定したのだ。これは氷山の一角であり、このようなビジネスが広範に行われていることをうかがわせる。

●人気AV嬢「里美ゆりあ」が2億4500万円の所得隠し “貢がれた”と異議(デイリー新潮)

しかし、もっと強力な証拠がある。いま若い女性たちの間で、性病感染者が急増しているのだ。すこしググれば、各県の自治体などが梅毒やクラミジアの蔓延などを警戒しているニュースが出てくる。たとえば千代田区のウェブサイトにいけば、梅毒届け出数が女性は5年で約15倍に上昇していることが報告されている。

梅毒患者数推移千代田区
出所:千代田保健所健康推進課感染症対策主査

●若い女性の「梅毒」感染が急増。医師も危惧する異常事態(日刊SPA!)
https://nikkan-spa.jp/1181393

こうしたエビデンスや、また、実際に性産業を定点観測している記者たちの話を総合し、日本人女性たちが結婚というビジネスから、セックスのバラ売りである売春業に、急激に業態を変化させたことは間違いない、と僕は見ている。

さて、今週のメルマガでは、性病感染者数データのさらなる分析とともに、このように荒廃する日本の恋愛市場、結婚市場でいかに立ち回るべきなのか詳細に議論することにしよう。

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編集部より:この記事は、藤沢数希氏のブログ「金融日記」 2017年4月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「金融日記」をご覧ください。