トルコで16日、議会内閣制から大統領制へ移行する憲法改正を問う国民投票が実施され、賛成51・41%、反対48・59%の僅差で大統領制支持派が勝利した。
エルドアン大統領の期待に反して、国民投票結果は拮抗し、トルコ社会はエルドアン支持者と反エルドアン派との二分化が深まった感がする一方、欧州居住のトルコ人の投票では、エルドアン支持派が圧倒的に勝利し、ホスト側の欧州はショックを受けている。
ただし、トルコ国内の投票率は85・5%と、国民の国民投票に対する関心の高さを示したが、欧州居住のトルコ人の投票率は、賛成票が圧倒的に多かった半面、投票率はいずれも50%を割るなど、反エルドアン派が投票を棄権したことが明らかになった。
欧州でトルコ人が最も多いドイツは、イスタンブール、イズミル、アンカラに次いで4番目に大きい選挙区といわれる。そのドイツで憲法改正を問う国民投票に賛成したトルコ人は63・1%だった。エッセン州では75%にも達した。
ドイツに住むトルコ系住民総数は約290万人(約半分がドイツ国籍だけを有し、投票権を有するトルコ人は残りの半分程度)。16日の投票率は約46%だった。
独紙ビルトは「トルコ人はわが国で民主主義の恩恵を享受する一方、エルドアン大統領の独裁政治を支持している」と指摘、ドイツの難民・移民の統合政策が効果を挙げていないと指摘している。
著名なトルコ問題専門家 Haci Halil Uslucan 教授は、「ドイツのトルコ社会では最初の移民世代が依然、強い。彼らは1960、70年代にドイツに来た移民労働者でエルドアン大統領の与党『公正発展党』(AKP)支持者が多い。トルコ人のドイツ社会への統合には4世代から6世代かかるだろう」と述べているほどだ。
ドイツでは2002年、「社会民主党」(SPD)と「同盟90/_緑の党」の連立政権下で2重国籍制が導入された。「キリスト教民主同盟」(CDU)と社民党の連立時代に入っても2重国籍制は維持されてきたが、今年9月24日の連邦議会選挙を控え、メルケル首相のCDUはここにきて2重国籍の取得資格の厳格化を目指している。
一方、隣国・オーストリア居住のトルコ人の賛成票は73・2%でドイツを大きく上回り、欧州ではベルギーの75%に次いで2番目の賛成率だった。トルコ人の有権者総数は11万6000人。今回の国民投票の賛成票は3万8215票、反対票は1万3972票だった。投票率は50%を下回った。その理由について、野党関係者は「彼らはエルドアン大統領の独裁政治に批判的だから、投票を拒否した」という。
オーストリアの極右派政党「自由党」のシュトラーヒェ党首は「独裁者エルドアン大統領を支持するトルコ人はトルコに帰るべきだ」と主張している。
ソボトカ内相は19日、「不法な2重国籍者に対しては今後、オーストリア国籍をはく奪するだけではなく、厳格に処罰していく」と主張している。同内相が2重国籍問題をテーマとするのは、国内のトルコ系住民の多くが2重国籍を不法に有し、今回の憲法改正を問う国民投票でエルドアン大統領を支持する賛成票を投じたからだ。オーストリア代表紙プレッセ20日付1面トップの見出しは「2重国籍者に厳しい罰則を」だった。
オーストリアでは2重国籍は基本的には認められていないが、不法に2重国籍を有する者が少なくない。政府側はこれまで2重国籍問題に対して監視が難しいという理由から野放しにしてきた経緯がある。
ちなみに、2重国籍では例外もある。両親が別々の国籍所有者のケースやスポーツ選手や芸術家の場合、本人の希望があり、オーストリア側に利点があると判断された場合、2重国籍が認められてきた。例えば、ソプラノ歌手のアンナ・ネトレプコさんはロシアとオーストリアの2重国籍者だ。
なお、「社会民主党」と中道右派の「国民党」の現連立政権では、社民党が2重国籍者への対応では厳格な対応に難色を示す一方、独CDUの姉妹政党「国民党」は野党の自由党路線に近く、厳格な対応、必要ならばオーストリア国籍はく奪を支持している、といった具合で連立政権内で意見が分かれている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年4月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。