採用のシーズンになると就職情報会社のポジショントークが際立ってくる。一昨日も次のような記事が掲載されていた。「『新卒社員の3割が3年で辞める』はなぜ30年間変わらないのか」。冒頭の「アベノミクスやトランプ景気の影響で日本経済は好調な様子だ」という出だしがいささか気になるが、以下に私なりの見解を整理したい。
■ミスマッチなど存在しない
就職情報会社は、すぐに「ミスマッチ」という言葉をつかいたがる。ミスマッチとは、採用する企業と学生との間に認識のズレがあり、入社後にギャップが生じて、新卒社員が早期に離職してしまうことをあらわす。そして、3年で3割の新卒社員が離職することが「ミスマッチ」の基準としているがこれは間違いである。
「『新卒3年目までの離職率』がバブル時代から現在まで変わらないという事実は、入社した企業が構造的な問題を抱えていること、また、採用選考のあり方に問題があることも同時に示している。なぜこのような採用の『ミスマッチ』が起きてしまうのだろうか。」(原文ママ)
記事ではこの結論を導き出すための要点にふれられていない。厚労省の「新規学校卒業就職者の就職離職状況調査」を見れば、昭和62年以降の大卒者の離職状況が確認できる。遡って調べたければ厚生労働省図書館では昭和40年代からの状況も確認できる。離職率は概ね25%~35%で推移している。規模・職種にかかわらず、数値はさほど変わりはない。
景気がよかったバブル時代でも30%程度の離職率があり、平成不況(「第1次平成不況・バブル崩壊」、「第2次平成不況・日本列島総不況」、「第3次平成不況・IT不況」)でも、ほぼ同程度の推移をしている。
また、「3年3割説」について議論するならば、客観性を高めるために海外の統計データとも比較しなければいけない。ソースは2010年以降のものを参照する。
アメリカ労働統計局によれば、大卒者が32歳までに平均8回転職することが明らかになっている。イギリス国家統計局のデータでは、大卒者が入社4年以内に3回以上の転職をする割合は「男性22.7%、女性26.4%」であり、大韓民国統計庁によると、大卒者が初めて入社した会社の平均勤続年数は2年未満、3年後の離職率は7割を超す。
各国の調査結果は調査項目が統一されていないため比較が難しいものの、日本の基準(3年3割説)が高いとはいえない。
各国の数値と比較しても高くないということは、日本のミスマッチの定義自体がそもそも間違っているということになる。ミスマッチとは幻想であり、過去から続いている市場の法則だということがわかる。
ミスマッチは、昭和40年代の高度経済成長時代から社会問題として取り上げられていた経緯がある。40年以上前の数値と現在の数値にそれほどの乖離は見られないということは、ミスマッチなど存在しないと考えたほうが無難だろう。
■毎年くり返されるお約束
人気企業ランキングというものを見たことがあるだろうか。採用市場で人気が高い企業を就職情報会社が独自の基準に基づいて格付けするものといえばわかりやすいだろう。しかし、残念ながらメイキングされているので役に立たないことが多い。
特に上位にランキングしている企業は自社のクライアントである場合が多い。就職支援会社にとって、人気企業ランキングは自社サービスを営業するうえで使い勝手がよいのである。
お客様
「当社のランキング上げてもらえませんか。結構な採用予算をかけているので社内的にもそのほうが示しがつきます」
営業マン
「承知しました。御社はドル箱ですから、どうにか上位に入るように調整してみます」
お客様
「有難うございます。社内で顔が立ちます」
営業マン
「ランキング上がれば採用担当者の功績ですから頑張ってみます。で、少々お願いがあるのですが、追加で○○など如何でしょうか」
このようなやり取りがなされているかはわからないが、あっても不思議ではない。就職情報会社は申込企業から掲載料を頂戴して情報を掲載することで成立するビジネスである。企業と学生の正しい橋渡しする存在(ミスマッチを軽減するような存在)ではないから、企業にとって不利になる情報は掲載されない。
ところが、いまの時代は、ソーシャルメディアの普及によりネガティブな情報を隠すほうが難しくなっている。学生は、くれぐれも就職情報会社のポジショントークに振り回されないようにご留意いただきたい。
尾藤克之
コラムニスト
<アゴラ研究所からお知らせ>
―出版が仕事の幅を大きく広げる―
アゴラ出版道場、第2回は5月6日(土)に開講します(隔週土曜、全4回講義)。「今年こそ出版したい」という貴方をお待ちしています。詳細はバナーをクリックしてください。
追記
「アゴラ出版道場に渡瀬裕哉さん、田中健二さん登壇決定」。