生徒会に関する活動データは、国内だけでなく会議でもほとんどない
2015年から高橋亮平がこども若者参画・生徒会活性化アドバーザーを務めている千葉市では、同年から市内全市立中学校55校における生徒会活動の実態調査を始めた。
日常の生徒会活動や役員など組織、選挙の実態、顧問・教員の役割、生徒の権限・役割などについて調べた。
生徒会に関する調査は、全国的にもほとんど例がなく、文部科学省でも2004年に出された「特別活動実施状況調査」の中で「児童会(生徒会)活動」の中で、「学校として特に重視している活動」と満足度に関する設問の2問しか触れられておらず、同調査についても2004年以降は実施されていない。
18歳選挙権の実現によって、よりその重要性が高まる生徒を含めた若者の社会参加と、そのための主権者教育だが、この中で、生徒会は非常に大きな可能性を持っていると考えている。
ただ一方で、現実の生徒会活動の多くは形骸化しており、こうした状況の改善は、大きな枠組みでの抜本的な改革と、同時に現場レベルで改善されていく仕組みを作っていくことが重要である。
生徒会活動については、ほとんどの学校にそのノウハウが蓄積されておらず、役員はもちろん顧問においても実際には「何ができるのか」「何をすべきなのか」すら分かっていないことが多い。
こうした中で、まず現状と課題の把握するためにも実態調査が必要であり、全国的な調査のキッカケになればと千葉市教育委員会及び各学校、生徒会顧問、役員などの協力を得て実施した「生徒会活動の実態調査」の結果について共有したいと思う。
千葉市内の全市立中学校55校中、生徒会長選挙が競争選挙なのは7%
まずは、生徒会選挙についてだが、衝撃的だったのは、生徒会長選挙において実際に競争選挙が行われているのは、全55校中わずか4校、率にして7%しかなかったということだ。
役職別に見ると、副会長になると19%、会計が17%、書記になると25%と、役職が軽くなる方が競争選挙になる率が増えていくことも含め、多くの方々が、「なんとなく」は感じていた生徒会活動の実態が、あらためてデータで示された。
もちろん生徒会選挙においては、こうした競争選挙だけでなく、信任選挙も行うわけだが、18歳選挙権の実現により、生徒たちが実際に投票によって代表者を選ぶという限られた経験の場ということを考えても、改善の必要を感じる。
自分自身も高校時代生徒会長を務め、千葉県生徒会連盟などを創って活動していた立場からしても、残念な現状と言える。
千葉市内の市立中学校においては、各役職を含めて昨年度、競争選挙を1つでも実施した学校の割合で見ると、55%と過半数の学校ではなんとか競争選挙を体験できるようにはなっている。
ただ、今回調査を行なった千葉市は、市長が「できるだけ競争選挙になるように」と発言している自治体であり、生徒会に限らずこども若者参画に積極的に取り組んでいる自治体でもある。
こうした事から考えると、全国的な調査を行なった場合、さらに低い数字が出てくる可能性すらある。
また、今回の調査で、競争選挙の割合は学校規模も影響していることも見えてきた。
千葉市の事例では、大規模校(25学級以上)においては75%の学校で競争選挙を実施しているものが、中規模校(12学級〜24学級)で58%、小規模(11学級以下)44%となってしまっている。
また、地域による差も大きく、89%が競争選挙になっている区がある一方、20%しか競争選挙が実施できていない区もあった。
教員からの立候補要請が83%、役員経験者は全体の1/4
役員選挙の際の教員の働きかけについても調査を行なった。
中学校ということもあると思うが、83%もの学校で教員がなんらかの形で立候補要請を個々の生徒に行なっており、立候補に関する教員からの働きかけがないという学校はわずか9%だった。
生徒が生徒会役員に立候補した理由についても見ると、「人の役に立ちたいと思った」と「活動している先輩を見て自分もやって見たいと思った」が62%と最も多く、次いで多かったのが「先生に勧められた」の45%と、実際には教員からの働きかけがなければ立候補者すら集まらない現実も見えてくる。
以下、「入学前から生徒会活動に興味があった」36%、「進路選択の際に有利になると思った」と「昨年も役員をやっていた」が23%、「先輩や友人に誘われた」17%、「その他」10%だった。
また、選挙の際には立候補者の役職調整を行なっている学校が65%もあることも分かった。
立候補者不足から欠員にならないようにするための事前の調整などだが、こうした教員の働きかけが、競争選挙を減らしていることにもつながっており、実際には「教員が役員を決めている」といった印象を生徒に与えている可能性もある。
継続して生徒会活動をやる生徒の割合についても見ていこう。
全生徒会役員の中で、生徒会役員経験者の割合は27%だった。
経験者の割合は、役職によって異なり、会計では10%、書記13%しかいない一方で、副会長になると39%、会長は67%と、役職が高くなるにつれ経験者の割合が急激に増えることも分かった。
一方で、生徒会長であっても33%もの学校で生徒会経験のない新しい人がやっていることになり、新規参入の可能性が開かれていることも見える一方で、継続して生徒会役員をやろうという生徒が多くないことも見える。
生徒会の仕事は、行事関係が全体の52%、ボランティア活動が12%
生徒会の活動内容などについても調査した。
会議などの頻度については、週1回程度の活動を行なっている学校が56%と半数を超え、次いで週3回程度が24%、ほぼ毎日が7%となっており、91%の学校が放課後を活動時間としていた。
中学校ということもあるが、顧問の参加状況については、60%の学校で顧問はほぼ全ての活動に参加しており、29%の学校で半分程度、11%の学校が支持中心という結果だった。
生徒会本部の活動内容については、行事の企画・準備が28%、行事の運営が24%と全体の半数以上の仕事が行事に関わるものであることも分かった。
次いで、専門委員会をはじめとした各種委員会等の運営が19%、ボランティア活動が12%、生徒会だより等の発行が10%、目安箱などによる意見収集が6%となっていた。
行事ごとの生徒会の役割についても調べると、「入学式・卒業式」については企画運営6%・活動補佐58%、「体育祭」は企画運営0%・活動補佐78%と、学校行事においては生徒会が企画に関われる割合はほとんどなく、教員の補佐的役割になっていることも見える。
ただ、こうした割合も行事によって異なり、「文化祭・文化的行事」では企画運営40%・活動補佐40%、「部活動走行会」企画運営72%・活動補佐23%、「卒業生を送る会」企画運営83%・活動補佐15%、「新入生歓迎会」にいたっては企画運営が100%となるなど、そのほとんどを生徒会が企画している行事もあることも分かった。
生徒総会も22%の仕事を教員が担うなど教員依存の現実
学校の中での生徒会活動における生徒会役員と役員以外の生徒、教員のそれぞれが関わる割合についても調査した。
千葉市における生徒会の主な役割の中で、生徒会役員の関わる割合が最も大きかったのが「新聞発行」の87%だった。次いで「ボランティア」と「挨拶運動」の70%、「募金」の68%、「評議会」と「目安箱」の65%と続いた。
逆に、「生徒会役員選挙」については役員の割合が25%なのに対して役員以外の生徒の役割が53%、「体育祭」においても役員24%に対して生徒53%、「部活動走行会」も役員39%に対して生徒45%、「文化祭」も役員32%に対して生徒43%と、イベント的な行事においては、役員だけでない生徒も一定の役割を果たしていることが分かった。委員会についても役員45%に対して生徒が40%を担っている。
教員が担っている割合については「小中交流」が役員55%・生徒5%に対して教員40%と最も高く、次いで「文化祭」の26%、「体育祭」23%となっているほか、「生徒総会」についても役員56%・生徒23%に対して教員が21%、「生徒集会」も役員55%・生徒22%・教員23%、「生徒会役員選挙」においても教員が22%を担っており、自治の部分においても教員に依存している現状も見えた。
学校規模による予算規模は17倍、一人当たり生徒会費は20倍
予算ベースで見るとまた生徒会活動の割合も変わってきた。
千葉市の中学校生徒会で見ると、生徒会予算の平均は約50万円なのだが、最も予算の多い学校が116万円なのに対して、最も少ない学校は7万円しかない。
一方で生徒一人当たりの生徒会年会費の平均は1,106円だが、最も生徒会予算の少ない学校の生徒一人の年会費が2,400円と最も高く、最も安い学校の125円とは20倍近くの差がついた。こうした予算ベースで見た場合、学校規模の影響を強く受けることも分かった。
決算ベースで、生徒会予算の使い道を割合で見ていくと、最も多くの予算が使われているのは「行事の企画・運営」の26%で、次いで「本部運営」の17%、「専門委員会・学年生徒会等の運営」と「卒業記念品・新入生記念品」がそれぞれ14%、「生徒手帳」が12%、「部活動の運営」9%、「生徒会だよりの発行等広報」2%と続いた。「生徒手帳」の購入については、生徒会費購入している学校とそうでない学校があるなど、生徒会費の使い道も学校ごとに違いも見ルことができた。
また、活動面での割合と、予算から見た割合が大きく異なる結果にもなった。
役員希望者が少ない、生徒会役員と部活との両立や一般生徒の巻き込みが課題
中学生の生徒会役員自身が課題だと思っていることについても共有しておく。
過半数以上が課題として捉え、最も多かったのが「生徒会役員を希望する生徒が少ない」の54%だった。
上位については、次いで「生徒会役員が部活動や習い事で両立が難しい」の47%、「役員以外の生徒の巻き込みができていない」45%、「新たな取り組みの実施」36%、「放課後の活動時間の確保が難しい」30%、「生徒会役員が学習や行事で忙しい」22%、「自治的な活動が不足している」19%、「専門委員会が停滞している」18%、「既存の活動内容の整理」14%、「リーダー研修など人材育成」13%と並んだ。
自治的な活動の必要性や、新たな取り組みを行うことの必要性を感じている役員がいる一方で、直近の課題としては、一般生徒の巻き込みや生徒会役員の育成、部活動との両立など役員の多忙改善の方が多くの役員が課題として感じているようである。
千葉市では、こうした市全体としての生徒会の課題共有だけでなく、市全体平均や生徒会活動が活発な学校と自分の学校を比較できるよう、受験ガイドのように一校ごとの生徒会活動実態も合わせて冊子にし、他校の取り組みや状況を比較、参考にできるようにした。
こうした生徒会の実態調査やデータに基づくデータ集の作成配布は、生徒会活性化にとって非常に重要なノウハウの蓄積になると思っている。
もちろん千葉市で実施した調査項目がベストではないかもしれないが、こうした取り組みをしていく中で、よりよくしていくことが重要だと考えており、この千葉市のものを元に、全国から意見をもらいながら改善していきたいと思う。
市内全55校の生徒会長が集まる生徒会交流会、さらに区ごとの情報交換会も実施
また千葉市では、2016年度からは、生徒会の新役員の人気が始まった直後の11月に、市内市立中学校全55校を対象に区ごとに生徒会役員3名と顧問に集まってもらう「中学校生徒会情報交換会」の開催を始めた。
参加する生徒会役員と顧問には、現状共有のためにこの調査データをまとめた生徒会白書を全員に配布すると共に、ヨーロッパにおける先進的な生徒会活動事例や若者参画の先導的取り組みについての研修を受けてもらった上で、生徒同士、さらには生徒と顧問が一緒になりワールドカフェ形式で生徒会の理想について議論を行う。
こうした取り組みは、既存の生徒会活動についても他校の取り組みなどを参考にできるほか、世界の最先端の生徒会がどうなっているのかを意識することで、生徒会の本来行うべきことを考え共有することにもつながっている。
現実的な生徒会活動の活性化を議論することも重要だが、とくにヨーロッパで行われている学校会議などの事例の紹介は、生徒たちにとって大きな刺激になっているようだ。
またこうした世界の最先端に向け、自分たちが具体的な改善をしていくにはどうすればいいかと考えていくにあたり、区内の生徒会役員と顧問が一堂に会し、理想の生徒会やあるべき姿、改善していくための策などについて「ワールドカフェ」を行うことで、生徒会活動に取り組む生徒たちにとっては、同じような立場で取り組み、同じような悩みを抱える役員同士の意見交換ができることで、大学教授や教員、専門家などによる研修以上に、同世代から学ぶことの方が大きかったりする。
こうした教育手法は、ヨーロッパ等では「Peer to Peer(ピア・トゥ・ピア)教育」と呼ばれ、複数の対等の者(Peer)同士が教えあう仕組みとして様々な場面で取り入れられている。
高校生レベルでは、近年、生徒会のネットワーク組織は徐々に増えているが、中学レベルではまだほとんどなく、また生徒の意識レベルによらず、市内全学校の生徒会役員が対象になるという意味でも、こうした取り組みを教育委員会が直接やっていることの意味は大きい。
生徒たちにとっては「ワールドカフェ」の手法自体も新しく、こうした手法を知ることで、その後、「自らの学校において、共有された他校の解決策を早速取り入れた」、「自分の学校でもワールドカフェをやってみた」という活動が報告されている。
また、後半に行う生徒と顧問が一緒になって話し合うワールドカフェについては、生徒側から「生徒と教員が対等に話せる場は他になく非常に面白かった」「先生たちも生徒会をより良くしようと悩んでいることが分かった」といった感想のほか、顧問の教員側からは「正直、中学生がここまで能力があるとは思わなかった」など、学校内における上下の関係でなく、学校の異なる生徒との斜めの関係性の中で、生徒の能力の高さや可能性を感じてもらう場にもなり、生徒会役員の研修と同時に、生徒会顧問にとっても貴重な場になっている。
千葉市においては、生徒会役員任期終盤である1学期末には、市内全55校の生徒会長と顧問110名が一堂に会し「生徒会交流会」を実施し、同様の「ワールドカフェ」の手法を用いながら、1年間の生徒会活動の改善点や現状の課題、今後の改善策等を話し合い、積み上げたノウハウを新年度役員に引き継ぎができるように取り組み始めた。
こうした交流会の中からは、各校の生徒会を活性化させていくための市全体として取り組むべき改善策や提案なども出てきており、今後は、さらにこうした市内の生徒会全体から市や教育委員会に対して生徒の意見をまとめて提案する場にまでしていければと考えている。
理事長を務める一般社団法人生徒会活動支援協会では、主権者教育としての「新しい生徒会」を提案しており、生徒会の全国組織である「日本生徒会」の設置とともに、各地域地域における「地域生徒会」の構築も提案している。
今回は、こうした中で全国でも先進的に市全体の生徒会長が集まる「生徒会交流会」や、さらに細分化した地域でより幅広い生徒会役員を対象とした「区ごとの生徒会情報交換会」を実施を始めた千葉市の事例を紹介したが、こうした取り組みが先導的モデルとして、全国の自治体に広がっていけばと期待する。
<参考>
・「千葉市区ごとの生徒会情報交換会2016資料」のPDFはこちら
高橋亮平(たかはし・りょうへい)
一般社団法人日本政治教育センター代表理事、一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、NPO法人Rights代表理事、千葉市こども若者参画・生徒会活性化アドバイザーなども務める。1976年生まれ。明治大学理工学部卒。26歳で市川市議、34歳で全国最年少自治体部長職として松戸市政策担当官・審議監を務めたほか、全国若手市議会議員の会会長、東京財団研究員、中央大学特任准教授等を経て現職。世代間格差問題の是正と持続可能な社会システムへの転換を求め「ワカモノ・マニフェスト」を発表、田原総一朗氏を会長に政策監視NPOであるNPO法人「万年野党」を創設、事務局長を担い「国会議員三ツ星評価」などを発行。AERA「日本を立て直す100人」、米国務省から次世代のリーダーとしてIVプログラムなどに選ばれる。テレビ朝日「朝まで生テレビ!」、BSフジ「プライムニュース」等、メディアにも出演。著書に『世代間格差ってなんだ』、『20歳からの社会科』、『18歳が政治を変える!』他。株式会社政策工房客員研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員も務める。
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