【映画評】3月のライオン 後編

渡 まち子

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提供:アスミックエース

プロ棋士の桐山零が、川本家の3姉妹と出会い、家族同然に食卓を囲むようになって1年。零は、初めて感じる家庭のぬくもりに安らぎを感じる一方で、獅子王戦という厳しい戦いに挑もうとしていた。父親代わりの幸田は息子の暴力が原因でケガをし緊急入院、幸田の長女・香子はプロ棋士・後藤との不倫の恋を持て余すなど、幸田家は崩壊寸前。零の周囲の棋士たちにも、病や重圧など、さまざまな問題が降りかかる。川本家でも、3姉妹を捨てた父親が突然舞い戻り、とんでもない要求を突きつける。人を愛することを知った零は、強くなることで大切な人々を守ろうと決心するが…。

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孤独な青年プロ棋士の成長と闘いを描いた、羽海野チカのベストセラー漫画を実写化した2部作の後編「3月のライオン 後編」。零が抱える孤独や闘うしかない運命と共に、零の周囲の人々の悩みや葛藤など、青春群像、人間ドラマとして充実した仕上がりとなった。後編では、はじめての安らぎを与えてくれた川本家の3姉妹を守りたいという、零の強い思いが全面に出ている。同時に、闘いしか知らなかった彼が、自分自身を見つめ直し、ライバルや先輩棋士たちと、初めて自分から深く関わっていく。羽海野チカの原作の持つ魅力はもちろんのこと、アクション映画を得意とする大友啓史監督のキレの良い演出が、青年棋士の心の成長という静かなドラマを、激しい戦いのドラマへと昇華させてくれた。

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零が学ぶことは、たとえ負けたとしても努力し続ける意味。そして強さの本質だ。主人公を演じる神木隆之介がラストシーンに見せる“背中の演技”には、毅然とした決意が感じられ、感動的である。ただ、川本家3姉妹だけは、考えた末に決めた“次の一手”で、困難な人生にひとつの答えを出したが、登場人物それぞれが抱える問題のほとんどが未解決。映画は、闘いの前編、愛の後編という位置付けだが、2部作後編は完結ではなく、新たな始まりへのスタートラインという印象が残る。桐山零のその後を見てみたくなった。
【70点】
(原題「3月のライオン 後編」)
(日本/大友啓史監督/神木隆之介、佐々木蔵之介、有村架純、他)
(成長度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年4月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。