『風俗嬢の見えない孤立』は単なる支援の本ではない

井上 貴至

初めてお会いした時から、この人面白い!!!と思ったのが、Grow As Peopleの角間惇一郎さん。その後、何度も意見交換しました。

角間さんの新刊『風俗嬢の見えない孤立』、早速拝読しました。

風俗嬢の見えない孤立

「風俗嬢の支援」と聞いた時に、まず「支援って具体的に何をしてるの?」と聞いてくれる人は少数派なわけです。ほとんどの人が、「風俗嬢」という言葉の方に最初に反応し、「風俗嬢=ヤクザ」「風俗嬢=エロい」というイメージから、「こいつはヤバいことに関わっている」と判断してしまう。(28ページ)

角間さんは、ピンクと黒の爆煙で、真実が見えにくくなっていると考え、目の前の女性とただ「人対人」として付き合うことに徹します。そして、伝えたいことが、こちら↓↓↓

そのイメージは、実態とズレている」という事実をお伝えしたいのです。風俗嬢全員が悲惨な過去ヲ背負っているわけではないし、お金がらみの不幸な状態にあるわけでもありません。・・・・僕がお伝えしたいのは、「風俗嬢の、今この瞬間抱えている悩みはさまざま」だという至極当たり前の話にすぎません。(84ページ)

僕たちは、風俗自体の是非や、彼女たちの過去の是非は一切問わないというスタイルを徹底しています。僕たちが大切にしているのは、あくまで「今その人がどんな状態にあって、何をしてほしがっているのか」(107ページ)

このスタンスは、路上生活者などへの支援でも同じこと。過去や動機を問うことで、線引きして救えない人が出てくるのはおかしい、そして、ニーズと支援がぶれてしまうとの考えからです。

夜の世界の課題は入り口ではなく、「出口」にあります。つまり、女性が夜の世界を引退する瞬間です。(116ページ)

元風俗嬢であるという経歴に、あるいは経歴自体を明かさないことに理解を示した上で迎え入れてくれる職場や、生活を助けてくれる人がいればなんとかなる。でも、そうでなければ、その先に待っているのは完全な孤立であり生活の破綻です。(124ページ)

こうした課題に対応するため、どうアプローチするか、女性の気持ちはどうか、どう経済の原則をからめていくか、試行錯誤を繰り返していきます。だからこそ、支援の現場に長年携わる角間さんからのメッセージは、とても重みがあります。

「無償でやっている自分はすごい」「刺激的な話を知っている自分はすごい」という、一種の自己肯定感を求める中毒症状・・・に陥らないために必要なのは強い意志力でも謙虚さでもありません課題と目標を明確に設定し、その達成のための効果的な仕組みをつくるビジネスセンスです。(171ページ)

でも、角間さんがこの本で一番伝えたいことは、おそらくこちら↓↓↓

「風俗のバイトがバレた女の子が、ゼミにいづらくなって大学をやめた」。このエピソードの主語を「自分側」に変えてみてほしいのです。そうすると、「ゼミ生の一人が風俗嬢だったことを知って動揺し、その子を冷静な目で見られなくなった」になります。つまり彼女を大学から去らせたのは、「風俗嬢という立場」そのものではありません。その波を起こしたのは「風俗嬢を仲間として受け入れられないという感覚」、つまり周りの人たちの価値観です。(204ページ)

夜の世界に対しての思い込みは、・・・昼の世界に対しての思い込みとして、きっちりと跳ね返っています。しかも、その思い込みは、夜昼両方の世界を息苦しくさせ、決して少なくない困窮者を生み出している。(17ページ)

この本は、単なる風俗嬢支援本でなければ、ましてや実態調査本でもありません。分断化した社会に警鐘を鳴らし、その解決に向けた地道な積み重ねが描かれていて、さまざまな問題に共通する本です。

だからこそ、えっ風俗!?という人にも読んでほしいなと思います。

角間惇一郎さんと一緒に出演
abemaTV
● 「奨学金」だけでは分からないヨーロッパとアジアの良しあし
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<井上貴至のプロフィール>
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<井上貴至の働き方・公私一致>
東京大学校友会ニュース「社会課題に挑戦する卒業生たち
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<井上貴至の提言>
杯型社会に、求められること
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編集部より:この記事は、愛媛県市町振興課長(総務省から出向)、井上貴至氏のブログ 2017年4月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は井上氏のブログ『「長島大陸」地方創生物語~井上貴至の地域づくりは楽しい~』をご覧ください。