【映画評】イップ・マン 継承

1950年代の香港。武術家のイップ・マンは、妻や息子と共に静かな毎日を送っていた。だが、裏社会を牛耳る外国人の不動産王フランクの暴挙から街を守るために、ついに立ち上がることに。さらに、車引きのシングルファーザーで武術の使い手チョンから、武術“詠春拳”の正統をめぐる戦いを挑まれる。そんな時、長年自分を支えてくれた最愛の妻ウィンシンが病に倒れてしまう…。

ブルース・リーの唯一の師匠として知られる武術家イップ・マンを主人公にした人気アクションシリーズの第3弾「イップ・マン 継承」。冒頭に青年ブルース・リーが登場し、その後は、街を守るために悪徳不動産王と闘い、イップに対抗意識を燃やす同じ詠春拳の使い手の挑戦を受け、さらに重い病に倒れた愛する妻を支えるという見所3段構えで描く本作は、盛り沢山の内容ながら、ドニー・イェンの存在感のおかげで飽きることはない。ドニー自身が本物の武術家なので、強く美しいアクションはスクリーン映えするものだが、今やハリウッド大作でもひっぱりだこの売れっ子俳優になった彼は、今回は夫婦愛のドラマでもいい味を出している。何しろ本作では、ロマンティックな社交ダンスまで披露してくれるのだ。だがやっぱりこのシリーズはアクションあってこそ。元ボクシング世界王者のマイク・タイソンとの“3分間の死闘”の密度もすごいが、実はムエタイを操るタイ人刺客とのエレベーターを降りる間の異種格闘のバトルの緊迫感がすさまじい。そして敵なのか味方なのか分かりづらいのが玉にキズなチョンとの詠春拳VS詠春拳の戦いは、もはや名人芸で、ほれぼれしてしまった。ちなみに、清朝後期に生まれた詠春拳は、もともと女性の護身術として誕生したそう。街を守るための勧善懲悪の分かりやすい戦いから、詠春拳の誇りを賭けた複雑なせめぎあいまで。“イップ・マン”シリーズは、いつの時代も、愛するものを守るために戦う男の物語なのだ。
【65点】
(原題「IP MAN 3/葉問3」)
(中国・香港/ウィルソン・イップ監督/ドニー・イェン、マックス・チャン、リン・ホン、他)
(愛妻家度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年4月24日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式ウェブサイトから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。