朝起きてからの2時間は、「脳のゴールデンタイム」と言われる。実は脳にはもう一つの「ゴールデンタイム」がある。それは「寝る前15分」である。寝る前15分は、「記憶のゴールデンタイム」とも言われているそうだ。
精神科医、作家として、精神医学や心理学の情報を発信している、樺沢紫苑(以下、樺沢医師)は、「日本で最もインターネットに詳しい精神科医」として、雑誌、新聞などの取材やメディア出演も多い。今回は、「正しい時間術」について伺った。近著に『脳のパフォーマンスを最大まで引き出す 神・時間術』(大和書房)がある。
■寝る前15分は「記憶のゴールデンタイム」
――寝る前15分は、「記憶のゴールデンタイム」と言われる。この15分の使い方で人生が大きく変わるかも知れない。
「寝る前15分に記憶したことは、1日の中で最も記憶に残りやすいのです。つまり、試験勉強や語学の勉強など、暗記系の勉強をしている人にとっては、『寝る前15分』は、『日中の1時間』に匹敵するのです。なぜならば、『寝る前15分』に記憶して、そのまま布団に直行して眠ると、『記憶の衝突』が起こらないからです。」(樺沢医師)
「暗記してから、その後に余計な情報を入れると、『記憶の衝突』が起こり、睡眠中の情報の整理,記憶の定着に支障をきたします。寝る前15分に暗記したことは、他の情報と衝突しないために、すんなりとそのまま記憶として定着するというわけです。」(同)
――実際、樺沢医師には次のような経験がある。実際にやってみればその効果を実感できるかも知れない。
「昨年、私は、『ウイスキーエキスパート試験』を受験したのですが、それに合格するには合計で500ページほどのテキストを暗記しなければいけません。その問題の中で、 50種類以上の蒸溜所の会社名を暗記するというのがあります。これは、かなり骨の折れる作業で、なかなか覚えることができません。」(樺沢医師)
「そういった丸暗記が必要な事柄も、寝る前15分に集中して暗記すると、翌朝、目が覚めた瞬間、その項目が布団の中にいながら、ありありと蘇ってくるのです。前日の寝る前の暗記項目が、完全に定着していることを実感させられました。」(同)
――記憶してから眠るまでの間に余計な情報をインプットしなければ、「記憶の衝突」が起きないので、もう少しゴールデンタイムを延長することができる。研究者によっては「寝る前の1~2時間は記憶のゴールデンタイムだ」という人もいるそうだ。
「これを理解できると、1日を締めくくるときの最悪の習慣もわかると思います。寝る直前のテレビなどは、脳内をごちゃ混ぜにして、『脳のゴールデンタイム』を破壊し『記憶の衝突』を最大化します。受験生が、深夜に勉強して、『今日は、寝る前30分だけテレビを見よう』というのは、実は最もやってはいけないことです。」(樺沢医師)
■週末のたっぷり睡眠で回復できるのか
――では、脳内をごちゃ混ぜにして、『記憶の衝突』が発生したらどのように回復すればよいのだろうか。週末のたっぷり睡眠で回復できると思っている人がいたら、それは間違いかも知れない。
「普段は睡眠不足でも、『土日にたっぷり眠れば取り返せる』と思っている人はいませんか。米国のペンシルバニア州立大学のアレクザンドロス・ヴゴンツァス(Alexandros N. Vgontzas MD)氏らの研究によって、これが間違いであることが示されています。『寝だめ』を再現すると、ストレスホルモンは低下し、脳波も正常化しましたが、認知機能だけは回復しなかったのです。」(樺沢医師)
「平日に睡眠を削って仕事をして週末に10時間の睡眠をとっても、脳の疲れは回復しないのです。睡眠不足で低下した集中力は休日2日だけでは回復しません。つまり、休日明けもパフォーマンスの低い状態が続くことになります。」(同)
――休日にたっぷり睡眠をとるというのは、疲れを回復するのには効果的だが、脳の疲れを取り戻すには不十分なようだ。睡眠不足にしないことのほうが大切に感じる。徹夜続きで睡眠時間が短いことを自慢している人がいるが、それは危険なことかも知れない。
本書は医学的な見地から、時間術がわかりやすく説明されている。新入社員や新任管理職など、新たな環境変化のあった方におすすめしたい。
参考書籍
『脳のパフォーマンスを最大まで引き出す 神・時間術』(大和書房)
尾藤克之
コラムニスト
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追記
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