「非常事態宣言」下の投票の行方

フランス大統領選挙と大統領制導入を明記する憲法改正を問うトルコの国民投票の類似点は何か、とクイズマスターから問われたら、あなたはどう答えるか。両者とも有権者が投票する点は似ている。投票権(選挙権)は民主主義の基本だ。

それだけだろうか。両者とも「非常事態宣言」下で実施された選挙であり、投票だったことだ。興味深い点は、フランスでは「非常事態宣言」下の大統領選に疑問を呈する声は少ない一方、トルコの場合、野党側が「非常事態宣言下で国民の真意を問う国民投票は合法性に欠ける」といった批判の声が出ていることだ。

「非常事態宣言」とは、国家が異常な危機に直面した場合、「国家等の運営の危機に対し緊急事態の ための特別法を発動すること」だ。

先ず、フランスの場合、2015年11月13日、パリのバタクラン劇場など数カ所で同時多発テロが発生し、死者130人、負傷者300人以上を出した。オランド大統領はその直後、「非常事態宣言」を発令した。その後、同宣言の期限は延長を重ね、今年7月15日まで施行される。イスラム過激派テロ事件の発生が同宣言発令の契機だった。重要な点だが、フランス国民から同宣言発令に反対の声やその延長に強い批判は余り聞かれないことだ。そして23日の大統領選の投票日、約5万7000人の警察官、兵士が監視する中、フランス国民は投票場に足を向けた。

一方、トルコの場合だ。同国で昨年7月、軍の一部勢力によるクーデター事件が発生したが、失敗に終わった。危機を乗り越えたエルドアン大統領は警察力で強権を駆使し、根本主義的なイスラム教国の建設に乗り出してきた。
エルドアン大統領は「クーデターの主体勢力は米国亡命中のイスラム指導者ギュレン師だ」と名指しで批判し、米政府に同師の引き渡しを要求する一方、即「非常事態宣言」を発令し、クーデター事件に関与した軍人らを拘束し、公務員を停職処分、教育関係者や報道関係者を粛清していった。
トルコ政府は4月18日、非常事態宣言の3カ月間延長を決めたばかりだ。「非常事態宣言」の発令については野党関係者や国民から強い反対の声が出ている。

フランスの場合、非常事態宣言下で大統領選挙が実施されたことは同国初めての事態だった。一方、トルコの場合、非常事態宣言下でエルドアン大統領が強権を施行し、野党側の集会やデモを取締り、反政府活動家を拘束するなどを実施したため、公正な選挙活動は難しい状況下にあった。実際、 欧州評議会の選挙監視団は今月18日、「最大250万票が不正に操作された可能性がある」と指摘している。

イスラム過激派テロに対応するために「非常事態宣言」を発したフランス(外的要因)、そしてクーデター未遂事件後の治安確保のために「非常事態宣言」を出したトルコ(内的要因)の状況は、5月9日に大統領選の投票を控えた韓国にとって他人事ではないはずだ。

朝鮮半島の状況は「非常事態宣言」発布前夜の様相を深めている。北朝鮮は弾道ミサイルを発射し、韓国大統領選への干渉(外的要因)も行っている一方、韓国国内は現職大統領の罷免問題(内的要因)などに直面し、混乱している。すなわち、韓国は既に「非常事態宣言」発布状況下にあるわけだ。
当方が懸念するのは、韓国社会が内外共に危機下にあることを国民は肌で感じているだろうか、という点だ。韓国国民には冷静になって今後5年間を委ねる次期大統領を選出してほしい。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年4月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。