今週のメルマガの前半部の紹介です。先日、経営危機で上場維持の危ぶまれている東芝が、自社株の購入を従業員にすすめていることが話題となりました。先行きの全く見通せない中で新たに買わせるとはどういうことかと従業員も怒っているそうです。そりゃそうですね、既に持ってる分も大損でしょうし。
【参考リンク】東芝、社員に自社株購入呼び掛け 下落で含み損…「モラル疑う」と反発
ただし、会社として悪意があったかというと筆者はそうは思いません。まして社員に買い支えさせるとか何かの踏み絵にするなんて意図も皆無でしょう。では、なぜこのタイミングで自社株買いの呼びかけをしたのか。単に「何にも考えてなかったから」というのが答えでしょう。
今回の件からは、大組織が陥りやすい体質的な問題がうっすらと浮かんで見えます。そしてそれは、個人のキャリアデザインとも直接的につながる重要なテーマでもあります。良い機会なのでまとめておきましょう。
大組織によくいる「何も考えずに行動する人たち」
大組織には「頭を使って考えずに仕事をする人たち」というのが一定数存在します。と書くと「犬や猫じゃあるまいし、そんなの無理だよ」と思う人もいるかもしれませんが、ここで言う「頭を使う」というのは、新しいこと、まだ起きていないことについて考える、思いを巡らせる、くらいの意味です。
たとえば、こういうことです。毎月、社内の関連部署から数字を拾ってエクセルに突っ込んで、いつも役員に提出しているレポートの数字と日付だけちょろっと更新して部課長のハンコもらって提出する仕事は、上記の定義で言うと「考えない仕事」になります。たぶん二日酔いや風邪で頭ふらふらでもできますし、アシスタントに30分くらいレクチャーすればやってもらえるでしょう。
一方、「〇〇事業部は異常に残業時間が多いから面談して体調チェックしつつ、長時間残業発生の原因も調査して対策を講じる」とか「社内で40代のメンタルトラブルが急増しているため原因の調査と対策を考える」なんて仕事は、これから手を付けないといけないから上記で言う「考える仕事」なわけです。
営業でいえば、既存の取引先を回ってお茶飲んで帰る仕事が前者、見積書を作って新規開拓を目指して飛び込み営業するのが後者になりますね。その人の業務の中でどれくらい考えない仕事が占めるのかは人によりますが、筆者の感覚で言うと、大組織の業務の半分くらいは、考えない仕事、いわゆるルーチンワークが占めているように感じます。
フォローしておくと、通常業務がルーチン化されているというのは素晴らしいことでもあります。その会社の技術力や看板といった要素が高く評価されている証拠ですから。ただし、変化に対して、時にそうした組織は脆弱さを露呈します。今回の件も、先行きも全く読めない中で自社株買いの募集をかければどうなるのか想像しないまま、本社管理部門が決められた手順にのっとっていつものようにルーチンワークしてしまったというだけの話でしょう。この業務に関しては誰も「考えてなかった」ということです。
ではなぜ、人は組織の中では考えることを辞めるのでしょうか。実は終身雇用というのはそれ自体、考えないまま決められたやり方でひたすら前例踏襲する人材を量産する装置でもあります。大きなリターンもクビになるリスクもない環境では、それがもっとも合理的な行動だからです
以降、
大企業病の正体とは何か
無風組織の中でいかにして活力ある人材であり続けるか
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2017年4月27日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。