プロファイリングの進歩のメリットとデメリット

荘司 雅彦

プロファイリング捜査を描いた米人気刑事ドラマ「クリミナル・マインド」(シーズン1 DVDより引用:編集部)

「プロファイリング」という用語は、昨今では犯罪者の特性を明らかにするために使われることが多いようです。
例えば、ある殺人事件が起こった時、現場の状況から「無秩序型」と「秩序型」のいずれかに分類し、「無秩序型」の犯行であれば「犯人は知能程度が低く、行きずりの犯行である可能性が高い」という仮説の下で捜査を開始するようなものです。

その根拠として、人間というものはさほど可塑性のあるものではなく、同一ないし同様の手口を使い、類似の犯行を繰り返す傾向があるからだと言われています。

「刃物で何十回も被害者を刺している」という事件が起こると、テレビのアナウンサーなどは「残虐な犯人ですね〜」という感想を漏らすことがありますが、現実には臆病な犯人である確率の方が高いのです。被害者が立ち上がって反撃してこられると怖いので「念押し」のために何度も刺すという行動に出るのです。

また、バラバラ殺人の多くは、被害者が憎くて死体をバラバラにしたのではなく「死体の処分に困ってやむを得ず」というパターンが多いのです。ですから、人の目につきやすい都市部の公園などに投棄されていた場合、犯人は車の運転ができず現場周辺に住んでいる人物である可能性が高いと推測できます。

小さな子供に、「怪しい人に付いて行ってはいけないよ」と教えるのは、場合によっては逆効果になることもあります。子供だって防衛本能を持っているので、サングラスをかけてマスクをした「いかにも怪しい」人間に付いて行ったりはしません。幼児連れ去り犯の多くは、普通の「優しいお兄さん」のような人物であることの方がはるかに多いのです。

アメリカドラマの「クリミナル・マインド」を観ていると「犯人は30代の白人男性で独身の痩せ型、カソリック教徒だ」と断定する場面が出てきますが、実際はそこまで進んでいる訳ではありません。プロファイリングがばっちり当たった例も何件かはあるようですが、そこまで明確に特定できるのは宝くじに当たる確率よりも低いのではないでしょうか。

ところが、昨今の技術進歩は著しく、データマイニングの手法を用いて事前に犯行を阻止しているケースもあるようです。2005年8月の「ビジネスウィーク」誌によると、「9・11以来、3000人以上のアルカイダの手先が逮捕され、100件以上のテロリスト攻撃が世界中で阻止されているとFBIは述べている。これがどうやって実現したのかの詳細はすべて極秘だ」と書かれており、おそらくデータマイニングの手法を用いたのではないかと結論づけています。

IT技術や分析手法の進歩によって、私達個々人の嗜好や行動様式は簡単に明らかできるようになりました。Amazonで「お勧め」が出てきたり、Netflixで「気に入る確率92%」と表示されたりしますよね。こんなものは序の口で、情報をフルに活用すれば、驚くような結果が示されるのではないでしょうか?

悪用されると大変なことになります。超能力者のフリをした人がやってきて「あなたは糖尿病でお悩みですね。しかし、◯◯という銘柄のお酒が大好きで、ストレスが溜まると☓☓を、つい食べすぎてしまいます」とズバリ正しく指摘されたりすると、大きな詐欺被害につながりかねません。

しかし、私達自身や社会の安全のために利用すれば、事前に悲惨な犯罪を抑止できる確率が高まり、犯人の迅速な検挙によって「大きな抑止効果」を上げることも可能になります。

自身や社会の安全とプライバシーは往々にして相反するものです。
かなり昔、隣近所誰もが顔見知りのムラ社会では、犯罪を犯すと誰がやったかすぐにわかるので「大きな抑止力」がありました。その代わり、プライバシーは全くないに等しい状態でした。

現代社会においても、安全とプライバシーは往々にして対立しています。個人的には、家族や友人・知人が悲惨なテロや犯罪に巻き込まれるくらいなら、ある程度のプライバシーは犠牲にしても構わないと思っていますが…あなたはいかがでしょう?

荘司 雅彦
2017-03-16

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年4月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。