就職人気ランキングで全滅した新聞の凋落

中村 仁

メディア異変か、テレビも全敗

大学生の就職人気ランキング調査からほぼ全新聞が姿を消しました。民放テレビはどうかというと、これもほぼ全敗です。日経・就職情報マイナビの調査(4月26日、日経)は伝統的メディアの中核であった新聞、テレビが信じがたいほど凋落しています。こんな調査結果は、恐らく初めてだと思います。4.2万人の就活生が投票したといいますから、軽視できません。

就職したい企業の調査は、他の経済系出版社、就職情報も行っており、この中でも日経系の信頼性は高いでしょう。総合、男子、女子、文系、理系に分け、1位から100位までに入った企業の順位が載っています。テレビではかろうじてNHKが文系総合で79位に入りました。ランキングの常連だった民放は見当たりません。

新聞も何年か前までは、朝日、読売、日経などが50位ないし100位以内には入っていました。最近でも、少なくとも1,2社は上位に顔を出していました。日経などは自社が好調なときは、宣伝を兼ねて、本紙記事に表付きで掲載していたのに、最近は、別面特集だけのようですね。新聞の凋落を知られたくないのでしょう。

新聞を読んでいないから就職もしない

いくつもの理由が考えられます。デジタル化による情報伝達の広がり、それによる広告収入のデジタル・シフト、新聞経営の悪化による将来性不安、若い世代の新聞離れなど、いくらでも背景を指摘することできます。私も大学への寄付講座で新聞論を講義したことがあります。200人ほどの学生に新聞を読んでいるかどうかと、質問すると、10人の挙手があれば、いいほうでした。

新聞の社会的役割、機能に対する評価の低下も影響しています。「新聞がカバーできない領域が格段に広がり、新聞を取っていても、社会の動きが分からない」、「社会の動き、変化の速度が速くなり、紙・印刷媒体はついていけない」、「新聞情報に対する監視の目が厳しくなり、問題が起きると、すぐに厳しい批判を浴び、信頼度が落ちる」、「古新聞が発生しないデジタル化が地球環境のためになる」。それらの悪循環です。

最近では、米国のトランプ政権のメディア報道への圧力がまし、政権に有利な報道以外を締め出す動きが加速しています。情報が風を起こし、風が政治を動かす時代です。政治は風に敏感になり、制御しようとしています。日本でも、安倍政権が政治報道に圧力をかけ、政権寄りの新聞とそうでない新聞に色分けして対応しています。

情報提供の扱いを政権が差別をする傾向が強まり、それを新聞が受け入れるので、新聞の信頼性の低下を招きます。朝日新聞の慰安婦、福島原発事故に対するねつ造報道のように、自らが信頼性の低下を招いた不祥事もありました。

国境なき記者団と称する組織が報道の自由度を調査し、その順位を発表しました。英国40位、米国43位、日本72位などで、主要国ほど評価が低いようですね。各国ともメディアへの締め付けが強くなっていると、言えます。もっとも韓国(63位)が日本より自由度が高かったり、日本でも原発事故の処理がお粗末だった菅内閣当時(2010年)に11位だったり、評価が相当に恣意的で、調査に信頼性はありません。

自衛隊、軍隊が最も信頼される時代

参考になるのは、日米共同世論調査(読売・ギャップ調査)でしょうか。2016年調査では、「国内の組織、公共機関で信頼できるものはどこか」について、新聞の評価は日54位、米47位でした。つい数年前までは、日本の1位の常連は新聞でした。新聞はその座から滑り落ち、現在の1位は自衛隊、米では軍隊です。2位は病院、3位は裁判所などで、国の安全保障、個人の健康管理に国民の関心集中しています。将来のことよりも、当面の安全が重視される時代です。

就職学生を対象とした調査では、企業の社会的役割、価値よりも、人気度、知名度、将来性、待遇、楽しさなどが重視されるようですね。テーマパークのオリエンタルランドが総合で12位、家具のニトリが32位など、その好例でしょう。新聞は難しい仕事をする業種で、特に紙媒体の将来は心配だ、となっているのでしょう。

学生は、社会の中核的役割を形成していく人たちです。その一群の人たちがマスメディアに関心を失えば、将来、さらに新聞の部数は減少します。社会全体のあり方を考える国民の問題意識も後退し、身の周り情報、自分の考え方に合う情報に押し流されていくのでしょうか。マスメディアの危機は今後も蓄積され、ある段階で変化が一気に表面化する。その段階にすでに差し掛かっている調査と、思います。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年4月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。