ジャポニカ学習帳から虫が消えた騒動に仕掛け人がいた

渡辺 龍太

数年前から、ジャポニカ学習帳から虫の写真が消えたということが、時々、メディアで話題になっています。その理由が保護者や教師から虫の写真が気持ち悪いという声だったと知って、私も非常に驚きました。しかし、最近、このニュースについて、もっと驚いた事がありました。実は、この『ジャポニカ学習帳から虫が消えた騒動』は、自然発生的なニュースではなく仕掛け人がいて、PR会社がプロデュースしていたのです。

仕掛け人はフロンティアコンサルティングという会社の上岡正明さんという方で、自身の著書『共感PR』という本でジャポニカ学習帳騒動を仕掛けの裏話を赤裸々に明かしています。

その内容を簡単に紹介すると、まず、上岡さんはジャポニカ学習帳の発売元のショウワノートから、『ジャポニカ学習帳の45周年』のPRの依頼を受けました。そして、上岡さんはジャポニカ学習帳の歴史の中から、どんなエピソードを世間にPRしていくのが良いのかを考えるため、ショウワノートからヒアリングしました。

それにより、上岡さんは『ジャポニカ学習帳から虫の写真が消えた』という事実を知り、大きな衝撃を受けたそうです。そして、この『虫が消えた』という情報は自分だけでなく世間も驚くはずだと思い、そこを重点的に世間にPRしていったそうです。その結果、世間もジャポニカ学習帳から虫が消えたことに驚き、大手メディアだけでなくSNSでも大きく騒がれて、PRが大成功します。また、そのPRに合わせて、『歴代ジャポニカ学習帳の表紙の人気投票』や、『虫の写真が表紙のノートの再発売』などを企画し、ジャポニカ学習帳は定期的にメディアに露出し売上も大きく伸ばしたとの事でした。

この話を知って私は、ホリエモンこと堀江貴文さんが

ほかの人も言ってたんだけど、(例えば)テレビ番組とか出たい人がいっぱいいるんだから、金取ってやればいいじゃん?

J-WAVE NEWS

という感じのことを、時々、メディアで言っている事を思い出しました。というのも、現在、旧来のメディアの広告費は減り続けていて、独自取材にかけられる予算が年々カットされていっています。そうなっていけば、ますますメディア側は独自取材(ネタの独自発掘)を嫌がるようになり、もっとPR会社からのパッケージとして出来上がっている情報などを重宝して紹介していく可能性は高いでしょう。つまり、メディアの独自取材能力が下がれば下がるほど、メディアは出たい人がお金を払えば情報を載せてくれる場所になっていく可能性が高いと思います。

さらに、誰でもそうだと思いますが、テレビ、新聞、雑誌だろうと、広告で紹介されている商品よりも、本編で紹介されている商品の方を買ってみたいと思うはずです。しかも、テレビを録画して見ている人とかは、ほとんどCM自体を目にしないで本編だけ見ている可能性が高いでしょう。その上、その本編で紹介されるためにPR活動をする企業がお金を払う先は、PR会社であってメディアには金銭が渡らないわけです。極端な話、CMクライアントはメディアに大金を払って、実は、自社以外の商品のPRを助けているような構図に見えなくもないわけです。この構図が今よりも極端なまでに進んでしまえば、CMよりもPRという流れが加速していき、メディアのお金がますます苦しくなってしまうでしょう。

そうなると、いずれかの時点で、ホリエモンの言うような、テレビに出たい人からお金を受け取るPR会社が、メディアを飲み込んでしまう時代が来るような気がしました。(ホリエモンの意図どおりに私が予測してるかどうかは分かりませんが・・・)しかし、そうなってしまうと、全てがステマやヤラセって感じになってしまい、メディアが全く面白くなくなってしまうのではないか感じなくもありません。とはいえ、現在のお笑い・タレント業界に目を向けると、テレビに出たい人からお金を取るって事が、必ずしも悪い事ではないような気がします。

実はお笑いやタレント業界って、”お金を払わないと大手メディアに登場できない”という世界が、相当進んでいるように思うからです。恐らく、ダウンタウンよりも年齢が下の芸人やタレントの場合、多くの人が大手芸能事務所の養成所(数十万から、場合によっては100万円ぐらい)の授業料を支払った上で、芸能活動を始めたという人もかなりいるはずです。要するに、芸人・タレントとして大手事務所に所属したいと思えば、その事務所の養成所に通う必要があるわけです。そして、テレビ局が直接絡んでいるわけではありませんが、メディア側である大手事務所は自社の所属芸人・タレントを、自らが出資しているテレビ番組・舞台・映画などにブッキングしていって、その過程でブレイクしていく人が現れるという構図になっている事も多いと思います。

とはいえ、芸人のみにフォーカスしますが、お金を払わないと芸人になれないという仕組みが、芸人のレベルが下げたのかと言ったら、そんな事は無いと思います。実際、さんまさん、たけしさんの様な大物芸人は、『今の若い芸人のレベルは高い』と指摘しています。それもそのはずで、お金を払ってまでしてテレビに出たい人に、モチベーションが低い人はあんまりいないはずです。また、お金を払って芸人になるのが主流ではあっても、もちろん養成所の料金を取らない芸能事務所もあるし、お金が必要じゃないルートも残っています。その他にも、お笑いではありませんが、マツコ・デラックスさんや、りゅうちぇるさんの様に、お金を払ってタレントになろうとしたわけではない人もブレイクする柔軟性が、十分にメディア側に残っています。

そういう事を見ていくと、ニュース業界も、もっとお金を払ってメディアに露出したい人から、お金を当事者が受け取る構図があっても良いような気がしました。そうすれば、毎年紹介しているからという理由で紹介されている、実は多くの人にとって関心が無いかもしれない情報が自然淘汰していくと思います。また、メディア側にお金が回ることにより、独自取材の予算も捻出する事が出来て、独自取材枠のニュースの質も上がるような気がします。というわけで、ショウワノートのジャポニカ学習帳から虫が消えた騒動に仕掛け人がいたという事から、メディアの未来を考えてみました。この件については、色々な意見を聞いてみたいので、みなさんがどう思うか、ぜひ私のTwitterなどにご意見をお聞かせください。

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※このブログの著者プロフィール
渡辺龍太 (放送作家・即興力養成コーチ)
ブログ:http://kaiwaup.com
Twitter: https://twitter.com/wr_ryota

著書:『朝日新聞もう一つの読み方』(日新報道)
紹介ブログ:朝日新聞の押し紙問題!武田邦彦教授の解説が痛快すぎる
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