「ユダヤ人」と聞いてどのような印象を持つだろうか。「非常に頭が良い」「勤勉で真面目である」「金儲けが上手い」「恋愛上手」など様々なイメージがあるに違いない。では、彼らの仕事や思考ついてどこまで知っているだろうか。
今回は事業家でIT会社を経営する、立川光昭(以下、立川氏)の近著『ユダヤから学んだモノの売り方』(秀和システム)を紹介したい。ユダヤ系の商社に勤務した経験のある立川氏がユダヤ人の仕事振りを詳細に分析している点が興味深い。
なお、立川氏は昨年の参院選で「国民怒りの声」の公認候補として立候補した経歴を持つ。キャリアはユニークでかなりのバイタリティを持っているようだ。書籍はアゴラ出版道場でもお世話になっている、秀和システムの田中氏が編集を担当している。
■ユダヤ流に感じた疑問点とは
――まず、立川氏はユダヤ人と仕事をした経験を次のように語っている。
「私はユダヤ系商社に入社したおかげで、彼らの仕事のやり方を学ぶことができました。その点に関しては非常に満足をしていますが、再び仕事がしたいかといえば、答えは『ノー』です。理由は仕事をしていて面白くないからです。根本的なところで、彼らは私のことを『仲間』とは思っていませんでした。」(立川氏)
「日本人であれば、チームであるプロジェクトに取り組んだのであれば、慰労会や打ち上げくらいはすると思います。しかし、ユダヤ系商社の場合は、『仕事仲間をねぎらう』習慣などはありません。歓送迎会のようなものもしかりです。」(同)
――これは彼らの思考に特徴がありそうだ。「チーム」に対する考え方はかなりドライである。これは私も知人に聞いたことがあるが、日本のように部門やチーム毎にわかれているわけではない。リーダーが人選をして、プロジェクトが終了すれば解散になる。
「誰を選ぶかはこのマネジャー次第で、彼らが『あの人は利益を上げそうだ』と思えば、仲の悪い関係でも遠慮することなくメンバーに組み入れます。逆に、数字の計算が立たなければ平気で切り捨ててしまうわけです。『あの人は面白い人だから、組んでみたい』と思ったとしても、そのままは認めません。」(立川氏)
「どうしてかといえば、そういう人選をした時点で、リスクを考えるからです。合理的な考え方ですが、そこには『人を育てる』とか『仕事を通じて絆を結ぶ』というニュアンスは存在しません。」(同)
■合理性だけでは日本に馴染まない
――この点について立川氏はサッカーを例にして次のように考察している。
「あらゆる分野に成功者を送り出すユダヤ人ですが、サッカーのような団体競技だと、個人が活躍することはあってもイスラエルというチームとしてはパッとしません。おそらく彼らのチームとしての意識が欠除していることが理由ではないでしょうか。私は働けば働くほど、ユダヤ流の仕事の進め方に違和感を感じはじめました。」(立川氏)
「私が籍を置いた会社は、入社から2年ほど経ったときに日本から撤退することになります。売上げが落ちた時期とユダヤ人社長のビザの更新時期が重なり、それならより利益が出そうなイスラエル本社とアフリカとの取引きに集中しようということでした。」(同)
――そこには「日本で積み上げてきたこと」という観点はない。おそらく、合理性重視の彼らにとっては自然な判断だったのだろう。
「経営陣は私を『よくアイデアを出す人材』とは思ってくれていたようで、『日本からの撤退に当たってタチカワはイスラエルの本社か、南アフリカのケープタウンなら、どっちに行く?』と、かなり無茶な提案をしてきました。どちらも御免だった私は、『日本で独立する』という形で、円満に退社することになりました。」(立川氏)
――合理的なユダヤのビジネスの進め方だけでは、日本ではうまくいかない。日本人のもつ仲間意識や連帯感あってこそ機能するのだろう。ユダヤ人の仕事振りを知りたい人には参考になるのではないかと思う。
参考書籍
『ユダヤから学んだモノの売り方』(秀和システム)
尾藤克之
コラムニスト
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追記
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