国債には国庫短期証券(償還期限が1年以内の割引債)から40年債まで、さまざまな償還期間の国債がある。そして、それぞれに利回りがある。
それらの複利利回りを計算して、横軸を償還期間、縦軸を複利利回りで結んだ曲線をイールドカーブや利回り曲線と呼ばれる。
本来であればこのイールドカーブから、債券市場参加者の金利観が見えてくるはずなのである。例えば、市場参加者が現在の水準に比べて、先行き金利は上昇していくと読めば、長い期間の債券ほど利回りが高くなり、イールドカーブの形状は右肩上がりになる。これをスティープニング、スティープ化と呼ぶ。今後の金利上昇を予想した際には、現在の低い利回りでは、なるべく短期債で運用しようとするためである。そして短期債に人気が集まることで、利回りに低下圧力がかかる。
一方、現在の水準に比べて先行き金利が低下していくと読めば、逆に期間の長い債券が買われるため、右肩上がりの曲線が、直線に向かう。このことをフラットニング、フラット化と呼ぶ。
そして、さらに長い期間の債券ほど利回りが低くなると、イールドカーブの形状が右肩下がりになる。このことを逆イールドと呼ぶ。
債券は期間の長いものほど、債券利回りの変動に対して債券価格が大きく動くという特性を持っている。したがって、償還期間が長いほどリスクが高いということになる。
だからこそ、償還期間が長い債券には、それだけ利回りにプレミアムがついていると考えられている。このため、イールドカーブは右肩上がりを描くのが普通となる。しかし、右肩下がりの逆イールド現象もないわけではない。例えば、1989年7月ごろに日本でも長短金利が逆転するという現象が生じた。このときは、度重なる日銀による公定歩合の引き下げが大きな要因であった。
このように、中央銀行の金融政策もイールドカーブの形状に大きく影響する。イールドカーブ上の一番左側にある一番期間の短いものは、中央銀行の政策金利に近い。そして長期金利は、物価や経済動向を見ながら、中央銀行が短期金利をどういった水準に持って行くのかを予想して、本来は形成されるはずなのである。
ところが日銀はこの市場で形成される長期金利を国債買入などを通じて無理矢理押さえ込もうとしているのが、長短金利操作付き量的・質的緩和政策である。無理矢理押さえ込まれてしまうと市場はまさに身動きがとれなくなり、売買高も低迷し、1日半も長期金利の値がつかないといった事態も生じてしまったともいえる。
金融政策が引き締めから緩和に移ると、イールドカーブのスティープニングがさらに進むことがある。これは足元の金利の引き下げによって今後、景気が回復して資金需要が起きるという期待や、物価が上昇してくるとの観測が出ることで、長期金利が上昇するためである。しかし、日銀はこの長期金利まで物価目標達成のためとして押さえ込んでいる。この政策に物価を上げる経路がそもそも存在しているのかという疑問もあるが、それ以上に中央銀行が市場に関与し過ぎる事での弊害が見えないかたちで膨らんでいることも確かであろう。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年5月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。