昨日、日経ニューヨーク総局の稻井創一記者が「シェール増産、OPEC減産帳消しの先」(電子版5月5日6:17)という記事は書いていた。NYMEXにおけるWTI価格が急落し、OPECが歴史的な減産合意をした昨年11月末とほぼ同じ水準の45.52ドルで終えたのを機に、現状を分析、業界関係者の見方をまとめて報じたものだ。稻井記者はこの記事を「関心事は5月25日のOPEC総会」で「減産継続は既に相場に織り込み済みとみられ」、「減産幅拡大も検討課題になるかもしれない。しかし、減産してもシェール増産を招く事態を目の当たりにした。サウジは難しい判断をせまられそうだ。」と締めくくっている。
現状分析としてはよくまとまっている記事だが、先物相場の動きに触れていないのが難点だな、と思っていた。
皆さんご存知のとおり、財務体力が脆弱な中小のシェール業者は外部資金を必要としているため、資金提供者からの要求もあり先物相場でヘッジしていると見られている。経営判断としても、将来の生産物の価格ヘッジをすることは、目先の投資決断に重要なものだ。したがって、半年から2年先くらいまでの先物相場の動きを注視することが、価格の将来動向を占う重要な判断材料になっているのである。
そんな筆者の心の中を見透かしているかのように、FTが “Bullish bets on price fall to lowest since OPEC output cut” (May 6, 2017 around 7:30am)という記事を報じている。あえて訳せば「強気派の買持ち、OPEC減産合意後、最少水準にまで減少」とでもなるのだろうか。
記事の要点を、若干の解説を加えて紹介すると、次のようになる。
・ヘッジファンドは強気の買持ちポジションを昨年11月末のOPEC減産合意当時の水準である1億6,300万バレルまで減少させている。これは、先物市場の重要なプレイヤーたちの間で、OPEC減産合意の有効性に疑問が生じていることの現れとみられる。
・管理当局であるCommodity Futures Trading Commission(CFTC)が今週初め(毎週火曜日終了時点での統計を発表している)に把握したところによると、この買持ちポジションは、OPECが100万BD以上の減産を合意した昨年11月29日以降、最少になっている。
・RBC Capital MarketsのMichael Tranは「実際はこのCFTCのデータより少ないだろう」という。
・OPECは先物市場におけるヘッジファンドの動きが重要だと判断しており、昨年末から定期的にヘッジファンドとの会合を行っている。その会合に参加したロンドンの有力ヘッジファンドであるAndurand Capitalのトップ、Pierre Andurandは、先週すべての買持ちポジションを手仕舞いし、リスクを減らした、と語ったと、ロイターが金曜日に報じた。
・今年2月には、ヘッジファンドのWTI買持ちポジション(net long position)は 4億バレル以上だった。CFTCによれば、この買持ちポジションは1週間(先週水曜日から今週火曜日まで)で約26%、5,800万バレル減少した。
・またあるデリヴァティブ・トレーダーによると、今週のexodus(大脱走)は目先のものだけでなく、たとえば12月渡し(取引が盛んなのは翌月(6月)と翌々月(7月)。取引可能なのは、現時点では2019年6月までの毎月と、それ以降は毎年12月と6月のみで、最遠で2025年12月)など先の受渡しポジションが含まれている由。
なるほどね。
では、原油価格はこれからどうなるのだろうか?
興味深いのは、上記CFTCのデータが発表された今週火曜日の終了時と、昨日金曜日の終了時点での未決済取引残高(Open Interest)を比べると、約5,000万バレル増加し、史上最高(3月15日、22億4,026万1千バレル)に近い22億4,019万8千バレルになっていることだ。このOpen Interestとは、種々様々な市場参加者の「ポジション」の総計であり、そのおおまかな内訳は毎週火曜日終了時点でCFTCが発表している。したがって現時点では、どのプレイヤーのポジションが増えているのかは分からない。筆者は、おそらくヘッジファンドが減少させたポジションを買い戻しているのでは、と推測している。
もうひとつ気になっているのは、増産が伝えられているパーミアン地域でのシェールオイル生産が、ExxonやChevronなど大手国際石油会社などの手になるものが増えている、という事実だ。彼らは財務的に強靭なので、探鉱に外部資金を必要としていない。すべて手金で行っている。ということは、価格が下がって減産には結びつかないのでは、という点だ。
低価格により需要は順調に伸びている。だが、価格低下の影響でシェールオイルの生産増に歯止めがかかる度合いが、これまでの読みより少なくなるのではないだろうか。つまり、リバランス(供給が需要に見合った水準に調整されていくこと)達成の時期がこれまでの想定よりもずっと後ろ倒しになるのではなかろうか?
はてさて、どうなるだろうか?
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年5月6日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。