バチカン放送(独語電子版)は4日、広島の湯崎英彦知事が前日(3日)、バチカンのサンピエトロ広場の一般謁見に参加し、フランシスコ法王に広島の訪問を要請したと報じた。知事は、「ローマ法王の広島訪問を通じて世界に核軍縮のサインを発信できる。フランシスコ法王が被爆地の広島の土を踏み、そこから世界の平和を訴えてほしい」と述べたという。ただし、バチカン側は湯崎知事のローマ法王招待とパロリン国務長官(バチカンのNO.2)との会談内容については公式には何も言及していない。
広島知事だけではない。安倍晋三首相は機会のある度にフランシスコ法王の訪日を期待すると述べてきた。ここにきてバチカン法王庁からいい感触が届いているという。バチカンのギャラガー外務長官は今年1月30日、広島を公式訪問し、原爆資料館などを視察したが、「ローマ法王の広島訪問への下調べ」と受け取られているほどだ(故ヨハネ・パウロ2世は1981年2月、訪日している)。
南米出身のフランシスコ法王は聖職者の道を歩みだしたばかりの若い時代(イエズス会)、出来れば日本に宣教に行きたいと願っていたという(「法王は日本で宣教したかった」2014年2月8日参考)。
ところで、ローマ法王が外国を訪問する第一の目的は、訪問先のカトリック教会の刷新、信者の鼓舞にある。すなわち、牧会訪問であり、時には巡礼訪問だ。次にホスト国との関係改善が目的だ。
日本の場合、日本のカトリック教会の刷新、信者の鼓舞という課題より、世界最初の被爆国日本、広島、長崎を訪問し、世界に向かって核兵器の悲惨さをアピールし、核全廃を訴えることが第一目的と受け取られることだ(フランシスコ法王は3月末、国連で核全廃を訴えている)。日本のメディアは国内のカトリック信者たちの現状やその課題については余り関心がない。
もちろん、フランシスコ法王が訪問すれば、日本のカトリック教会は総出で迎えるだろうし、法王と司教会議メンバーの会合、記念礼拝が開かれるだろうが、ローマ法王の訪日を契機に日本でカトリック教会への関心が高まり、宣教が広がるとは誰も考えない。
日本司教会議によると、日本の信者数は約44万人で、全人口の0.5%に過ぎない。日本ではキリスト教が根を張らないのはどうしてだろうかという質問が話題となるほどだ。「日本の風土にはキリスト教のような唯一神教は合わない」という声をよく聞く。森羅万象から神性を感じ、それを拝する日本人は、遠藤周作が主張していたように、父親のような厳格な宗教(砂漠の宗教)ではなく、母親のような包容力のある宗教を求めているからだろうか(「日本の信者は教会の教えに無関心」2014年2月23日参考)。蛇足だが、麻生太郎現副首相兼財務・金融相はカトリック信者だ。
一方、欧米では遠藤周作の小説「沈黙・サイレンス」が映画化(マーティン・スコセッシ監督)されたことから、極東アジアでキリスト教がどのように定着していったかに関心が生まれている。バチカン放送も「沈黙」の映画化について素早く報じた。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年5月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。