北方謙三はあの「伝説の回答」を何度言ったのか?

常見 陽平


北方謙三先生の朝日新聞の連載が話題となっているのだが、ついにきた。「ソープへ行け」問題。5月5日付の朝刊で、1回まるごと、この回答について語っている。

伝説の回答「ソープに行け!」 真剣だった北方謙三さん:朝日新聞デジタル

まあ、タイトルとか、なんせこのキーワードはあれなのだが・・・。北方謙三先生はこう語っている。

 《中心読者は高校生~大学生。性に関する悩みは多く、「ソープに行け!」とのアドバイス(?)は、連載の代名詞として語り継がれている》

あれって編集者が連載の最後のころ数えたら、そんなに頻繁に使っていたわけではなかったようです。言葉として衝撃力があったから後々まで語られたけれど、適当に言ったわけじゃなくて、童貞の男の子からの「女の子を好きになった。初体験をスムーズに済ますにはどうしたらいいか」という質問に真剣に答えた結果だったんですよ。

北方謙三先生の熱さが伝わってくる。まあ、今だと男性が同性に対して下ネタを言って相手が嫌だと言えばセクハラだと言われる時代なのだけど、この当時は、彼はよき兄貴として後輩にアドバイスをしていたわけだ。実は大事な事実は、連載が始まった当初、先生は評価され始め、売れ始めたハードボイルド作家であり、年齢も30代半ばだった。

『ホットドッグ・プレス』が一度休刊する前の最終号、2002年6月10日号で、連載の最終回に彼はこう語っている。

車座になって酒を飲み、後輩の悩みに答える。そんな雰囲気でこのコーナーをやっていこうと、俺は思った。相談してくる奴は、普通なら恥ずかしくて言えないようなことを相談してきたし、俺も本音で答えた。「ソープへ行け」などという回答は、常識的には考えられないものだ。でも、一緒に酒を飲んでいる奴が、「先輩、俺、女を知らないんです」と訊いてきたら、建前は抜きにして、「ソープへ行ってこい。ソープに行って3~4人とやって、それでもまだ悩みがあるのなら、俺に相談してこい」と答えるじゃないか。俺はいつもそういう気分で答えてきたつもりだ。

この言葉だけが一人歩きするのだが、悩める人に対して、兄貴からのアドバイスというわけなのだな。

ただ、北方先生は、ここ数年、「ソープへ行け」はそれほど言っていないと弁明するようになった。この朝日新聞の連載でも「あれって編集者が連載の最後のころ数えたら、そんなに頻繁に使っていたわけではなかったようです。」と言っている。

2011年に吉田豪氏のインタビューを受けた際も、そんなに言っていなかったと弁明している。

北方謙三氏 「ソープに行け!」と言ったのは4回だけだった│NEWSポストセブン

いや、実際はもっと言っているのだ。

『ホットドッグ・プレス』2001年3月26日号では、この号までに何回、「ソープへ行け」と言ったのか、カウントしている。

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59回だ。この後も約1年、連載が続いたので、もっと登場している可能性がある。なんだ、言っているじゃないか。

なお、92年にいったんピークを迎えるが、その後、いったん減った原因としてあげられるのが、92年9月10日号で勃発したHIV事件である。相談者が先生の相談どおりにした結果、HIV陽性になってしまったのだ。どこまで本当かは謎なのだが。

もっとも、この「ソープへ行け」の回数はどうでもよくて。もっと言うと、この言葉もどうでもよくて。このコーナーを読み返してみると、悩める若者に対して、先生なりに真剣に向き合った結果なのだよな。この言葉も流れで出てくるわけであって。その言葉にいたる内容には説得力がある。何より、若者の悩みに真摯に向き合っている。

回答にしても、「ソープへ行け」だけが面白回答ではない。

異性と交際するために
「湯島天神へお参りに行かないか?」と誘いなさい(87年1月10日号)
壁を叩き「友達じゃ嫌だ!」と叫んで走り去れ(87年2月10日)

(当時の)江口洋介みたいなヘアスタイルにしたい!という若者に対する
「カツラを被れ。これ以外に方法はない」(91年7月25日号)

ノストラダムスの大予言のせいで勉強ができないという若者に対する
「そんな気になるなら、東大に入ってから悩め」(99年8月25日号)

など、秀逸な回答がいっぱいだ。

彼女との性交渉がうまくいかないという若者に対する
「万葉集を読みなさい」(96年2月25日号)
も破壊力バツグンだ。

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というわけで、言いたいことは何かというと、北方先生、実際はもっと「ソープへ行け」と言っているんじゃないっすかという話と、このセリフにだけとらわれてもいけないよねって話。


最新作よろしくね。


編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2017年5月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。