「当社は人工知能を使って株式の動きを予想しています。ただいま無料キャンペーン実施中で、明日はA社の株が値上がりすることをお知らせします」
という電話があなたの家に架かってきたとしましょう。
おそらくあなたはインチキ業者だと思ってとりあわないのではないでしょうか?
しかし翌日の株式市場を見ると予想通りA社の株価が上がりました。するとまた同じ会社から電話か架かってきて「人工知能の予想が当たったことをご確認いただけたでしょうか?明日はB社の株が上がります」と予想しました。
翌日も予想通りB社の株が上がりました。その後、同じように人工知能はC社株、D社株、E社株の上がり下がりを的中させました。5日連続で100パーセントの確率で個別銘柄の上がり下がりを的中させたのです。
「無料キャンペーンはこれにて終了です。ご資金をお預けいただければ、利益の30パーセントの手数料を頂戴して運用いたします」という電話を受けたあなたは「30パーセントはちょっと高いかもしれないが確実に儲かるのだから預けてみようか」と考えるかもしれませんね。
賢明な方は既にお分かりのように、業者は最初の電話を3000人の人に架けます。
うち1500人にはA社の株が上がるといい、残りの1500人には下がるといいます。翌日は的中した1500人に対してB社株の予想を半々で伝え、当たった800人に対して次の予想を伝えます。このようにして、5日連続で的中した予想を受けた人に対して最後の電話を架けるのです。
最後に残った人が100人だとすれば、50人くらいは神業のような100発100中を信じて相当額のお金を預けるかもしれません。
利益の30%が手数料なので、10万円の利益が出ても手取りが7万円にしかなりません。人によっては一ヶ月で100万円くらい儲けようと思って元金500万円を預けてしまうこともあるでしょう。
50人の人が平均200万円の元金を預ければ、業者には1億円のキャッシュが入ってきます。後は、過去に”例のない相場展開で人工知能の予想が乱れて大幅な運用損が出てしまった”ということにすれば、手付かずの1億円の大半を懐に入れることができてしまいます。
新聞やニュースで投資詐欺被害が報じられると、「このご時世に年利10%を信じる方がどうかしている」と指摘する声が聞こえてきます。しかし、騙された人たちは詐欺師が最初に狙いをつけた人の60分の1なのかもしれません。60人に一人、いや100人に一人であれば「年利10%」を信じたとしても決しておかしい話ではありません。
その上、いきなり「年利10%」を持ち出すのではなく、最初の例のように地道に信用を積み重ねているのです。
こう考えると、騙された気の毒な被害者たちを一概にバカにすることは到底できませんよね。
ポイントは、詐欺師は一人を騙すためにその何倍、何十倍もの人たちに声がけをしているという点です。声をかけられた人にとっては「なぜ自分が?」という気持ちにもなるでしょうが、その背後に何十倍もの不発弾が存在するのです。
「ナンパするときは数をこなせ」とよく言われますが、詐欺師はその鉄則を守って驚くほどの数をこなしています。「騙されそうな顔をしていたから」だとか「高齢者で知識が少なかった」ということはあまり関係なく、たまたま100人に一人に当たっただけ。高齢者の被害が多いのは、自宅の電話に出る確率が高く「すぐに動かせるまとまったお金」を持っていたというプラス要因が働いた結果です。
「振り込め詐欺」のような手の込んだ詐欺だとある程度ターゲットを絞り込むかもしれませんが、それでも「当たりクジ」を引くためにたくさんの「外れクジ」を詐欺師たちは引いていると私は考えています。「選ばれたあなただけに」という使い古された表現は、決して選んでなんかいないということの裏返しだと認識しておいた方が無難でしょう。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年5月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。