5月FOMC、景況判断を引き上げ6月利上げの道筋確保

5月2日〜3日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、予想通りFF誘導金利目標を0.75~1.00%で据え置いた。声明文の主な変更点とポイントは、以下の通り。

【景況判断】
前回:「経済活動がゆるやかなペースで拡大するなか、労働市場は強まり続けている」

今回:「経済活動が鈍化したにも関わらず、労働市場は強まり続けている
米4月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比で20万人増のペースを回復、失業率は一段と低下。

前回:「雇用の増加は堅調を維持し、失業率は足元数ヵ月とさほど変わらない」

今回:「足元数ヵ月での平均で雇用の増加は堅調で、失業率は低下した」
同上

前回:「家計支出はゆるやかに拡大し続けた一方、企業の固定投資は幾分安定してきたように見える」

今回:「家計支出は緩慢に伸びた程度だが、ファンダメンタルズは消費の伸びが堅調であり続けることに根拠を与えている
米1~3月期国内総生産(GDP)速報値こそ3年ぶり低水準だったが、米4~6月期GDPはアトランタ地区連銀の予測値で4.3%増、一部のエコノミストは3.8%増と大幅回復が見込まれる状況。

前回:「インフレは足元数四半期において委員会が掲げる2%という長期的な目標へ向かって上昇したが、エネルギーと食品を除いたインフレはほぼ変わらず、2%を幾分下回って推移した」

今回:「インフレは前年比ベースで委員会の長期目標値2%に接近している。エネルギーと食品を除く消費者物価指数は3月に低下し、インフレは幾分2%を下回った」
個人消費支出(PCE)デフレーターは2月に2012年4月以来の2%乗せを達成したものの、3月は大台割れ。コアPCEデフレーターも前年比は1.6%の上昇、2016年7月以来の低水準。米3月消費者物価指数(CPI)は前月比で13ヵ月ぶりのマイナス、前年比ではCPIコアと共に2%台を維持も前月から鈍化。

【統治目標の遵守について】

前回:「委員会は、金融政策のゆるやかな調整に伴い経済成長がゆるやかに拡大し、労働市場の状況がさらに一層強まり、インフレは中期的に2%へ向かって安定していくと予想する」

今回:「委員会は1~3月期の成長鈍化が一時的とみなし、金融政策の漸進的な調整に伴い経済成長がゆるやかに拡大し、労働市場の状況がさらに一層強まり、インフレは中期的に2%へ向かって安定していくと予想する」
※米1~3月期GDP速報値の下振れに敢えて言及、一時的との見解を強調。

市場関係者が注目する「暗記的な経済見通しのリスクは、概して均衡」、「委員会はインフレ動向、並びに世界経済や金融動向を注視していく」との文言を維持。

【政策金利について】
FF金利誘導目標を0.75~1.00%で“据え置く”との表現へ変更。

「金融政策のスタンスは緩和的であるがゆえに、労働市場がさらに強まりインフレが継続して2%へ回帰することを支援していく」
※前回から変更せず

【バランスシート政策】
「委員会はインフレの実勢並びに見通しがインフレ目標と対称的に進展していくか注意深く精査していく」
※前回から変更せず、インフレ下振れリスクの後退を示唆。上振れ局面では利上げペース引き上げを表す可能性。

「委員会は、経済動向の進展がゆるやかな利上げを保証すると予想する」
※前回から変更せず

【票決結果】
票決は、2017年の会合では1月に続き2回目の全会一致となる、3月に利上げを決定した時はミネアポリス連銀のカシュカリ総裁が据え置きを求め、反対票を投じた。輪番制である地区連銀総裁の投票メンバーはシカゴ連銀のエバンス総裁、フィラデルフィア連銀のハーカー総裁、ダラス連銀のカプラン総裁、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁となる。なお2016年の全会一致での決定は1月をはじめ6月、12月と8会合のうち3回目のみだった。

次回の6月会合では、バランスシート縮小に照らし合わせ経済見通しを変更してくるのでしょうか?
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(作成;FRBよりMy Big Apple NY)

ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、ニック・ティミラオス記者による「Fedは成長回復を予想、年内あと2回の利上げの軌道を維持(Fed Sees Growth Rebounding, Remains on Track for Two More Rate Rises in 2017)」と題した記事を配信。1~3月期の成長鈍化は一時的要因であり年内あと2回の利上げが予想される一方、バランスシートの縮小をめぐっては5月24日公表の5月FOMC議事録を待たねばならないと伝えた。

大和アメリカ・キャピタル・マーケッツのマイケル・モラン主席エコノミストは、結果を受けて「米1~3月期GDP速報値や個人消費の鈍化にも関わらず経済見通しを変更せず、政策の道筋を変更する示唆も与えなかった」と分析した。インフレ見通しの上方修正も「2%近い水準へ向かうという表現へ変わったが、Fedが注目するコアは2%割れを下回ったままとの評価にとどまった」と指摘。年内あと2回の利上げの方向性で変わらないとの考えを寄せている。

――5月FOMCは、市場予想通り大きな変化を確認しませんでした。とはいえ、景況判断を引き上げ6月利上げの余地を残した格好です。マーケットが熱視線を送るバランスシートの縮小については、FOMC議事録を待つ状況。さすがイエレンFRB議長率いるFOMC、米株が再び最高値を更新する軌道にあるなかでも慎重な政策運営に変わりありません。

(カバー写真:Federalreserve/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年5月7日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。