オープン戦で12球団1位だったプロ野球・ロッテが予想外の不振で最下位にあえいでいる。春先にコケるのは珍しくないが、チーム打率が1割台のまま4月を終えたのはリーグ史上50年ぶりというのは、さすがに異常事態だ。
すでに事実上のオーナーである重光昭夫氏(球団オーナー代行)が父や兄との支配権争いを繰り広げたお家騒動の末に、韓国で刑事被告人になっていることが影を落としている。勝つための補強投資も十分でなく、ロッテファンの鬱憤は溜まりに溜まっており、一部のファンからは「やる気のある会社に経営してほしい」という待望論も出始めた。
チーム打率1割台!「連休は“Golden Weak”だった」の声も
ロッテはソフトバンクとの開幕3連戦を全て落とし、期待の両外国人も攻守に渡って精彩を欠いて早々と二軍落ち。首位打者2度の角中が故障で欠場し、WBC帰りのエース石川も全く勝てず、それでいてチーム打率が2割にも届かないという、テレビゲームでも無いような不振。ゴールデンウイーク中の9連戦(4月28日〜5月6日)は2勝6敗1分。ネット上では「カモメがカモになった」とか「Golden Weakだった」などとヤジが出る始末。オープン戦当時は、WBCで他球団の主力がいなかったとはいえ、あの時の好調ぶりが嘘のような絶不調ぶりだ。
開幕前にOBの里崎さんが警鐘を鳴らしていたが、1992年にオープン戦首位だった時のロッテはシーズンで最下位だった。しかし今年は、その時と比べても投打の不振が尋常でない。92年のチーム打率はリーグ最下位ながら2割4分1厘。同防御率3.82はパ4位。一方、2017年はまだ始まったばかりとはいえ、ともに12球団最下位のチーム打率1割8分5厘、防御率4.38というのは不安が強まるばかりだ。
なお、伝説のプロ野球記録「18連敗」を喫した1998年を想起するファンも多く、あの年もロッテは最下位だったが、意外にもチーム打率はリーグトップの2割7分1厘。防御率はリーグ2位の3.70。そうした過去の最下位シーズンと比べても、2017年の不振が際立っていることがわかるだろう。
ここまでの負けっぷりで、ファンの怒りを買ったのが、本拠地での5月5日のソフトバンク戦だ。八回まで2-0でリードしていながら、九回に2本塁打を浴びて2-3の逆転負け。この2本塁打は、ロッテからソフトバンクに引き抜かれた大砲デスパイネに同点弾を食らうという「資金力の差」を見せつけられただけでなく、売り出し中の高卒4年目・上林に決勝弾を浴びたことで、何年たっても若手のスラッガーを育てきれないロッテとの「育成力の差」まで見せつけられた。これ以上ない屈辱的な敗戦だった。
42年間もシーズン1位なし。親会社の舵取りにも問題?
もちろん、資金力の差で全てが決まるわけではない。日本ハムや広島のように創意工夫で埋めて勝ってきたチームもある。ロッテもこの十数年で2度日本一を遂げているが、ハムや広島と決定的に違うのは、レギュラーシーズンで1位になっての日本一ではないことだ。
この事実を強調すると怒るロッテファンもいるが、ロッテは1974年を最後にレギュラーシーズン1位はない。42年も1位がないのは、広島の25年(1991年→2016年)、横浜(現DeNA)の38年(1960年→1998年)と比べてもブランクが長い。
これほど長期に渡り、レギュラーシーズンを制する力がないというのは、現場の努力不足というよりも、フロントの問題、ひいては球団に対する親会社の舵取りに問題があるとしか言いようがない。
近年も伊東監督が球団に補強を訴えているが、ファンたちのFacebookでの反応を見ていると、フロント側がなかなか投資に踏み切らず、ファンは球団の煮え切らない態度に失望や怒りを隠さなくなった。最近は、親会社の経営能力を疑問視する向きが強まっている。
お金がないならないで、日本ハムや広島、楽天のように育成システムを充実させたり、ITを駆使したデータ戦略を導入したりといった創意工夫をすればいいのだが、ロッテの取り組みが「先進的」との評判は近年あまり報じられなくなった。企業秘密にしている部分もあるとは思うものの、投資もしない、工夫もないという、中途半端な姿勢なために結果が出なくなったように見えてしまい、ファンの不満や不安を増幅させている。
ロッテグループは韓国も含めれば5兆円超規模を誇るだけに、本気で球団を強化しようと思えばできるはずだが、目立った投資が行われてこなかったのは、「宣材」としての球団を活用するインセンティブが、新興球団に比べて弱いからだろう。かつてのオリックスや楽天、DeNAを見れば明らかなように、日本では新興企業が社会的ステータスを得る上でシンボリックなステップが、東証一部上場の次にプロ野球参入と言える。他方、ロッテは球団保有から半世紀近くを経た上、国内菓子市場は飽和状態とあって、本業と球団事業のシナジーにおいて劇的な成果を上げる可能性は見込みづらい。
噂の「ZOZO」球団買収はあるか?財務データをざっと見
ここ最近、ロッテファンやマスコミの間で、マリーンズの買い手候補の筆頭として名前が上がるのがファッション通販サイト「ZOZOタウン」を運営するスタートトゥデイだ。千葉市幕張を本拠にしており、今年からマリンスタジアムの命名権を取得。かつてロッテが、大映からチームの命名権取得を経て球団保有に至った歴史も思い浮かぶが、スタートトゥデイの企業規模的に現実味はあるのだろうか。
近年、球界参入が認められた2004年の楽天と、2011年のDeNAの財務データを見てみると、売上高は楽天が455億円で、DeNAは1127億円。スタートトゥデイは今年3月期で前年比40%増しの763億円と、04年の楽天の規模は上回っている。
球団保有の最低条件としては、赤字を補填し続けるだけの「財力」がまずあること。ただし、スポーツ各紙が毎年報じる球団の赤字は、野球記者たちに会計の知識がないまま記事化しているため、この赤字が「営業損失」なのか「経常損失」なのか「純損失」なのか判別が難しいが、経営をスリム化した昨季は5億程度、年俸1億円以上のプレイヤーが何人もいた2009年ごろの赤字は数十億程度だったようなので、球団の売上が伸び悩む中で、ある程度の補強をするなら毎年20〜30億程度は最低補填すると想定する。加えて、楽天とソフトバンクが参入した時と同じ条件なら、25億円の預かり保証金と5億円の入会金をNPBに10年間預けなければならず、初期費用もかさむ。
「懐事情」の参考となるキャッシュフロー(現金及び現金同等物の期末残高)は楽天(2004年)が323億円、DeNA (2011年)は626億円。スタートトゥデイ(2016年)は221億円と少し見劣りする。ただ、投資意欲の参考として広告宣伝費に注目すると、楽天(04年)は21億円で、スタートトゥデイ(16年)は29億。これら帳簿上の数字だけを見れば、スタートトゥデイは参入に名乗りを上げるだけの力は備えつつあると言える。
球団保有後の業績では、DeNA(2012年)は前期比29%アップの1457億円。楽天(2005年)は前期比184%増の1297億円と大きく飛躍。いずれも球団保有で知名度を高めたことが業績拡大に貢献したと言える。一方、スタートトゥデイにとっては、日本のファッションEC市場の拡大が引き続き見込まれていることから(経産省推計で2020年には2013年比85%増の2.6兆円)、球団保有による知名度上昇とブランディングを起爆剤にできる環境といえる。
球団保有なら社名変更か
もし、スタートトゥデイが球団を保有するなら、かつてのオリックスの時と同じく社名変更が有効かもしれない。商品名は使えないため、DeNA参入時に“モバゲー・ベイスターズ”が認められなかったが(野球協約には明文化されていないが、内規が存在するとの情報が2011年にあった)、サイト名と社名を統一し、“千葉ZOZOマリーンズ” とする方が本業とのシナジー効果を一層高められそうだ。
それにしても、スタートトゥデイの球団保有に現実味が生じていることに隔世の感を覚える。2010年に球場名の命名権に初めて名乗りを上げた当時は、一企業の宣伝活動でありながら、市民からの署名活動を募るという意味不明な企画を展開し、千葉市やマスコミなどの関係者が「本気で命名権を買う気がなく、ただの話題作りじゃねーの」と眉をひそめたものだが、いまやそんな“小細工”を弄する必要は全くないだけの存在感と業績を誇るまでになった。
前沢友作社長の交際相手と言われ、ダルビッシュ投手の元妻であるタレント氏が球場にしゃしゃり出て芸能マスコミを騒がせる事態はあるかもしれないが、リスクというほどのことはあるまい。
以前から絶えない身売り話の今後は気になりつつも、まずは極度の不振にあえぐ現場の選手たちが身売りの観測を打ち消すだけの奮起ができるのか。心から期待している。